この研究は、タイ、マレーシア、サウジアラビアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Antioxidants
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
研究の目的
食品や健康食品の分野では、天然由来で持続可能な原料を使い、酸化しやすい成分を守る仕組みが求められています。この研究で著者らが注目したのは、エビの加工で大量に出る殻です。エビ殻からは、キチンを経て得られる「キトサン」という多糖と、殻から分離されるたんぱく質を分解して得られる「タンパク質加水分解物」の両方が取り出せます。
著者らは以前の研究で、このエビ殻タンパク質加水分解物を、緑茶に多く含まれるポリフェノールであるEGCG(エピガロカテキンガレート)と結合させた「SEC」と呼ばれる複合体をつくっていました。キトサンは有用な性質を多く持つ一方、中性やアルカリ性の環境では溶けにくくなるという制約があり、他の分子と組み合わせて補う試みが行われてきました。ただし、SECのようなタンパク質-ポリフェノール複合体をキトサンと組み合わせて粒子をつくる例は限られていたと論文は述べています。そこで本研究では、キトサンとSECを組み合わせたハイブリッド粒子を作製し、その性質と抗酸化のはたらきを調べることを目的としました。
何を、どのように調べたか
著者らは、キトサン溶液とSEC溶液を質量比1対1、1対5、1対10の三通りで混ぜ、水酸化ナトリウムを加えてアルカリ性にすることで粒子を析出させる「アルカリ沈殿法」を用いました。その後、超音波を当てて粒子を細かく分散させ、洗浄と凍結乾燥を経て粉末として回収しています。比較のため、SECを加えずにキトサンだけで同じ手順を踏んだ粒子(CP)も用意しました。
評価には複数の抗酸化試験が使われました。DPPH法、ABTS法、ヒドロキシラジカル消去能は、活性酸素などの不安定な分子(ラジカル)をどれだけ打ち消せるかを見る試験です。FRAP(鉄還元能)は電子を渡す力を、金属キレート能は酸化の引き金となる金属イオンを捕まえる力を測ります。さらに、粒子の大きさ、熱を加えたときの重量変化(TGA)や熱の出入り(DSC)、核磁気共鳴(NMR)による分子の結びつき、電子顕微鏡(SEM・TEM)による形の観察も行われました。
加えて、実際に油脂が酸化する模擬系での効果も調べています。ひとつはレシチンでつくった膜状の粒子に銅イオンを加えて酸化を起こさせる系、もうひとつはβ-カロテンとリノール酸を使い、β-カロテンの色あせ具合から酸化の進行を追う系です。
主な報告結果
SECを加えた粒子は、加えていないキトサン粒子に比べて抗酸化力が有意に高まったと報告されています(p<0.05)。なかでも1対5の比率で作製したC–SEC–1:5が最も高く、DPPHラジカル消去能14.55 mM TE/g、ABTSラジカル消去能9.80 mM TE/g、ヒドロキシラジカル消去率70.29%、鉄還元能10.59 mM TE/g、金属キレート能6.37 mM EE/gという値が示されました。キトサン粒子のみと比べると、各指標でおよそ70〜200%の増加にあたると著者らは述べています。SECの割合をさらに増やした1対10では抗酸化力がかえって下がっており、著者らはSECとキトサンの量的なバランスが良好だったことが1対5の優位さにつながった可能性を指摘しています。
粒子の大きさは、キトサンのみの738 nmに対し、SECを加えたものでは112 nmへと大きく小さくなりました。著者らはこれを、細かく分散したハイブリッド粒子が形成された証拠としています。NMRの結果からは、SECが共有結合ではない相互作用(水素結合や静電的な引き合いなど)を通じてキトサンの構造に取り込まれたことが確認されました。熱分析では、主な分解が起こる温度がより高い側へ移り、DSCで測られる転移のエンタルピーは370.74 J/gから2449.60 J/gへ増加しています。電子顕微鏡では、C–SEC–1:5が表面の粗い、多孔質でつながり合った粒子のネットワークをつくっている様子が観察されました。
油脂の酸化を模した二つの系では、C–SEC–1:5はキトサン粒子のみの場合より強く酸化を抑え、その効果は添加濃度が高いほど大きくなったと報告されています。
この研究が示すこと
これまで廃棄されがちだったエビ殻から、多糖・ペプチド・ポリフェノールという性質の異なる三つの成分を集め、ひとつの粒子にまとめる——著者らが示したのは、そうした素材設計が実際に機能しうるということです。単独では補いきれない弱点を組み合わせで埋めるという考え方が、抗酸化力の向上と粒子の微細化という形で具体的な数値として表れました。
論文は、C–SEC–1:5が食品や栄養補助食品における抗酸化性の機能性素材、および生理活性成分を運ぶ担体としての可能性を持つと結論づけています。水産加工の副産物を出発点に、その中に眠る機能をどう引き出すかという問いへの、ひとつの具体的な答えといえるでしょう。
著者:Akanksha R Gautam(International Centre of Excellence in Seafood Science and Innovation (ICE-SSI), Faculty of Agro-Industry, Prince of Songkla University, Hat Yai 90110, Songkhla, Thailand)、Soottawat Benjakul(International Centre of Excellence in Seafood Science and Innovation (ICE-SSI), Faculty of Agro-Industry, Prince of Songkla University, Hat Yai 90110, Songkhla, Thailand)、Avtar Singh(International Centre of Excellence in Seafood Science and Innovation (ICE-SSI), Faculty of Agro-Industry, Prince of Songkla University, Hat Yai 90110, Songkhla, Thailand)、Ravindran Muthukumarasamy(Department of Pharmaceutical Chemistry, Faculty of Pharmacy and Health Sciences, Royal College of Medicine Perak, Universiti Kuala Lumpur, Ipoh 30450, Perak, Malaysia)、Nilesh Nirmal(Institute of Nutrition, Mahidol University, Salaya, Phutthamonthon, Nakhon Pathom 73170, Thailand)、Saleh Al-Ghamdi(Department of Agricultural Engineering, King Saud University, P.O. Box 2460, Riyadh 11451, Saudi Arabia)、Mohammad Fikry(Date Palm Research Center of Excellence, King Faisal University, Al-Ahsa 31982, Saudi Arabia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Akanksha R Gautam, Soottawat Benjakul, Avtar Singh, et al. Fabrication of Chitosan Hybrid Particles with Shrimp Shell Protein Hydrolysate–EGCG Conjugates for Antioxidant Protection in Lipid Systems. Antioxidants 2026-09-01. DOI: 10.3390/antiox15091163. 原著ライセンス:CC BY.