この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:European Food Research and Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
捨てられる「種」に目を向ける
アサイーはアマゾン地域で広く育つヤシ科の樹木の果実で、ブラジルでは2024年の生産量が174万1757トンに達し、なかでもパラー州が世界最大の産地として知られています。ただし果実のうち食用となる果肉はわずか1割ほどで、残りの約9割は種が占めます。論文によれば、パラー州では搾汁後に出るアサイーの種が1日あたり365トンを超えて廃棄されており、埋立地への投棄や空き地・湖岸への放置によって浸出液の発生や水域の富栄養化といった環境問題を招きうると指摘されています。
著者らは、この「農産加工の残さ」を粉(フラワー)に加工したうえで、その物理化学的・機能的・構造的な性質を総合的に調べることを研究の目的としました。廃棄物を価値のある材料として社会に戻す循環型経済の考え方に沿って、食品の栄養強化をはじめ、さまざまな産業分野で使える持続可能な素材になりうるかを見極めようという狙いです。研究チームは、アサイーの種についてこうした包括的な特性評価を行った研究はまだ限られている、と述べています。
種を粉にして、成分・働き・構造を測る
原料となる種はブラジル・アマパー州の農林産物生産者協同組合から10キログラム分を入手しました。硬い殻の破片が付いたものや傷んだものを取り除き、表面の繊維質の層をはがしてから次亜塩素酸ナトリウム溶液で15分間殺菌し、水洗いします。その後50℃の熱風乾燥機で48時間乾かし、粉砕してふるいにかけ、およそ125マイクロメートルより細かい粒子からなる粉を得ました。
得られた粉に対して、大きく三つの角度から分析が行われています。第一に成分の分析で、たんぱく質・脂質・水分・灰分(無機質の総量)を公定法で測り、炭水化物は差し引きで算出しました。あわせて、脂肪の種類の内訳(脂肪酸組成)をガスクロマトグラフィーで、ミネラルの量をICP発光分光分析で調べ、さらに色の測定、見かけの密度(一定の体積あたりの重さ)、原料に対して何%の粉が得られるかという歩留まりも求めています。
第二に機能性の分析です。植物に含まれるポリフェノール類(フェノール化合物)を抽出して高速液体クロマトグラフィーで種類ごとに定量し、加えてDPPH法とABTS法という二つの試験で抗酸化活性、すなわち活性の高い物質(ラジカル)を打ち消す働きの強さを調べました。第三に構造の分析として、走査型電子顕微鏡で粉の表面の形を観察し、赤外分光法(FTIR)で分子内のどのような結合が含まれるかを確かめています。
報告された主な結果
成分の面では、乾燥重量あたりの炭水化物が90.2 g/100 gと大部分を占め、たんぱく質4.5 g/100 g、脂質4.0 g/100 g、灰分1.2 g/100 g、水分は9.0 g/100 gでした。著者らは、水分については穀物由来のでんぷんやふすま、粉類に対してブラジルの法令が定める上限15 g/100 gに収まる値だとしています。脂肪酸の内訳では飽和脂肪酸が59.7%、不飽和脂肪酸が40.3%で、個別にはミリスチン酸26.5%、オレイン酸19.8%、リノール酸19.2%、パルミチン酸17.9%などが主要なものとして検出されました。ミネラルではカリウムが380.45 mg/100 gで最も多く、リン130.41 mg/100 g、マグネシウム42.14 mg/100 g、カルシウム37.41 mg/100 g、マンガン13.33 mg/100 g、鉄11.11 mg/100 gが続いています。
扱いやすさに関わる性質も測られました。明るさを示すL*値は70.23で、論文では小麦全粒粉について報告されている値(おおむね35〜51)と比べて明るい色調だと述べられています。a*値18.95、b*値26.76で、色相角は54.69°と黄〜オレンジ系の領域にあり、アサイー果肉のような濃い紫ではないものの、残った天然色素に由来する独特の色味をもつと説明されています。見かけの密度は0.56 g/cm³で「中程度の密度」に分類され、歩留まりは44.1%でした。著者らは、比較対象としたウンブの種の粉(28.2〜32.5%)より高い値だとしています。
ポリフェノールは23種類が同定され、合計で661.86 mg/kgでした。最も多かったのはエピガロカテキンガレート(328.27 mg/kg)で、次いでエピカテキン(128.88 mg/kg)、プロシアニジンB2(41.51 mg/kg)、プロシアニジンB1(30.91 mg/kg)、ナリンゲニン(27.43 mg/kg)などが挙げられています。抗酸化活性の試験では、抽出液がDPPHラジカルの95.9%、ABTSラジカルの90.3%を消去しました。ただし著者らは、この測定が抽出できた分のポリフェノールをおもに反映している点に注意を促し、食物繊維が豊富なこうした材料では相当量のポリフェノールが組織成分と結びついたまま残っている可能性があるため、画分ごとの検討が今後必要だと述べています。
構造の観察では、電子顕微鏡像から左右対称ではない繊維状の構造が見え、これはセルロースやリグニンを含む植物由来材料(リグノセルロース材料)に特徴的な姿だと説明されています。赤外分光では、セルロース・ヘミセルロース・リグニンに由来する水酸基の伸縮振動、糖鎖に見られるC–H伸縮、ヘミセルロースなどのカルボニル基に対応する吸収などが確認され、繊維質を主体とする組成と整合する結果が得られました。
この研究が示すこと
この研究は、これまで廃棄物として扱われてきたアサイーの種が、成分・色や密度といった扱いやすさ・ポリフェノールの含有量・繊維質の構造という複数の側面から見て、素性のはっきりした一つの素材として記述できることを示しました。著者らは、こうした特性評価が、食品の栄養強化をはじめとする価値ある用途へ残さを戻していく循環型経済の考え方につながるものだと位置づけています。捨てられていたものの中身を丁寧に測って記録する作業が、その先の利用を考えるための出発点になる——この研究が伝えているのは、そうした地道な一歩の意味です。
著者:Carolini Bravo Trindade Bordulis(Laboratory of Microbiology and Biochemistry, College of Chemistry and Food Engineering, Federal University of Rio Grande, Rio Grande, Brazil)、Luiza Moraes(Laboratory of Biochemical Engineering, College of Chemistry and Food Engineering, Federal University of Rio Grande, Rio Grande, Brazil)、Jorge Alberto Vieira Costa(Laboratory of Biochemical Engineering, College of Chemistry and Food Engineering, Federal University of Rio Grande, Rio Grande, Brazil)、Marciane Magnani(Laboratory of Microbial Processes in Foods, Department of Food Engineering, Federal University of Paraíba, João Pessoa, Brazil)、Marcos dos Santos Lima(Laboratório de Tecnologia de Bebidas, Departamento de Tecnologia em Alimentos, Instituto Federal do Sertão Pernambucano, Petrolina, Brazil)、Michele Greque de Morais(Laboratory of Microbiology and Biochemistry, College of Chemistry and Food Engineering, Federal University of Rio Grande, Rio Grande, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Carolini Bravo Trindade Bordulis, Luiza Moraes, Jorge Alberto Vieira Costa, et al. Valorization of Amazonian açaí agro-industrial residues through functional flour production: a circular-economy approach for sustainable applications. European Food Research and Technology 2026-08-24. DOI: 10.1007/s00217-026-05220-7. 原著ライセンス:CC BY.