雑穀(ミレット)は栄養価の高さやグルテンフリーであることから、近年世界的に注目を集めている穀物です。発酵によって雑穀の栄養や機能性が高まる可能性を示す研究はこれまでにも報告されてきましたが、雑穀を使った発酵食品そのものについては、まだ十分に解明されていない部分が多いとされています。インドでは伝統的に、雑穀を使って自然発酵させた飲料が作られてきました。しかし、こうした飲料の中でどのような微生物が働いているのかは、これまであまり詳しく分かっていませんでした。
そこで今回紹介する研究では、雑穀を原料とした発酵飲料の微生物組成を、複数の雑穀の種類で比較する試みが行われました。使用されたのは、パールミレット(PM)、コドミレット(KM)、バーンヤードミレット(BM)、リトルミレット(LM)、フィンガーミレット(FM)という5種類の雑穀です。飲料の作り方は、インドの伝統的な発酵飲料「コジュ(koozh)」の製法を参考にしたとされています。
研究でわかったこと
研究チームは、16Sアンプリコンシーケンシングという手法を用いて、5種類の雑穀それぞれから作られた発酵飲料に含まれる細菌の種類や割合を調べました。その結果、いずれの飲料でも「門」というより大きな分類レベルではFirmicutes(フィルミクテス門)とProteobacteria(プロテオバクテリア門)という2つのグループが優勢を占めていることが分かりました。ただし、その比率は使用した雑穀の種類によって異なっていたと報告されています。
さらに詳しい「属」というレベルで見ると、多くの飲料でWeissella(ワイセラ属)という細菌が最も優勢な菌として検出されました。興味深いことに、リトルミレット(LM)を使った飲料だけは、この傾向とは異なっていたとされています。
また、細菌の種類や割合に雑穀ごとの違いが見られた一方で、PICRUSt(ピクラスト)という解析手法を用いて微生物が持つ機能を推定したところ、飲料間で機能的な特性は比較的安定していたことが示唆されました。つまり、飲料に含まれる細菌の顔ぶれは雑穀の種類によって変わっても、それらの細菌が担う働き全体としては共通する部分が多かったということになります。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
本研究は、雑穀を発酵の基質として用いた際の微生物群集を比較した基礎的な取り組みと位置づけられており、特に乳酸菌の生育の場としての雑穀の可能性を探るための土台になるとされています。今回紹介した内容は要旨に基づくものであり、実験の詳細な条件や統計的な検証方法、飲料の風味や安全性への影響などについては、要旨だけでは分かりません。また、これは一つの研究であり、得られた知見が他の条件や雑穀の品種にもそのまま当てはまるかどうかは、今後さらなる研究による検証が必要と考えられます。
まとめ
この研究では、5種類の雑穀を使って伝統的なインド発酵飲料コジュを模した飲料を作り、それぞれの細菌群集を比較しました。使用する雑穀の種類によって優勢な細菌の割合や種類には違いが見られたものの、Weissella属が主要な菌として検出されるケースが多く、また細菌が持つ機能的な特性については雑穀の種類によらず比較的安定していたことが示唆されています。発酵食品における雑穀の可能性を探るうえで、興味深い手がかりを示す研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:インド発酵飲料における細菌群集構造に対する雑穀種の影響の解明(フード・セーフティ・アンド・ヘルス・2025年07月)