プラスチック包装をできるだけ減らしたいという流れの中で、食品そのものに直接コーティングして品質を保つ「可食コーティング」の研究が進んでいます。今回紹介するのは、トルコの伝統的なチーズ「マラティヤチーズ」を対象に、ベニバナ(Carthamus tinctorius L.)の花から抽出した成分を配合した可食コーティングを試した研究です。ベニバナはキク科の油糧作物で、見た目がサフランに似ていることから「偽サフラン」とも呼ばれ、花にはカルタミン、ケルセチン、ルテオリン誘導体、クロロゲン酸、シナピン酸、カフェ酸、α-トコフェロールといった成分が含まれるとされています。マラティヤチーズは、成形後に75〜85℃の熱いホエー(乳清)に浸して仕上げる半硬質のブラインチーズで、この工程で菌の数は一度減るものの、その後の熟成期間が長くなるという特徴があります。

どのように作り、何を調べたのか

研究チームはまず、乾燥させたベニバナの花をソックスレー抽出装置でメタノール抽出し、花エキスを得ました。このエキスを、乳清由来のタンパク質(ホエイプロテインアイソレート)にグリセロールとグァーガムを加えたベースに、濃度を変えて加えることで5種類のコーティング液(無添加のコントロールと、エキス濃度が0.5〜2%のEC1〜EC4)を作製しました。チーズはこの液に浸すことでコーティングしています。抗酸化力はDPPHという物質を使ったラジカル消去試験で、抗菌力は最小発育阻止濃度(MIC)と、円形の紙に薬剤をしみ込ませて阻止円の大きさを見るディスク拡散法で評価されました。抗菌試験の対象には大腸菌(E. coli)、腸球菌、化膿レンサ球菌、緑膿菌、枯草菌、肺炎桿菌、黄色ブドウ球菌など複数の細菌に加え、酵母様真菌のカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)も含まれています。さらに、大腸菌とカンジダ・アルビカンスをあえてチーズ表面に付着させたうえで各濃度のコーティングを施し、4℃(冷蔵)と20℃(室温)で21日間保存しながら、菌の数が食品衛生上の目安とされる「1グラムあたり10万個(5 log CFU/g)」を超えるかどうかを追跡しています。

研究でわかったこと

ベニバナ花エキス単体のDPPHラジカル消去率は92.9%と高く、抗酸化力は強いという結果でした。一方、抗菌力については大腸菌・カンジダ・アルビカンスいずれに対してもMIC値は5000ppmで、抗生物質のセファドロキシルと比べると阻止円は小さく、論文中でも「中程度の抗菌活性」と位置づけられています。特に緑膿菌とカンジダ・アルビカンスに対しては効果が限定的で、これは対象となる微生物の細胞壁の構造やバイオフィルム形成能、代謝面での防御機構が関係している可能性があると考察されています。それでも、チーズを使った保存試験では、コーティングをしていないチーズは4℃保存でも7日以内に菌数が安全域の目安を超えてしまったのに対し、エキス濃度が最も高いEC4のコーティングを施したチーズは、冷蔵条件で21日間を通じて目安の菌数を下回り続けました。室温保存でも、大腸菌・カンジダ・アルビカンスともにEC4群で増殖が抑えられ、21日目に最も低い値を示しています。また、コーティング膜の構造をFTIR・熱重量分析(TGA)・示差走査熱量測定(DSC)で調べたところ、水素結合の形成と膜の安定性向上が確認され、これはエキス中の成分がゆっくりと放出される仕組みを示唆するものだと説明されています。

この研究の読み方

著者らは今回の抗菌効果を「中程度」と自ら評価しており、ベニバナエキスが万能の保存料というわけではありません。実際、緑膿菌やカンジダ・アルビカンスのように効きにくい微生物もあり、菌の種類によって効果に差があることが本文でも述べられています。また、この研究はベニバナ花エキスを食用コーティング・フィルムの材料として使った最初の報告と位置づけられており、著者らは今後、他の植物エキスや生体高分子との組み合わせ、作用の仕組み、味や香りなど官能面での受け入れられやすさ、工業規模での実用化について、さらなる検討が必要だとしています。今回の実験は研究室レベルでの検証であり、一つの研究として得られた結果であって、市販のチーズ全般に同じ効果が保証されるものではない点には注意が必要です。

まとめ

ベニバナの花から得たエキスを配合した可食コーティングは、強い抗酸化力と中程度の抗菌力を組み合わせることで、マラティヤチーズにおいて冷蔵保存中の菌数の増加を抑え、保存期間の目安を延ばす可能性が示された、という内容の研究でした。天然由来の保存技術としての可能性を示す初期段階の報告であり、実用化に向けてはさらなる最適化が必要だと著者らは述べています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Elif Ayça Güler, Elif Özbey. Innovative active edible coating with safflower (Carthamus tinctorius L.) extract for microbial inactivation and shelf life extension of cheese. フード・セーフティ・アンド・リスク (2026). DOI: 10.1186/s40550-026-00158-w. 原著ライセンス: cc-by.