「脂肪の多い食事は乳がんのリスクを高めるのではないか」という疑問は、長年にわたって栄養学や疫学の分野で議論されてきました。バターや揚げ物、脂身の多い肉など、脂肪を多く含む食品は身近にあるだけに、多くの人が気になるテーマではないでしょうか。実はこれまでの研究では、調査の方法によって結果が一致しないという状況が続いていました。今回紹介する論文は、こうした過去の研究成果を統計的にまとめ直す「メタ解析」という手法を用いて、食事性の総脂肪摂取量と乳がんリスクの関連を改めて整理したものです。
この研究は、2025年5月までに公表された症例対照研究とコホート研究を対象に、オンラインデータベースを用いた系統的な文献検索を行いました。症例対照研究とは、すでに病気になった人とそうでない人を比較して過去の食生活などを振り返る研究デザインで、コホート研究とは、健康な集団を長期間追跡して食生活と病気の発生を観察する研究デザインです。研究チームは、それぞれの研究から得られた多変量調整済みの効果量(リスクの大きさを示す指標)を、ランダム効果モデルという統計手法を使って統合し、研究間のばらつき(異質性)や出版バイアスの可能性も評価しました。
研究でわかったこと
症例対照研究75件分の効果量を統合した結果、食事性の総脂肪摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループと比較して乳がんリスクが統計的に有意に高いという結果が示されました(効果量1.23、95%信頼区間1.12〜1.34)。これは、脂肪摂取量が多い群でリスクが23%高いことを意味する数値です。一方で、コホート研究59件分の効果量を統合した結果では、食事性の総脂肪摂取量と乳がんリスクとの間に統計的に有意な関連は認められませんでした(効果量1.03、95%信頼区間0.99〜1.06)。
研究チームは、この2種類の研究デザイン間で結果が食い違った点について、脂肪摂取が比較的短期的な影響としてリスクに関わっている可能性を示唆する一方で、長期的な影響については依然として結論が出ておらず、さらなる検討が必要だとまとめています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、これまでに発表された複数の観察研究の結果を統計的にまとめたメタ解析であり、新たに人を対象に脂肪摂取と乳がんの因果関係を直接検証した実験ではありません。症例対照研究とコホート研究とでは、過去の食生活を思い出して回答する際の記憶の偏りなど、調査方法そのものの違いが結果に影響している可能性も考えられます。実際に、統合した研究間には一定のばらつき(症例対照研究でI²=67%、コホート研究でI²=45%)があったことも報告されています。この一つの研究をもって、食事性脂肪の摂取が乳がんリスクを高める、あるいは高めないと結論づけることはできず、今後さらなる研究の蓄積が待たれる分野といえます。
まとめ
今回のメタ解析では、症例対照研究では食事性の総脂肪摂取量が多いほど乳がんリスクが高いという関連が示された一方、コホート研究ではそうした関連は統計的に確認されませんでした。研究チームはこの結果の違いについて、短期的な影響の可能性を示唆しつつも、長期的な影響は依然として明確ではないとしています。食生活とがんリスクの関係は非常に複雑なテーマであり、今後の研究の進展が注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:食事性総脂肪摂取量と乳がんリスクの関連:症例対照研究およびコホート研究のメタ解析(ヘルス・サイエンス・レポーツ・2026年06月)