この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Buletin Peternakan
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
鶏の消化管には、サルモネラや大腸菌といった病原細菌がすみつくことがあります。これらの細菌は飼料や飲み水を通じて体内に入り、栄養の吸収を妨げて成長や生産性を下げる要因になると指摘されてきました。これまで多くの養鶏現場では、病原細菌を抑える目的で抗生物質成長促進剤(AGP)が飼料に加えられてきましたが、論文では、AGPが消化を助ける有用な細菌まで減らしてしまうことや、鶏肉に抗生物質の残留を残す懸念があることが先行研究をもとに紹介されています。
そこで代替として注目されているのが有機酸です。有機酸は消化管内を酸性に保ち、低いpHに弱い病原細菌の働きを抑えると考えられています。その一つであるプロピオン酸は、家畜が摂取しても食肉に残留を生じないとされ、カビの増殖を抑える働きやpHを調整する働きも報告されています。著者らは、プロピオン酸がこれまでブロイラーや採卵鶏では使われてきた一方、インドネシアの在来種であるカンポン鶏には用いられてこなかった点に着目しました。本研究の目的は、飼料へのプロピオン酸添加がサルモネラのすみつきを抑え、カンポン鶏の成長成績を高めるうえでどの程度有効かを確かめることです。
どのように調べたか
研究チームは、インドネシア・東ヌサトゥンガラ州のケファメナヌで、2024年7月から11月までの5か月間にわたり試験を行いました。用いたのは6週齢のカンポン鶏250羽で、完全無作為化法により5つの処理区に分け、各区に5反復(1区画あたり10羽)を設けています。
飼料は、プロピオン酸を加えない対照区(T0)と、そこへ0.20%(T1)、0.40%(T2)、0.60%(T3)、0.80%(T4)を加えた区の5種類です。飼料と飲み水は自由に摂取できるようにし、飼料は毎日、体重は毎週測定して、6週齢から20週齢まで飼育とデータ収集を続けました。観察した項目は、飼料摂取量、増体量、飼料要求率(増体1に対して必要な飼料の量を示す指標で、値が小さいほど効率がよい)、屠体重と屠体歩留まり、そして腸内の細菌数です。
細菌の分析は、回腸(小腸の末端部)から採取した試料を培地で培養し、サルモネラ属菌とプロバイオティクス細菌(消化を助ける有用な細菌)の数を測る方法で行われました。著者ら自身が明記しているとおり、微生物の分離と同定には手間と費用がかかるため、この細菌の測定だけは各処理区から代表となる1検体を選んで実施しています。そのため成長成績のデータは統計解析にかけられた一方、細菌数のデータは統計検定を行わず、記述的に示されています。著者らは、この点を今後すべての反復で確認すべき限界として挙げています。
報告された主な結果
成長成績では、プロピオン酸を0.60%加えたT3区と0.40%のT2区で体重が最も高く、それぞれ1羽あたり1,775.00±4.00グラム、1,767.40±9.01グラム(14週間の飼育後)と報告されました。週あたりの増体量も同様に高く、T3で105.63±0.25グラム、T2で104.37±0.40グラムでした。これらは他の区より統計的に有意に高い値(p<0.05)だったとされています。逆に最も低かったのは添加のない対照区T0で、体重は1羽あたり1,671.40±5.57グラムでした。0.80%まで増やしたT4区では、T3区より値が下がっています。
一方、飼料摂取量には区による差が認められず、週あたり1羽574.63±0.87グラム(T1)から578.14±1.12グラム(T4)の範囲にとどまりました。つまり、食べる量が変わらないまま体重が増えたことになります。これを反映して飼料要求率には差が出ており、対照区T0が5.86±0.18と最も高く(効率が悪く)、他の区より有意に劣っていました。屠体重が最も高かったのもT3区で、1羽あたり1,100.46±2.26グラム、屠体歩留まりは62.00±0.06%でした。
細菌については、サルモネラ属菌の数が対照区T0で最も多く325×10²CFU/mLだったのに対し、T3区では30×10²CFU/mLと最も少ない値が報告されています。反対にプロバイオティクス細菌の数はT3区で最も多く、662844×10⁹CFU/mLに達しました。著者らはこれらを踏まえ、0.60%のプロピオン酸添加がサルモネラ属菌の数を抑え、カンポン鶏の成長成績を改善したと結論づけています。ただし前述のとおり、この細菌のデータは各区1検体に基づく記述的な結果であり、著者ら自身が予備的な知見と位置づけている点には注意が必要です。
この研究が示すこと
この研究は、抗生物質成長促進剤に頼らずに鶏の腸内環境を整える方法を探る試みの一つです。報告された範囲では、飼料に加える量を増やせば増やすほどよいわけではなく、0.60%付近で成長成績と腸内細菌の両面がもっとも良好だった点が特徴的です。さらに、飼料を多く食べさせたから体重が増えたのではなく、同じ摂取量でより効率よく体重に変わったという結果は、腸の状態が生産性に関わるという著者らの見方と重なります。これまでブロイラーや採卵鶏を対象としてきた知見を、在来種であるカンポン鶏に広げた一例として位置づけられる研究といえるでしょう。
著者:Lukas Pardosi(Department of Biology, Faculty of Agriculture, Science and Health, University of Timor, East Nusa Tenggara, 85613)、Charles Venirius Lisnahan(Department of Animal Husbandry, Faculty of Agriculture, Science and Health, University of Timor, East Nusa Tenggara, 85613)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lukas Pardosi, Charles Venirius Lisnahan The Effects of Propionic Acid Level in Feed on the Growth Performance and Salmonella Sp. Characteristics of Kampong Chickens. Buletin Peternakan 2026-08-31. DOI: 10.21059/buletinpeternak.v50i3.117679. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。