この研究は、ベトナム、台湾の研究機関の研究論文です。
掲載誌:OpenAlex
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜこの研究が行われたのか
ミニトマトは収穫後も熟成が進みやすく、色づきや水分の減少、酸味の低下といった変化が短期間で進んで品質が落ちてしまいます。著者らは、この収穫後の品質劣化を抑える処理を探るために本研究を行いました。
注目したのは、植物にも自然に存在する物質メラトニンです。論文では、メラトニンを果物や野菜に外から与えると熟成や老化が遅れ、重量の減少が抑えられるといった報告がこれまでにあることが紹介されています。ただし著者らは、メラトニンは光や高い温度、不適切なpHのもとで分解しやすく、そのままでは扱いにくいという課題を挙げています。
そこで用いられたのがβ-シクロデキストリンです。これは糖が環状につながった分子で、外側は水になじみやすく、中央のくぼみは水になじみにくいという構造をもちます。このくぼみに相手の分子を抱き込む形で「包接複合体」と呼ばれる組み合わせをつくることができ、包み込まれた成分は安定しやすくなります。メラトニンには水になじみにくいインドール環という部分があり、この構造がβ-シクロデキストリンのくぼみに収まりやすいと著者らは説明しています。メラトニンとβ-シクロデキストリンの複合体自体はこれまでも研究されてきましたが、収穫後の保存に使う試みはほとんど知られていない、というのが著者らの出発点です。
何をどのように調べたか
著者らはまず、メラトニンとβ-シクロデキストリンを1対1の割合で混ぜた溶液を凍結乾燥し、複合体の調製物をつくりました。比較のために、両者を乾いた状態で単に混ぜ合わせただけの「物理混合物」も用意しています。両者の違いを確かめるため、赤外分光法(FTIR)とX線回折(XRD)という二つの分析が行われました。
FTIRは分子の結合が特定の波長の赤外線を吸収する性質を利用して、成分どうしが相互作用しているかを調べる方法です。論文によれば、物理混合物ではメラトニン特有の吸収がそのまま残っていた一方、凍結乾燥した調製物ではメラトニン由来の吸収が見えにくくなるなどの変化が現れました。XRDは結晶の並び方を調べる方法で、メラトニンは本来はっきりした結晶性を示しますが、凍結乾燥した調製物ではそのピークが弱まったり消えたりし、結晶性の低い状態へ変わっていたと報告されています。著者らはこれらを合わせて、単なる混合物とは異なる包接複合体ができた証拠としています。
保存試験では、色づき始めの段階(ブレーカー期)にある大きさや色のそろったミニトマトを選び、次の五つの溶液のいずれかに30分浸しました。蒸留水(対照)、メラトニン単独(100 μmol/L)、β-シクロデキストリン単独(100 μmol/L)、メラトニン/β-シクロデキストリン複合体の溶液(メラトニン濃度は表示上100 μmol/L)、そして物理混合物の溶液です。処理後は穴を開けたポリエチレン袋に入れ、常温(30±2 °C)と冷蔵(10±1 °C)の二つの条件で16日間保存しました。
保存中は4日ごとに、色の変化、重量の減少、可溶性固形分(主に糖や有機酸で、おおまかな甘みの指標として°Brixで表されます)、滴定酸度(有機酸の量、酸味の指標)、赤色色素のリコペン、β-カロテン、そして総ポリフェノール量が測定されました。さらに、多くの測定項目をまとめて全体像をつかむために主成分分析(PCA)も用いられています。
主な報告結果
保存日数が進むにつれて、どの処理区でも色の変化が大きくなり、可溶性固形分とリコペン・β-カロテンは増え、酸度とポリフェノール量は減りました。著者らは、これが熟成が続いていることを示すと述べています。そのうえで、変化の速さが処理によって違いました。
重量の減少では、16日目の対照区が常温で約14%、冷蔵で約8.0%でしたが、複合体で処理した果実は常温で約8%、冷蔵で約3.5%にとどまり、対照区と比べておよそ43%と56%の低減にあたると報告されています。色の変化(ΔE*)も16日目には、常温で対照区の約16に対し複合体処理は約9、冷蔵では約10に対し約7でした。
可溶性固形分は16日目の対照区で常温約14 °Brix、冷蔵約10 °Brixに達しましたが、複合体処理ではそれぞれ約10、約8にとどまりました。酸度については、常温16日目で対照区が約0.12%まで下がるのに対し複合体処理は約0.16%、冷蔵では約0.17%に対し約0.22%を保っていました。色素では、常温16日目のリコペンが対照区の約0.10 mg/g FWに対し複合体処理は約0.05 mg/g FW(約50%の低減)、β-カロテンは約0.16 mg/g FWに対し約0.055 mg/g FWでした。
処理ごとの比較では、遊離のメラトニン単独でも対照区より変化がゆるやかになり、β-シクロデキストリン単独や物理混合物でもある程度の効果はみられたものの、その差はより小さいものでした。最も変化を抑えたのは複合体の処理で、著者らはこれを、単に両成分が同時に存在するだけでなく複合体が形成されたことによる上乗せ分だと位置づけています。主成分分析では、冷蔵保存にすると全処理区で品質の変化が全体として遅くなり、複合体処理と対照区の違いは常温条件でよりはっきり分かれて現れました。
なぜ複合体のほうが効果的だったのかについては、著者らは論文中で説明の候補を挙げています。β-シクロデキストリンがメラトニンを分解から守る可能性、そして結晶になりにくい状態に保つことで果実表面で利用されやすくなる可能性です。ただしこれは既存の知見に基づく解釈であり、β-シクロデキストリンとの複合化がトマトの組織へのメラトニンの取り込みを実際に高めるのかを確かめるには、組織中のメラトニン量を直接測る研究が必要だと著者ら自身が述べています。また、β-シクロデキストリン単独でも色の変化が遅れた点については、その仕組みは分かっていないとしています。
この研究が示すこと
この研究は、収穫後のミニトマトに対して、メラトニンをβ-シクロデキストリンで包み込んだ形で使うと、そのまま使う場合よりも保存中の色・重量・可溶性固形分・酸度・色素・ポリフェノールの変化を抑えられたことを報告しています。
成分をどう届けるかという「包み方」の工夫が、成分そのものの選択と同じくらい結果に影響しうることを示した点が、この報告の要点といえます。
著者:Cam Thi Hong Tran(Ho Chi Minh City University of Industry and Trade, Ho Chi Minh, Vietnam)、Dong Thanh Tien(Ho Chi Minh City University of Industry and Trade, Ho Chi Minh, Vietnam)、Nguyen Phuoc Hoai(Ho Chi Minh City University of Industry and Trade, Ho Chi Minh, Vietnam)、Le Ngoc Hy(Ho Chi Minh City University of Industry and Trade, Ho Chi Minh, Vietnam)、Chia‐Hung Kuo(National Kaohsiung University of Science and Technology, Kaohsiung, Taiwan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Cam Thi Hong Tran, Dong Thanh Tien, Nguyen Phuoc Hoai, et al. Effects of Melatonin/β-cyclodextrin Treatment on Physicochemical and Bioactive Attributes of Cherry Tomatoes during Storage. OpenAlex 2026-09-28. DOI: 10.3897/sti.e212043. 原著ライセンス:CC BY.