大豆を発酵させてつくる「テンペ」は、インドネシア発祥の伝統食品として知られています。今回紹介する報告は、タイの首都バンコクにあるジャワモスクの信徒を対象に、テンペ作りを教える国際的な地域活動(コミュニティサービス)の記録です。研究チームはインドネシア・スラカルタのムハマディヤ大学などに所属する研究者らで構成されています。

活動の背景には、タイにおける食のハラール(イスラム法で許される)事情があります。報告によると、タイでは仏教が国教である一方、イスラム教は少数派の宗教です。ハラール認証は中央イスラム評議会(CICOT)が担っており、たとえば豚肉由来のゼラチンは加工されていてもハラールとは認められない、といった見解が示されているといいます。タイの伝統市場や食堂では豚肉料理のほか、昆虫食やワニ肉、カエル肉なども売られていると報告には記されています。また、豆腐や発酵大豆食品は現地の市場でも見かけるものの、ハラールの表示があるのは大手スーパー(Makroなど)に限られ、タンパク質が豊富なテンペ自体は伝統市場にもスーパーにも売られていない、と述べられています。

何が行われたのか

この活動は2026年6月2日、バンコクのジャワモスクで実施されました。参加したのはジャワモスク信徒、タイ・ムハマディヤ支部、Ngajikok(宗教学習会)、在タイ・インドネシア人コミュニティなどから男女合わせて30名です。活動は大きく二部構成で、前半はテンペの歴史や栄養、製法についての講義、後半は実際にテンペを作る実習と、テンペを使った料理教室が行われました。

テンペの製法として報告されている手順は次の通りです。大豆2kgを24時間水に浸し、皮をできるだけ取り除いたのち、30分間茹でます。茹でた大豆を冷ました後、コーヒースプーン2杯分(約3g)の酵母(テンペ菌)を加え、トレイの中でむらなく混ぜ合わせます。これをプラスチック袋や葉で包み、つまようじで小さな穴を開けて空気の通り道を作ります。最後に紙やプラスチックをかぶせた状態で室温に置き、48時間発酵させると完成するとのことです。使われた大豆やプロリマ(酵母)はインドネシア産のものを購入して準備したと記されています。

なお報告の中では、インドネシアでのテンペの起源にも触れられており、16〜17世紀ごろのジャワ島で、豆腐の搾りかすや余った大豆を利用した農村の知恵から生まれたとされています。「テンペ」という語自体は古ジャワ語の「トゥンピ(白い食べ物)」に由来するとの説明もあります。1926年には日本人研究者の中沢亮治氏がジャワ・スマトラを訪れてテンペや発酵ピーナッツ食品(オンチョム)の菌を分析し、1928年に日本語で論文を発表したという歴史的な記録も紹介されています。

参加者の理解はどう変わったか

活動の効果を確かめるため、参加者には7問の四択式クイズによる事前テストと事後テストが行われました。内容はテンペの起源、大豆と水の比率、浸水時間、テンペと卵のタンパク質量の比較、茹で時間、酵母の使用量、発酵にかかる日数など、講義と実習の内容に沿ったものです。その結果、平均点は事前テストの57.39点から事後テストの77.39点へと上昇したと報告されています。著者らはこの活動を通じて、テンペの作り方に関する知識と技術を参加者に伝えることができたとまとめています。

この報告を読むうえで押さえておきたいこと

この報告は、特定の地域コミュニティを対象とした一回限りの普及活動の記録であり、テンペの健康効果や栄養価そのものを科学的に検証した研究ではありません。参加者は30名、評価も7問のクイズによる簡易的なものにとどまるため、得られた知見の一般化には限りがあると考えられます。また、インドネシアの国家規格(SNI 3144:2015)にはテンペの水分量やタンパク質含有量、重金属や微生物汚染の基準値などが定められている旨が紹介されていますが、これは品質規格の説明であり、今回の活動で作られたテンペがこの基準を満たしているかどうかを検証したものではありません。

今回の報告は、ハラール食品としてのテンペをタイのイスラム教徒コミュニティに紹介し、実際に作る技術を伝えるという地域貢献活動の記録です。テンペという発酵食品が持つ文化的背景や製法を知るための事例として捉えるのがよいでしょう。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Emi Erawati, Anika Candrasari, Isman, et al. Tempeh as Source of Halal Food for Thailand’s Java Mosque Congregation. インターナショナル・ジャーナル・オブ・コミュニティ・サービス (2026). DOI: 10.51601/ijcs.v6i2.1009.