著者の所属・活動拠点の国は、ブラジル、スイスです。
掲載誌:PLoS ONE
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
牛肉の生産現場では、肥育期間中の飼料に穀物の割合を高めることで、成長速度やエネルギー効率を高める工夫が進んでいる。しかしこの手法は、ルーメン(第一胃)内が酸性に傾く「ルーメンアシドーシス」という消化器のトラブルを招きやすいという問題を抱えている。これを防ぐために長年使われてきたのが、モネンシンナトリウムという抗生物質系の飼料添加物(イオノフォア)だ。ただし、耐性菌の発生への懸念から、多くの国でイオノフォアの使用が制限・禁止される流れが進んでおり、代替となる添加物の探索が続いている。今回プロス・ワン誌に掲載予定のブラジルの研究チームによる論文は、エッセンシャルオイルとα-アミラーゼを組み合わせた添加物が、モネンシンの代わりになりうるかを、肥育牛のルーメンpHや盛期の成績、内臓の組織を実際に調べて検証したものだ。
何を、どうやって調べたのか
研究には、放牧で育てられたF1アンガス×ネロール交雑種の去勢していない雄牛24頭(体重456±21.77kg、18か月齢)が使われた。ブラジル・マトグロッソ・ド・スル州にあるDSMニュートリショナルプロダクツ社のイノベーションセンター・トルツーガの肥育場で、102日間にわたって飼育されている。牛たちは次の3グループに無作為に分けられた。①モネンシンナトリウム(飼料乾物1kgあたり26mg、商品名ルーメンシン)を与えるMON区、②チモール・オイゲノール・リモネン・バニリンを含むエッセンシャルオイルのブレンドと、外来性のα-アミラーゼ酵素を組み合わせたBEO区(商品名クリナ・ルミナンツ、それぞれ乾物1kgあたり90mgと560mg)、③BEOに加えて25-ヒドロキシコレカルシフェロール(25(OH)D3、ビタミンD代謝物の一種、1頭1日あたり1mg、商品名ハイD)を与えるBEO+HyD区である。飼料は濃厚飼料の割合を段階的に引き上げるステップアップ方式で慣らされ、最終的な仕上げ飼料は濃厚飼料90%という高デンプン設計だった。
個体ごとの飼料摂取量は電子給餌器(インターガド社製)で毎日測定し、ルーメン内のpHと温度は、口から投与するボーラス型センサー(スマクステック社製)で10分間隔・終始連続的に記録した。屠畜後には、肝臓の膿瘍の有無、ルーメン粘膜の状態(乳頭の数や面積、吸収表面積など)、盲腸の炎症スコアや組織の状態まで詳しく調べている。
研究でわかったこと
結果として、BEO区とBEO+HyD区はMON区に比べて、乾物摂取量が明確に多く(102日間平均でMON区10.77kgに対しBEO区13.18kg、BEO+HyD区12.82kg)、枝肉重量(それぞれ344kg、369kg、372kg)や歩留まり率も高い値を示した。1日あたりの増体量や最終体重については、有意差には届かないものの増加する傾向がみられている。一方で、増体量を摂取量で割った飼料効率には3群間で差がなかった。
ルーメンの健康状態に関わる指標では、BEO区とBEO+HyD区の方がMON区よりも、飼料に慣らす期間および飼育期間全体を通じて、平均・最低ルーメンpHが高く保たれ、pHが6.2や6.0を下回る時間が短く、酸性状態の程度を表す「曲線下面積」もより小さかった。ルーメン内の温度も低めだった。さらに全期間を通じて見ると、pH5.8を下回る時間もBEO区・BEO+HyD区の方が短かったという。これらは、酸性に傾きすぎるルーメンアシドーシスのリスクが、モネンシンを与えた牛よりも低く抑えられていたことを示す結果だ。糞便中のデンプン濃度も、MON区に比べてBEO区で約40%、BEO+HyD区で約58%少なく、消化管全体でのデンプン消化率はBEO区で2.41ポイント、BEO+HyD区で3.48ポイント高かった。
肉質に関しては、せん断力(肉の柔らかさの指標)や調理減量、たんぱく質・脂肪などの成分値、pHにはほとんど差がなく、明度を示すL値だけがMON区でやや高い傾向(BEO+HyD区との比較でP=0.10)がみられた程度だった。ルーメン粘膜の乳頭数や炎症スコア、盲腸の組織指標にも3群間で差はなかったが、ルーメン壁の吸収表面積は、MON区・BEO区の方がBEO+HyD区より大きいという結果も出ている。屠畜した牛には肝膿瘍は一頭も見つからなかった。
この研究の読み方・限界
この論文はブラジルのサンパウロ州立大学獣医畜産学部の研究者と、添加物メーカーであるDSMファーメニッチ社の研究者が共同で行ったものである。著者にはDSM社の所属者が複数含まれており、評価対象の添加物(クリナ・ルミナンツ、ロノザイム・ルミスター、ハイD)はいずれも同社の製品である点は留意しておきたい。また、供試頭数は各群8頭・計24頭と限られており、対象は特定の交雑種(F1アンガス×ネロール)の雄牛かつ高デンプン飼料という条件下での結果である。25(OH)D3の追加投与については、著者ら自身が「枝肉形質への追加効果は限定的だった」と述べており、エッセンシャルオイル+α-アミラーゼの組み合わせ単独の効果と比べて明確な上乗せ効果は確認されなかった。今回の要旨・本文には日本の研究機関や日本の食品・生産に関する記述は含まれていない。一つの試験で得られた結果であり、今後さらに規模の大きい研究や異なる条件下での検証が必要と考えられる。
まとめ
この研究では、エッセンシャルオイルとα-アミラーゼを組み合わせた飼料添加物が、抗生物質モネンシンと比べて、肥育牛のルーメンのpHを安定させ、酸性化のリスクを抑えつつ、摂取量や枝肉重量の面でも遜色ない、あるいはやや優れた結果を示したと報告されている。肉質や盲腸の状態への悪影響は見られなかったとされ、抗生物質に頼らない飼料設計の選択肢として注目される内容だが、企業と共同で行われた研究であることや対象規模の限られた点を踏まえ、今後の追加検証が待たれる。
原著論文の著者・所属:Maria B Niehues(School of Veterinary Medicine and Animal Science, Sao Paulo State University, Botucatu, São Paulo, Brazil)、Daniel Ioan Campos Gomes de [UNESP] Gouvêa(School of Veterinary Medicine and Animal Science, Sao Paulo State University, Botucatu, São Paulo, Brazil)、Alexandre Perdigão(DSM-Firmenich, Department of Innovation and applied Science, São Paulo, Brazil)、Victor Valério Carvalho(DSM-Firmenich, Department of Innovation and applied Science, São Paulo, Brazil)、Tiago S Acedo(DSM-Firmenich, Department of Innovation and applied Science, São Paulo, Brazil)、Luis Fernando Monteiro Tamassia(DSM-Firmenich, Animal Nutrition and Health, Basel, Switzerland)、Cyntia Ludovico Martins(School of Veterinary Medicine and Animal Science, Sao Paulo State University, Botucatu, São Paulo, Brazil)、Mário De Beni Arrigoni(School of Veterinary Medicine and Animal Science, Sao Paulo State University, Botucatu, São Paulo, Brazil)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Maria B Niehues, Daniel Ioan Campos Gomes de [UNESP] Gouvêa, Alexandre Perdigão, et al. Effects of selected feed additives on rumen pH dynamics, physiological responses, and rumen and cecum morphometrics in feedlot beef cattle. プロス・ワン (2026). DOI: 10.1371/journal.pone.0356262. 原著ライセンス: cc-by.