日本関連:この研究は海外機関を中心とする国際共同研究で、日本の研究機関に所属する共著者が参加しています。参加国はインドネシア、日本です。
掲載誌:Frontiers in Food Science and Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:傷みやすい魚の切り身を食べられる被膜で守る
ジャイアントグラミー(Osphronemus goramy)の切り身は、冷蔵保存中でも品質が早く低下します。研究チームは、食品の表面に直接施す薄い「可食性コーティング(食べられる被膜)」に注目しました。可食性コーティングは、周囲の環境から食品を守る壁となり、水分や気体の出入りを抑え、抗菌成分を運ぶ役割も果たします。
被膜の土台には、カニやエビの殻などから得られる多糖類のキトサンを使いました。キトサンは膜を作りやすく、生分解性があり、それ自体にも抗菌性があります。一方で、水になじみやすいため水蒸気を通しやすく、単独では抗菌力が十分でない場合があると論文は述べています。そこで研究チームは、抗菌成分を含むコブミカン(カフィアライム)の葉の精油を加えることを考えました。
精油は水に溶けにくいため、被膜の中に細かい油滴として均一に分散させる必要があります。研究チームは、一般的な乳化剤であるTween 80の代わりに、植物由来のセルロースナノファイバー(CNF)で油滴を安定させる「ピッカリングエマルション」を用いました。これは、界面活性剤ではなく微細な固体粒子や繊維が油と水の境目に集まって、油滴同士が合体するのを防ぐ乳化の仕組みです。著者らによれば、CNFで安定化したコブミカン葉精油をキトサン被膜に組み込み、冷蔵したグラミー切り身に使った報告はこれまでありませんでした。
何を調べたか:被膜の配合選びから切り身への応用まで
研究チームはまず、CNFの濃度を0〜0.30%の範囲で段階的に変えて精油0.5%を乳化し、24時間にわたって分離の様子を観察しました。CNFが0.075%以下では短時間で液が澄んで分離し、0.10〜0.225%でも分離が見られました。これに対し0.25%と0.275%では、24時間後も濁った均一な状態が保たれました。研究チームは、安定性を保てる最も低い濃度として0.25%を選びました。固形分と粘りを抑え、浸して均一に膜を作りやすくするためだと説明しています。
続いて、キトサンのみ(Chi)、キトサンにTween 80と精油を加えたもの(ChiTK)、キトサンにCNFと精油を加えたもの(ChiCK)の3種類の被膜液を用意し、酸性度、液中の粒子の帯電の強さ(ゼータ電位)、膜の化学構造や微細構造、4種類の細菌に対する抗菌作用を比べました。ゼータ電位は、値の絶対値が大きいほど粒子同士が電気的に反発し合い、分散が安定しやすいことを示す指標です。
最後に、最も成績のよかった被膜液をグラミーの切り身(5cm角)に応用しました。切り身を被膜液に1分間浸して10分間水を切り、被膜をしない切り身とともに5〜10℃で保存して、0〜3日目に微生物の増え方、色、重さの減少を調べました。なお、使用した精油の主成分はシトロネラールで全体の79.24%を占め、次いでリナロールが7.22%でした。
主な結果:抗菌性と分散安定性が高く、微生物的な保存期間が約1日延びた
3種類の被膜液の酸性度はいずれもpH4.1〜4.2ほどで、差はありませんでした。一方、ゼータ電位はChiとChiTKがおよそ28mVだったのに対し、CNFを含むChiCKは57.00mVと大幅に高く、目で見た安定性の高さとも一致する結果でした。乾燥させた膜を電子顕微鏡で観察すると、ChiCKは断面が最も厚く、繊維状の構造が膜全体に入り込んでいる様子が見られました。
抗菌試験では、細菌を塗った寒天の上に試料をしみこませた円盤を置き、周りに細菌が育たない範囲(阻止円)の直径を測りました。被膜液の中ではChiCKが大腸菌、緑膿菌、セレウス菌、黄色ブドウ球菌の4種すべてに対して最も大きい平均値を示しました。ただし著者らは、すべての菌で統計的な差があったわけではないとしつつ、一貫した傾向をもとにChiCKを切り身への応用に選んでいます。
切り身に使った結果、研究チームは、ChiCK被膜が冷蔵中の微生物の増加を遅らせ、微生物学的に許容できる状態を、被膜しない切り身と比べておよそ1日長く保ったと報告しています。また、被膜した切り身は表面の明るさが増し、被膜の有無で目に見えて分かる程度の色の違いが生じました。この違いは保存中に徐々に生じたというより、主に被膜を施した直後から現れたものだとされています。
一方で、被膜は重さの減少を抑えませんでした。3日目の重量減少は、被膜した切り身で3.115%、被膜しない切り身で2.056%と、むしろ被膜した方が大きくなりました。著者らは、10分間の水切りでは被膜に含まれる水分が残り、その後の蒸発が減少分に加わった可能性を挙げていますが、被膜の水分量などは直接測っていないため、この説明は推測の段階だとしています。
この研究が示すこと
この研究は、セルロースナノファイバーを使って精油を安定に分散させたキトサン被膜が、液の分散安定性と抗菌性を高め、冷蔵したグラミー切り身の微生物の増加を遅らせうることを示しました。一方で、水分の減少を防ぐ効果は確認されず、評価は3日間の短期保存に限られ、味やにおいなどの官能評価も行われていません。また、CNFだけ、精油だけを加えた被膜との比較がないため、それぞれの成分の個別の働きは十分に切り分けられていないと著者ら自身が述べています。こうした範囲の中で、魚の保存に使う活性型の可食性被膜としての可能性を示した報告といえます。
原著論文の著者・所属:Ata Aditya Wardana(Department of Food Technology, Faculty of Engineering, Bina Nusantara University, Jakarta, Indonesia)、Ananda Caesarini Aulia(Department of Food Technology, Faculty of Engineering, Bina Nusantara University, Jakarta, Indonesia)、Aisya Zahra Zhafira(Department of Food Technology, Faculty of Engineering, Bina Nusantara University, Jakarta, Indonesia)、R. Haryo Bimo Setiarto(Research Center for Applied Microbiology, Cibinong Science Center, National Research and Innovation Agency (BRIN))、Retno Tri Astuti(Department of Fisheries Product Technology, Faculty of Fisheries and Marine Science, Universitas Brawijaya)、Xirui Yan(Laboratory of Postharvest Science, Faculty of Agriculture, Kyushu University)、Fumina Tanaka(Laboratory of Postharvest Science, Faculty of Agriculture, Kyushu University)、Fumihiko Tanaka(Laboratory of Postharvest Science, Faculty of Agriculture, Kyushu University)、Laras Putri Wigati(School of Life Sciences and Technology, Bandung Institute of Technology)、Jhauharotul Muchlisyiyah(Bioscience Innovation Centre, Universitas Brawijaya; Food Science and Biotechnology Department, Universitas Brawijaya)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ata Aditya Wardana, Ananda Caesarini Aulia, Aisya Zahra Zhafira, et al. Chitosan coating with Pickering emulsion of cellulose nanofibril/kaffir lime leaf essential oil for gourami fillets preservation. Frontiers in Food Science and Technology 2026-10-22. DOI: 10.3389/frfst.2026.1983935. 原著ライセンス:CC BY.