酢酸(さくさん)は、食酢の酸味のもとになっている有機酸という成分です。農林水産省によると、食酢とは酢酸を主成分とする酸味調味料で、原料や製造方法によってさまざまな種類があります。体に入った酢酸は消化管から吸収され、体内でアセチルCoAという形に変わったのち、クエン酸回路と呼ばれる代謝の経路に入ってエネルギーの流れの中で処理されていくとされています。この酢酸、実は食酢の種類によって含有量にかなりの差があるように思えますが、日本食品標準成分表のデータを見ると意外にも「ほとんど差がない」のです。
成分表のデータで酢酸が多い食品を並べると、上位5食品は僅差の団子状態です。第1位はバルサミコ酢で100gあたり5.6g、第2位ぶどう酢4.8g、第3位りんご酢4.7g、第4位米酢4.4g、第5位穀物酢4.2gと続きます。最高値と最低値の差はわずか1.4gで、種類による酸味の違いは酢酸の量そのものよりも、香りや他の成分の個性から生まれていると考えたほうが自然そうです。
上位5食品を見比べる
バルサミコ酢は「酢酸以外」も濃い
バルサミコ酢は酢酸5.6gで1位ですが、注目したいのは糖類です。この食品の甘みの主体はぶどう糖8.3g(推定値)で、果糖8.1g(推定値)がそれに続きます。ほかの4つが22〜46kcalなのに対し、バルサミコ酢は99kcalとエネルギーが際立って高く、これは熟成の過程で凝縮された糖分の多さを映していると考えられます。酸っぱいだけでなく、甘みも一緒に背負っている酢だと言えそうです。
ぶどう酢とりんご酢は原料の果実が個性を作る
ぶどう酢は酢酸4.8g、りんご酢は4.7gとほぼ並びます。りんご酢は果実酢の代表格で、さわやかな香りが持ち味とされ、酸度は約5%、別名アップルビネガーとも呼ばれます。いずれも脂質はほぼゼロで、酢酸の量そのものより、原料の果実由来の香りが飲み比べたときの印象を左右しているのでしょう。
米酢と穀物酢は「量で選ぶ」酢の代表
米酢は酢酸4.4gで、米だけで作る純米酢や玄米を原料にした玄米酢などがあり、酸がやや多めとされています。穀物酢は4.2gで、穀類をいったんアルコールに変えてから酢酸発酵させて作られます。この2つは特別な果実の風味を主張しない分、酢の物や合わせ酢など毎日の料理に使い回しやすい存在です。
迫力の数字と、実際に口に入る量のギャップ
ここまでの数字はすべて100gあたりの値です。しかし酢を100g、つまりコップ半分近くも一度に飲む人はまずいません。実際の目安量は小さじ1杯で5g、大さじ1杯でも15g程度です。この量で計算し直すと、酢酸の量は一気に小さくなります。小さじ1杯なら酢酸はおよそ0.2〜0.3g、酸っぱさで名高い大さじ1杯でも0.6〜0.8g程度にしかなりません。「酢は酸っぱいから体にガツンと来そう」という直感と、実際に食卓に乗る量の"薄さ"には、これだけの開きがあるわけです。数字が持つ迫力と、料理に垂らす量の現実は、まったく別の話として捉えたほうがよさそうです。
なお、酢酸を関与成分とする機能性表示食品が届け出られており、「肥満気味の方の内臓脂肪を減少させる」機能性が報告されている例もあります。ただしこれは事業者が消費者庁に届け出た制度上の情報であり、国が個別に効果を審査・許可したものではなく、届出は特定の配合量での機能であって、今回見てきた食品そのものの含有量とは別の話です。
※特定の食品の効果を示すものではありません。
まとめ
酢酸の量だけを見れば、バルサミコ酢から穀物酢まで100gあたり4〜5.6gの範囲にひしめき合っていて、実はどれも大差ありません。差がつくのは香りや糖分、価格や使い勝手のほうです。特別な風味を楽しみたいときはバルサミコ酢やりんご酢、毎日気軽に使いたいときは米酢や穀物酢。次の一本は、酸の強さではなく何に使うかで選んでみてください。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準