年齢を重ねると、食べ物や飲み物を飲み込む力が少しずつ弱くなることがあります。これは「プレスビファジア(presbyphagia)」と呼ばれる加齢に伴う嚥下機能の変化で、65歳以上の人に多くみられるとされています。むせやすくなったり、硬い食品や液体をうまく飲み込めなくなったりするため、安全に食べられるように食感を調整した食品(テクスチャー調整食)へのニーズが高まっています。今回紹介する研究は、そうした嚥下機能が低下した人向けに、安全な食感を保ちながら健康にも配慮した「機能性グミ」を開発しようという試みです。
研究でわかったこと
研究チームは、ワイン製造などで生じるブドウの搾りかす(グレープポマース)から抽出物を作り、それをグミ状のゲルに配合しました。抽出方法には超音波を使った手法が用いられ、抽出溶媒として「天然共融溶媒(NaDES、塩化コリンとクエン酸を1対1で混ぜたもの)」と、通常の「水」の2種類が比較されています。
グミの配合については、ゼラチン(4〜8%)、低メトキシルペクチン(1〜3%)、そして抽出物濃度(5〜10%)という3つの成分の組み合わせを体系的に変化させる「シンプレックス重心計画」という実験手法で検討し、それぞれの配合が物理的な性質(食感や水分の状態など)や、抗酸化力などの機能性にどう影響するかを調べました。
その結果、NaDESを使って作った抽出物を配合したグミは、水で抽出したものに比べて水分活性(食品中の水の動きやすさを示す指標)が低く、ゲルの中の水分もより均一に分布していることが示されました。これは、ゲルの構造の中で水がより安定的に組み込まれていることを意味すると報告されています。また、ゼラチンとペクチンの比率が中間的な配合では、まとまりがありつつ硬すぎない食感のゲルができ、国際的な嚥下調整食の基準(IDDSIレベル5〜6)に近い性質を示したとされています。
数ある配合の中でも、「ゼラチン6%、ペクチン1%、抽出物7.5%」という組み合わせ(研究内でF5と呼ばれる配合)が、食感のバランスの良さと、ポリフェノール含有量・抗酸化活性の高さを兼ね備えており、総合的に最も優れた結果を示したと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、あくまでグミという食品の物理的な性質(テクスチャーや水分の状態)と、ポリフェノール含量・抗酸化活性といった機能性成分の指標を実験室で評価したものです。実際にヒトが食べたときの安全性や飲み込みやすさ、あるいは健康への効果を直接検証したものではない点には注意が必要です。研究チームは、今回の結果が「NaDESで抽出したブドウ搾りかすを、嚥下障害のある人向けの機能性食品開発に活用できる可能性を支持するもの」としていますが、これは一つの研究段階での知見であり、結論が確定したわけではありません。
まとめ
本研究は、廃棄されがちなブドウの搾りかすを有効活用しつつ、高齢者の嚥下機能低下に配慮した食感のグミを設計するという、食品開発の一つのアプローチを示すものです。抽出溶媒や配合比率によってゲルの物性や機能性成分の量が変わることが確認され、その中でも特定の配合(ゼラチン6%・ペクチン1%・抽出物7.5%)がバランスの良い結果を示したと報告されています。今後、こうした研究がどのように実際の製品開発や、さらなる検証へとつながっていくのか注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:嚥下機能低下(プレスビファジア)向けパイス種ブドウ抽出物強化機能性グミの開発と特性評価(ジェルズ・2026年07月)