著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:npj Science of Food

ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

飲み込む力が弱くなった方向けの食品では、噛みやすさや飲み込みやすさを保ちながら、食品としての形やなめらかさも損なわない「ゲル状の食感」をどう作るかが大きな課題になります。とろみ剤や増粘剤を一種類だけ使う方法では、硬さや弾力性といったゲル全体の性質を思い通りにコントロールするのが難しい場合があるとされています。今回紹介する研究では、複数の多糖類とタンパク質を組み合わせることで、より安定した食感のゲルを作れないかが検討されました。

研究でわかったこと

研究チームは、発酵によって作られる多糖類・タンパク質複合ゲルの開発に取り組みました。使われたのは「高アシルジェランガム(HA-GG)」と「ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)」という、いずれも食品添加物として利用が認められている多糖類です。まず、中国の食品添加物規格(GB 2760-2014)で認められている候補となる多糖類12種類をスクリーニング(ふるい分け)し、そのすべての基準を満たしたのがこのHA-GGとHPMCの組み合わせだったと報告されています。

続いて、まず一つずつ条件を変える実験(単一要因実験)を行い、その後「三要因・四水準のL16直交実験計画」という統計的な手法を用いて、配合の割合と発酵時間の組み合わせを効率よく最適化しました。その結果、HPMC 0.3重量%、HA-GG 0.3重量%、発酵時間13時間という条件が最も良好とされ、配合比率と発酵時間の三つの要因すべてが、ゲルの性能に有意な影響を与えることが示されました。

さらに詳しく調べたところ、多糖類の配合量が適度な範囲であればゲルの硬さが増す一方、配合量を増やしすぎるとかえって硬さが低下する傾向が確認されたとのことです。レオロジー(粘弾性)解析では、いずれの配合条件でも、ゲルが弾性的な性質を優位に示すことが確認されました。また走査型電子顕微鏡による観察では、多糖類が適度な量のときにはゲルの網目構造がより連続的でつながりの良いものになる一方、量が多すぎる場合には構造が密になりすぎることが明らかになったと報告されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、あくまで実験室レベルでの複合ゲルの配合と特性を検討したものであり、実際の食品として広く使われることや、嚥下障害のある方への効果を直接確認したものではない点に注意が必要です。あくまで一つの研究であり、ゲルの構造や物性についての知見が得られた段階といえます。研究チームは、多糖類とタンパク質のネットワーク構造のバランスが、安定した発酵ゲルを合理的に設計するうえで重要であることが示唆されるとまとめています。

まとめ

今回の研究では、高アシルジェランガムとヒドロキシプロピルメチルセルロースを組み合わせた発酵ゲルにおいて、配合比率と発酵時間を最適化することで、硬さや網目構造といったゲルの性質を制御できる可能性が示されました。今後、こうした知見が嚥下障害対応食品などの分野でどのように応用されていくのか、続報が注目されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):嚥下障害対応食品向け多糖類・タンパク質複合ゲルの開発と特性評価(エヌピージェイ・サイエンス・オブ・フード・2026年05月)

原著論文の著者・所属:M L Chen(Clinical Medicine College, College of Traditional Chinese Medicine, Mianyang, China)、Yi Cheng(Department of Clinical Nutrition, West China Hospital, Sichuan University, Chengdu, China)、Juan Duan(Department of Clinical Nutrition, West China Hospital, Sichuan University, Chengdu, China)、Zhengyun Shang(Department of Clinical Nutrition, West China Hospital, Sichuan University, Chengdu, China)、Hu W(Department of Clinical Nutrition, West China Hospital, Sichuan University, Chengdu, China)、Ying Liu(Department of Clinical Nutrition, West China Hospital, Sichuan University, Chengdu, China. [email protected])