この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

石油由来の包装材を減らしつつ、生鮮食品の品質低下を遅らせる「生分解性の機能性包装」が求められています。多糖類からつくるフィルムは再生可能な材料ですが、水になじみやすいため水蒸気などを通しにくくする性能が落ちやすく、強度も不十分になりがちだと研究チームは整理しています。

この研究が扱った材料は三つです。キトサン四級アンモニウム塩(HACC)は、キトサンを化学的に修飾して幅広い酸性・中性条件で水に溶けたまま抗菌性を保てるようにしたもので、連続したフィルムをつくりやすい素材です。プロポリスはポリフェノール類を含み、抗酸化性と抗菌性をもたらします。オレガノ精油は抗菌性がありますが水に分散しにくく、フィルム作製中や保存中に揮発して失われやすいという難点があります。

そこで著者らは、精油を微細な油滴として水中に安定に分散させる「ピカリングエマルション」に注目しました。これは界面活性剤ではなく固体の微粒子が油と水の境界に吸着して油滴を安定化させる仕組みです。安定化剤にはTEMPO酸化セルロースナノフィブリル(TOCNF、セルロース表面の一部を負に帯電したカルボキシ基に変えた極細繊維)と、正に帯電した抗菌ペプチドのナイシンを組み合わせました。この負・正の組み合わせによる界面が、HACCとプロポリスからなるフィルムの中でどう働くかを明らかにすることが本研究の課題です。

何をどのように調べたか

研究は二段階に分かれています。まず粒子の組成を絞り込む段階として、TOCNFとナイシンの混合粒子のうちナイシンが占める割合を0%から35%まで変えてオレガノ精油を乳化し、油滴の大きさ、粒径のばらつきを示す指標(PDI)、粒子表面の電位、精油をどれだけ包み込めたかを示す封入率などを比較しました。

次にフィルム作製の段階です。選ばれたエマルション(TNOと表記)を、HACCとプロポリス抽出液からなる溶液に対して0%、20%、30%、40%、50%の体積割合で加え、乾燥させてフィルムをつくりました。プロポリスは、塩化コリンと乳酸を組み合わせた深共晶溶媒(常温付近で液体になる混合溶媒)で抽出しています。

得られたフィルムについて、見た目と不透明度、厚み、引張強度と伸び、水蒸気および酸素の透過性、水滴の接触角(表面の水のはじきやすさ)、赤外分光や電子顕微鏡による構造観察、抗酸化能、大腸菌と黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を測定しました。さらに、未熟な緑色のミニトマトを各フィルムで覆った容器に入れて25℃・湿度80%前後で12日間保存し、重量減少、硬さ、可溶性固形分、滴定酸度の変化を追跡しました。比較対照にはポリエチレン(PE)フィルムを用いています。

報告された主な結果

エマルションでは、ナイシンの割合が25%のときに油滴が最も小さく(約1マイクロメートル)、粒径のばらつきが最小(PDI 0.15)、封入率が最高(88.0%)となり、この配合がフィルム用に選ばれました。ナイシンを加えないときの封入率は40.0%でした。

フィルムの性質は、エマルションの配合量によって大きく変わりました。引張強度はエマルションなしの15.93 MPaから30%配合で45.18 MPa(約184%増)まで高まり、その後は40%で33.66 MPa、50%で20.07 MPaと低下しました。一方で伸びは65.35%から50%配合の28.11%へと単調に減少し、強くなるほど伸びにくくなる傾向が見られました。

気体や水分の通しにくさは40%配合で最も良く、水蒸気透過度は0.230から0.127へ、酸素透過度は3.85から2.03へ低下しました。50%配合ではわずかに戻っています。著者らは、断面の電子顕微鏡観察で50%配合のフィルムがより多孔質で不均一だったことが、この揺り戻しの説明になりうるとしています。水の接触角は72.4°から40%配合の98.6°まで上がり、表面が水をはじきやすくなりました。

抗酸化性と抗菌性は配合量が多いほど高くなりました。ABTS法によるラジカル消去率は50%から90%へ、DPPH法では45%から88%へ上昇しました。抗菌率は大腸菌で約27%から80%超へ、黄色ブドウ球菌で15.9%から84.1%へと高まっています。ただし著者らは、ナイシンのみ、精油のみといった単独成分のフィルムを比較対象に含めていないため、成分間の相乗効果があったとまでは言えないと明記しています。

ミニトマトの保存試験では、すべての区で重量減少が進みましたが、エマルションを含むフィルムでは増加が抑えられ、50%配合が12日目に最も低い値でした。硬さも40%と50%配合でPEやエマルションなしのフィルムより高く保たれ、可溶性固形分と酸度の変化も緩やかでした。もっとも著者らは、この効果を水分バリアだけに帰することはできず、放出された成分の働きと切り分けることはできないと述べています。

この研究が示すこと

この研究で興味深いのは、「最も良い配合」が一つに定まらなかった点です。引張強度は30%配合、バリア性は40%配合、抗酸化・抗菌性と鮮度保持は50%配合で最も高く、それぞれの最適値がずれていました。著者らは、どの配合を選ぶべきかは包装に何を期待するかによって決まると結論づけています。

また論文は、得られた結果が実験室でフィルムを流し込んで乾燥させた条件でのものである点を繰り返し強調しています。抗酸化能の測定はメタノール抽出物によるもので、実際の包装内で成分がどれだけ放出され利用可能かを直接示すものではないこと、香りや味への影響を調べる官能評価は行っていないこと、食品と接触して使うには成分の移行試験や規制適合の確認が必要であることが、著者ら自身によって限界として挙げられています。

負に帯電したナノセルロースと正に帯電した抗菌ペプチドを組み合わせて精油を安定化させ、それを多糖フィルムに取り込むという設計が、機械的性質から鮮度保持までを配合量で調整しうることを、この研究は実験室規模で具体的に示しました。

著者:Keying Hou(College of Food Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Shengsi Hu(College of Food Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Chenfeng Yu(College of Food Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Kang Tu(College of Food Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Xiaodong Zheng(China Technology and Research Center for Storage and Processing of Fruit and Vegetables, Jinan 250220, China)、Ye Song(China Technology and Research Center for Storage and Processing of Fruit and Vegetables, Jinan 250220, China)、Leiqing Pan(College of Food Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Keying Hou, Shengsi Hu, Chenfeng Yu, et al. TOCNF/Nisin-Stabilized Oregano Oil Pickering Emulsions Enhance Chitosan Quaternary Ammonium Salt/Propolis Films for Green Cherry Tomato Preservation. Foods 2026-09-19. DOI: 10.3390/foods15183327. 原著ライセンス:CC BY.