から揚げやフライの衣は、揚げている間に水分が蒸発して多孔質な構造になり、あのサクサクとした食感が生まれます。この水分蒸発の速さや衣の構造は、使う油の性質によって変わることが知られていますが、なぜ油の違いがそうした差を生むのかは十分に解明されていませんでした。今回、フード・ハイドロコロイズ誌(2026年7月掲載予定)に発表された研究では、油に界面活性剤を加えることで、揚げ物のバッター(でん粉が糊化した衣の生地)からの水分蒸発がどのように促進されるのかを、界面張力や気泡の観察、衣の多孔構造の分析といった複数の角度から調べています。
油に界面活性剤を加えると何が変わるのか
研究チームは、界面活性剤を加えていない油(Oil free)、親油性(脂に馴染みやすい)の界面活性剤を加えた油(Oil lipo)、親水性(水に馴染みやすい)の界面活性剤を加えた油(Oil hydro)の3種類を比較しました。まず界面張力を測定したところ、親油性・親水性いずれの界面活性剤も、水と油の間の界面張力を大きく低下させることが確認されました。さらに親水性の界面活性剤は、空気と水の間の界面張力も低下させていました。一方、空気と油の間の界面張力については、界面活性剤の有無による違いはほとんど見られなかったということです。
次に、実際の揚げ工程を模した「疑似フライ過程」で、糊化したバッターの表面から発生する水蒸気の気泡を観察しました。すると、親水性界面活性剤を加えたOil hydroでは、バッター表面を覆う気泡の数が少なく、代わりに油の中を浮かび上がっていく気泡が多く見られたということです。これに対し、Oil freeやOil lipoでは、気泡がバッター表面に留まりやすい傾向がありました。研究チームは、気泡がバッター表面を突き破って油の中へ抜けていくには、気泡が十分に大きくなり浮力を得る必要があると考察しており、Oil hydroでは空気と水、水と油の両方の界面張力が低いことが、気泡の発生と成長を促していると説明しています。
衣の内部構造と含油量への影響
揚げ上がった衣の内部構造をX線CT(コンピュータ断層撮影)で解析したところ、Oil hydroで揚げたサンプルは、他の油で揚げたものに比べて、より多くの、そしてより小さな孔を持つ多孔構造になっていることがわかりました。研究チームは、これはOil hydroで水分蒸発が速く進んだ結果だと解釈しています。また、揚げ始めの初期段階(1.0〜2.0分)では、Oil hydroとOil lipoで揚げた衣の含油量が、Oil freeよりも有意に高くなっていました。この結果から研究チームは、衣に浸透した油が熱を伝える働き(対流的な熱の効果)を持ち、それが水分蒸発をさらに後押ししている可能性を指摘しています。
この研究をどう読むか
この研究は、油の界面活性剤添加が揚げ物の水分蒸発や衣の構造に関わるメカニズムを、界面張力の測定・気泡観察・CT解析といった手法を組み合わせて検討したものです。実験は疑似フライ過程や特定の油・界面活性剤の組み合わせに基づくものであり、あらゆる揚げ物や調理条件に一般化できるかどうかは今後の検討課題といえます。また、この研究は水分蒸発や多孔構造、含油量といった物理的・構造的な特性を扱ったものであり、風味や食感、栄養面への影響を直接評価したものではない点にも留意が必要です。一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。
なお、本研究の著者らは広島大学大学院統合生命科学研究科、および日清オイリオグループ株式会社(横浜市)に所属しており、日本の研究機関・企業が関わった研究であることも付け加えておきます。
まとめ
今回の研究では、親水性・親油性の界面活性剤を加えた油が、揚げ物の水と油の界面張力や空気と水の界面張力を下げることで、バッター表面での水蒸気の気泡の挙動に違いを生み、水分蒸発の速さや衣の多孔構造、含油量に影響しうることが示されました。揚げ油の設計や食品加工の分野において、こうした界面科学的な視点が今後どのように活用されていくのか、続報が注目されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Tomonari Otsuki, Kota Inoue, Chikako Bannai, et al. How do surfactant-added oils promote the evaporation of water from gelatinized batter in deep-frying? From the perspective of interfacial tension, water vapor bubbles observed in pseudo-frying processes, and the porous structure and oil sorption of fried coatings. フード・ハイドロコロイズ (2026). DOI: 10.1016/j.foodhyd.2026.113190. 原著ライセンス: cc-by.