この研究は、中国、タイの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

ナマコは中国で広く養殖されている海産動物で、下処理や加熱を済ませた「即食ナマコ(RTE-SC)」として流通しています。著者らによれば、生のナマコは自己消化(体内の酵素が自らの組織を分解する働き)が強く、収穫や輸送の刺激で体壁が崩れやすいため、加工品は冷凍保存と低温物流に頼ってきました。

そこで研究チームは、常温での保存期間を延ばし品質を安定させる手段として、生物由来の「活性包装」材料に着目しました。論文が立てた仮説は、褐藻から取り出した抽出物をゼラチンとキトサンの混合膜に機能性の充填材として加えることで、水素結合や疎水的な相互作用による安定した立体網目構造ができ、膜の強度や遮断性を保ちながら、抽出物のポリフェノール成分が酸化を抑え表面での細菌増殖を抑制する、というものです。

何をどう調べたか

まず、コンブ(Laminaria japonica)とヒジキ(Hizikia fusiformis)の乾燥品を粉末にし、濃度の異なるエタノール(60・70・80%)で抽出しました。得られた抽出物について、抽出率、総ポリフェノール量、総フラボノイド量、DPPHとABTSのラジカル消去能および鉄還元能(FRAP)といった抗酸化の指標を測り、大腸菌と黄色ブドウ球菌に対する最小発育阻止濃度(MIC)と最小殺菌濃度(MBC)を調べています。含まれる成分は液体クロマトグラフィー質量分析で推定しました。

次に、ゼラチンとキトサンの配合比と抽出物の添加量(0・0.5・1.0%)を変えた9種類の膜を作り、色や光の透過率、厚み、引張強度、破断伸び、水蒸気透過性、赤外分光、電子顕微鏡観察、熱重量分析によって特性を比較しました。最後に選んだ膜で即食ナマコを包み、市販のPVCフィルムを対照として25 °Cで5日間保存し、テクスチャー、TCA可溶性オリゴペプチドやグリコサミノグリカン、pH、揮発性塩基窒素(TVB-N、鮮度の目安)、TBARS(脂質酸化の目安)、生菌数を測る設計としています。

報告された主な結果

抽出条件では60%エタノールが最も良く、抽出率はコンブで3.16±0.15%、ヒジキで6.26±0.17%と報告されています。この条件での総ポリフェノール量は16.40±0.24 mg/g、総フラボノイド量は141.25±4.51 mg/gでした。抗酸化活性はヒジキ抽出物がコンブより有意に高く、DPPHが184.26±0.33 μmol/g、ABTSが1133.01±17.94 μmol/g、FRAPが10.81±0.22 μmol/gでした。著者らは、ABTSの値がDPPHより高くFRAPが低い点から、この抽出物の働きはラジカルを直接消去する経路が主で、金属イオンの還元による経路の寄与は比較的小さいと解釈しています。

抗菌性では、ヒジキ抽出物が黄色ブドウ球菌に対してMIC 1.56 mg/mL、MBC 6.25 mg/mLを示し、コンブ(MIC 6.25 mg/mL、MBC 25 mg/mL)より低い濃度で効きました。一方、大腸菌に対しては両者とも効果が弱く、著者らはグラム陰性菌の外膜が成分の取り込みを妨げる構造的な違いによると説明しています。成分推定では、ヒジキで22種類、コンブで23種類の化合物が暫定的に同定されました。

膜の性質としては、抽出物を加えると緑がかって色が濃くなり、明るさが下がって全体の色差が大きくなりました。透明度は下がる一方、200〜290 nmの紫外線をほとんど通さなくなり、紫外線を遮る力が高まりました。厚みは0.023〜0.029 mmの範囲で、水蒸気透過性は抽出物の増加とともに有意に上昇しました。引張強度は添加量0.5%で最大13.97±1.65 MPaとなり、それを超えると低下しました。赤外分光の結果から、著者らは抽出物と膜の相互作用が主に水素結合による非共有結合的なものだと述べています。これらの釣り合いを踏まえ、破断伸び114.52±6.09%、水蒸気透過性6.09±0.13×10⁻¹¹ g m⁻¹ s⁻¹ Pa⁻¹、引張強度8.04±0.12 MPaを示したG3.3:C0.2−0.5%の配合が、即食ナマコの保存試験に用いる最適な膜として選ばれました。熱重量分析では、抽出物を含む膜のほうが分解後の残存質量が多く(約18%対約14%)、熱的な安定性が高いと報告されています。

この研究が示すこと

この研究は、身近な養殖褐藻から取り出した抽出物を食べられる高分子の膜に組み込むことで、色や透明度、強度、水蒸気の通りやすさといった性質の間に生じる釣り合いを見極めながら、抗酸化性と抗菌性をもつ包装材を設計できることを具体的に示しています。抽出する海藻の種類や溶媒の濃度、配合比によって膜の働きが変わるという報告は、こうした活性包装を組み立てる際の手がかりになります。著者らは、この成果が即食ナマコの常温流通と、加工現場が抱える負担の軽減に向けた理論的な示唆を与えるものと位置づけています。

著者:Zhou Y(Dalian Xinghai Bay Laboratory, Dalian 116023, China.; College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China.)、Wei Y(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China.)、Huo J(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China.)、Xu L(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China.)、Li M(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China.)、Benjakul S(International Center of Excellence in Seafood Science and Innovation, Faculty of Agro-Industry, Prince of Songkla University, Hat Yai 90110, Thailand.)、Fan X(Dalian Xinghai Bay Laboratory, Dalian 116023, China.; College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhou Y, Wei Y, Huo J, et al. Application of Gelatin/Chitosan Films Loaded with Seaweed Extract of Ready-to-Eat Sea Cucumbers Preservation During Ambient-Temperature Storage. Foods (Basel, Switzerland) 2026-09-14. DOI: 10.3390/foods15183246. 原著ライセンス:CC BY.