この研究は、イランの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Veterinary Medicine and Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

潰瘍性大腸炎のような腸の慢性的な炎症は、人だけの問題ではありません。著者らは、犬や猫などの伴侶動物、さらに家畜でも慢性の下痢や体重減少、栄養吸収の低下を伴う大腸炎に似た病態が獣医療で認識されるようになっていると述べています。治療には副腎皮質ステロイド、抗菌薬、免疫調節薬が広く使われていますが、効果が得られない例や副作用が少なくないため、より安全な代替手段が求められてきました。

そこで注目されているのがプロバイオティクスです。これは、十分な量を摂ったときに宿主に有益な働きをする生きた微生物を指します。研究チームは、芽胞(厳しい環境に耐える休眠状態の形)をつくる乳酸菌であるバチルス・コアグランスと、腸に定着しやすい乳酸菌であるラクトバチルス・アシドフィルスの2種を取り上げました。

論文が特に焦点を当てたのは「インフラマソーム」という仕組みです。インフラマソームは細胞内のタンパク質複合体で、微生物由来の信号や体内の危険信号を感知してカスパーゼ-1という酵素を活性化し、炎症を起こすインターロイキン-1β(IL-1β)やIL-18を成熟させます。なかでもNLRP3インフラマソームの過剰な活性化が、粘膜の炎症の持続や大腸組織の損傷と関連づけられてきました。この経路に対してプロバイオティクスがどう働くかを、実験動物モデルで調べることが本研究の目的です。

何をどう調べたか

著者らは雄のウィスターラット40匹を用い、1群8匹の5群に無作為に分けました。健康な対照群、大腸炎を起こした群、標準的な治療薬メサラジンを投与した群、バチルス・コアグランスを投与した群、ラクトバチルス・アシドフィルスを投与した群です。

大腸炎は、麻酔下で4%の酢酸100マイクロリットルを直腸内に投与して起こし、24時間後に発症を確認しました。その後7日間、プロバイオティクス投与群には各菌の懸濁液(10の9乗CFU/mL)を毎日経口で与え、対照薬の群にはメサラジンを1日あたり体重1キログラムにつき300ミリグラム投与しました。8日目から10日目は水のみとし、10日目に大腸の組織を採取しています。

評価は複数の方法を組み合わせています。大腸の見た目の損傷(発赤、潰瘍、炎症の広がり)は確立した採点法により、どの群の標本かを知らない2名の観察者が別々に採点しました。組織は染色して顕微鏡で観察し、腺(クリプト)の破壊、粘膜や粘膜下層の変化、炎症細胞の浸潤などを採点しました。さらに、インフラマソームに関わる遺伝子(IL-18、NLRP3、カスパーゼ-1、TNF-α)の発現量を定量PCRで測り、組織中のIL-17とIL-1βのタンパク量をELISA法で測定しています。大腸の長さと重さも、むくみ(浮腫)の指標として調べました。

報告された主な結果

まず、大腸炎を起こしたラットでは、健康な対照群に比べてIL-18、NLRP3、カスパーゼ-1、TNF-αの遺伝子発現がいずれも有意に増加しました。組織中のIL-1βとIL-17のタンパク量も著しく上昇しました。

これに対し、2種のプロバイオティクスを投与した群では、大腸炎群と比べてこれら4つの遺伝子の発現がいずれも有意に低下したと報告されています。IL-1βとIL-17のタンパク量についても、両菌の投与で有意な減少がみられ、著者らはその程度が標準治療のメサラジンに匹敵すると述べています。

組織の形についても改善が報告されました。大腸炎の誘発によって大腸の長さと重さは有意に変化しましたが、両菌の投与はメサラジンと同様にこれらの指標を有意に改善しました。見た目の評価では、大腸炎群に潰瘍、発赤、炎症、浮腫といった重い損傷が認められた一方、プロバイオティクス投与群とメサラジン群では炎症と潰瘍が明らかに減っていました。採点では、大腸炎群が見た目の損傷スコアで最も高い平均3.25を示し、重い炎症と中等度のクリプト損傷、最大75%に及ぶ組織の関与が認められました。顕微鏡観察では、大腸炎群に上皮細胞の広範な脱落、粘液を分泌する杯細胞の著しい減少、白血球の強い浸潤、筋層の肥厚がみられましたが、メサラジンおよびプロバイオティクスの投与群ではこれらの損傷と炎症反応が有意に軽減されました。

ただし著者らは、プロバイオティクスを投与した群でも炎症と白血球の浸潤が一部残っていたと記しています。このことから、プロバイオティクスは病態の重症度を和らげるものの、重症例において標準的な薬物療法を完全に置き換えられるとは限らず、補助的な位置づけが考えられると論じています。

この研究が示すこと

この研究は、酢酸で大腸炎を起こしたラットにおいて、2種のプロバイオティクスがインフラマソームに関わる遺伝子の発現と炎症性サイトカインの量を下げ、大腸の損傷を軽くしたことを報告しています。炎症の「結果」を見るだけでなく、炎症を駆動する分子の経路に沿って変化をたどった点が、この報告の特徴です。

もっとも、これは実験動物モデルでの結果です。著者ら自身、げっ歯類と対象となる動物種とでは腸内微生物の構成や免疫機能が異なることを認めており、犬や猫、家畜での臨床試験が必要だと述べています。獣医療における慢性腸炎の管理を考えるうえで、作用の仕組みを探る手がかりを与える段階の報告として位置づけられます。

著者:Fatemeh Shayesteh(Biotechnology Research Center, ShK.C. Islamic Azad University Shahrekord Iran)、Milad Shahini Shams Abadi(Clinical Biochemistry Research Center, Basic Health Sciences Institute Shahrekord University of Medical Sciences Shahrekord Iran)、Leila Rouhi(Department of Biology, ShK.C. Islamic Azad University Shahrekord Iran)、Abbas Doosti(Biotechnology Research Center, ShK.C. Islamic Azad University Shahrekord Iran)、Nader Bagheri(Cellular and Molecular Research Center, Basic Health Sciences Institute Shahrekord University of Medical Sciences Shahrekord Iran)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fatemeh Shayesteh, Milad Shahini Shams Abadi, Leila Rouhi, et al. Probiotic Intervention With Bacillus coagulans and Lactobacillus acidophilus in Small Animals Experimental Ulcerative Colitis: Insights From a Small Animal Model. Veterinary Medicine and Science 2026-09-29. DOI: 10.1002/vms3.70883. 原著ライセンス:CC BY.