著者の所属・活動拠点の国は、中国、トルコです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

保存中に劣化しやすい青稞粉と、その対策を探る研究

青稞(チンコー)は、殻が実から外れやすいハダカムギの一種で、中国の青海・チベット高原で主食として食べられてきた穀物です。食物繊維の一種であるβ-グルカンやポリフェノールを多く含み、全粒粉として麺やパン、飲料などへの利用が広がっています。一方で、青稞粉は保存中に品質が落ちやすいことが知られています。粉に挽くと穀粒の中で分かれていた脂質と、脂質を分解・酸化する酵素や微生物が直接触れ合うためです。その結果、においの劣化や変色、栄養成分の減少が起こり、日持ちが短くなります。

これまで青稞の品質を安定させる方法としては、焙煎や加熱による酵素の失活、押出加工といった物理的な処理が報告されてきました。研究チームは、加熱を必要とせず小規模な生産でも取り入れやすい方法として、天然の多糖類を粉に混ぜることに注目しました。取り上げたのは、クコの実(ウルフベリー)の主な生理活性成分であるクコ多糖(LBP)です。論文によると、多糖類を食品の保存に使う先行研究の多くは1種類の添加量しか試しておらず、量を増やすと効果が高まるのか、頭打ちになるのか、逆に弱まるのかは分かっていませんでした。そこで研究チームは、添加量ごとの効果を比べ、品質と安全性の両面から最適な量を見極めること、さらに脂質の分子レベルでどのような変化が起きているかを明らかにすることを目的としました。

3段階の添加量で240日間、実際の保存条件で追跡

研究チームは、青海省で収穫された品種「崑崙15号」の青稞を粉にし、研究室で調製したクコ多糖を重量比0.2%、1.0%、2.0%の3段階で混ぜました。何も加えない粉を対照とし、それぞれを密封したポリ袋に入れて、室温(平均約11℃、湿度約45%)で240日間保存しました。品質の劣化を早める加速試験ではなく、実際の保存に近い条件で長期間追跡した点が特徴です。各条件では、別々に保存した3袋を用意して比較しました。

保存中は0日目から60日ごとに、水分・たんぱく質・でんぷんなどの基本的な栄養成分、β-グルカンやポリフェノール、GABA(γ-アミノ酪酸)といった機能性成分、抗酸化力、微生物の数を調べました。あわせて、脂質の傷み具合を示す指標も測定しています。たとえば、脂質を分解する酵素であるリパーゼの働き、脂質が分解されて生じる脂肪酸の量を示す「脂肪酸価」、酸化の初期にできる物質の量を示す「過酸化物価」、酸化が進むと増える物質「マロンジアルデヒド(MDA)」などです。

さらに、保存開始時と240日後の試料について、粉に含まれる多数の脂質を一度にまとめて測定する「リピドミクス」と呼ばれる手法で分析しました。従来の指標では脂質の傷み具合を全体としてしか捉えられませんが、この手法を使うと、細胞膜を構成するリン脂質や、エネルギーの貯蔵に使われる中性脂肪など、どの種類の脂質がどう変化したかを個別に追うことができます。

指標によって「最もよく効いた量」が異なった

論文によると、クコ多糖を加えたどの粉でも、何も加えない粉に比べて栄養成分や機能性成分の減り方が緩やかになりました。ただし、最も効果が大きかった添加量は指標によって異なりました。0.2%では、たんぱく質、でんぷん、β-グルカン、GABAが最もよく保たれ、抗酸化力の一部の指標も安定していました。過酸化物価の上昇も最も小さく抑えられました。1.0%では、水分の減少とMDAの蓄積を最もよく抑えました。2.0%では、リパーゼの働きと脂肪酸価、ポリフェノールやフラボノイドの減少を最も強く抑えました。

微生物については、細菌もカビも、添加したすべての粉で対照より少なく抑えられました。ただし、その抑制効果は添加量が増えるほど弱まり、0.2%で最も微生物が少なくなりました。著者らは、多糖類が多すぎると、微生物の栄養源にもなり得るためと考えています。

リピドミクスでは、合計819種類の脂質が見つかりました。保存の前後で量が統計的に大きく変化した脂質の数を数えると、クコ多糖を加えた粉の中では、0.2%で255種類、1.0%で216種類、2.0%で174種類と、添加量が多いほど少なくなりました。なお、対照の粉では243種類で、0.2%の粉より少なかったため、この傾向は添加した粉の間で見られたものだと論文は明記しています。また、クコ多糖は細胞膜を構成するリン脂質や中性脂肪などの減少を和らげ、リン脂質が分解されてできる物質の増加を抑えていました。脂質の代謝経路に着目した解析では、0.2〜1.0%では主要な脂質代謝の働きが保たれていた一方、2.0%では中心的な代謝経路の働きまで抑えられていたと報告しています。

「多ければよい」わけではない添加量の選び方

研究チームは、栄養・機能性成分の保持、抗酸化力の安定、微生物と脂質酸化の抑制を総合的に評価し、0.2%を最適な添加量として推奨しています。2.0%は脂質の組成を最もよく保っていましたが、微生物の抑制効果は弱く、中心的な脂質代謝まで抑える結果となりました。添加量を増やすほど全体の効果が高まるわけではなく、どの品質を重視するかによって適切な量が変わることを、この研究は示しています。

なお、この研究で使ったクコ多糖は一つの製造ロットに限られ、多糖の含有量以外の性質(分子の大きさや構成する糖の種類)は詳しく調べていないと著者ら自身が述べています。そのうえで、長期の実保存試験と脂質の網羅的な分析を組み合わせた今回の研究は、クコ多糖が細胞膜の脂質を守る形で青稞粉の劣化を和らげている可能性を示しています。研究チームは、これをクコ多糖を全粒粉の天然保存料として活用する根拠の一つとして位置づけています。

著者:Jidong Wu(Academy of Agriculture and Forestry Sciences, Qinghai University, Xining 810016, China)、Wenchong Shan(National Nanfan Research Institute (Sanya), Chinese Academy of Agricultural Sciences, Sanya 572024, China)、Miao Wang(State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Products, Institute of Quality Standardization & Testing Technology for Agro-Products, Chinese Academy of Agricultural Sciences, Beijing 100081, China)、Yong Shao(Academy of Agriculture and Forestry Sciences, Qinghai University, Xining 810016, China)、Tangwei Zhang(Institute of Agricultural Product Quality Standard and Testing Research, Tibet Academy of Agricultural and Animal Husbandry Sciences, Lasa 850032, China)、Ming Xiao(Academy of Agriculture and Forestry Sciences, Qinghai University, Xining 810016, China)、Yongxin She(State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Products, Institute of Quality Standardization & Testing Technology for Agro-Products, Chinese Academy of Agricultural Sciences, Beijing 100081, China)、Maojun Jin(State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Products, Institute of Quality Standardization & Testing Technology for Agro-Products, Chinese Academy of Agricultural Sciences, Beijing 100081, China)、A.M. Abd El‐Aty(Department of Medical Pharmacology, Faculty of Medicine, Ataturk University, Erzurum 25240, Türkiye)、Jing Wang(State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Products, Institute of Quality Standardization & Testing Technology for Agro-Products, Chinese Academy of Agricultural Sciences, Beijing 100081, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jidong Wu, Wenchong Shan, Miao Wang, et al. Dose-Dependent Preservation of Highland Barley Flour Storage Quality by Lycium barbarum Polysaccharide: Evidence from 240-Day Storage Monitoring and Untargeted Lipidomics. Foods 2026-10-15. DOI: 10.3390/foods15203652. 原著ライセンス:CC BY.