スピルリナは栄養価の高さから食品素材として注目されてきましたが、あの鮮やかな緑色が実は普及の壁になっているといいます。パンやスナック、飲料に加えると製品全体が強い緑色になり、消費者に受け入れられにくいことが課題として指摘されてきました。今回、ブラジル・リオグランデ連邦大学などの研究グループが、光を使わない培養方法によってスピルリナの色を薄めつつ、栄養面での価値をどこまで保てるかを調べた研究を発表しました。

光を当てずに育てる『従属栄養培養』とは

実験に使われたのは、同大学の株保存庫に保管されているスピルリナ株「Spirulina sp. LEB 18」です。この株はブラジル南部のラグーン(ラゴア・ダ・マンゲイラ)から単離されたものだと説明されています。通常スピルリナは光合成によって育ちますが、今回の研究では培養槽を完全な暗闇に保ち、炭素源として通常使われる炭酸水素ナトリウムの代わりにグルコース(ブドウ糖)または酢酸ナトリウムを与える「従属栄養培養」を10日間行いました。濃度は0.2、1.0、2.0 g/Lの3段階で、2日おきに追加投入する方式(フェドバッチ)が採られています。比較のため、通常どおり光を当てて育てる対照区(明期・暗期を12時間ずつ繰り返す条件など)も複数用意されました。

色はどれくらい変わったのか

10日間の培養後、暗所で育てたグループはいずれも緑色が薄まり、色の変化の大きさを示す指標(ΔE、数値が大きいほど元の色との違いが人の目にも分かりやすい)が7を超えたと報告されています。中でも酢酸ナトリウムを0.2 g/Lで与えた条件はΔE=10.33ともっとも色の変化が大きく、同時にタンパク質含量は対照区と同程度に保たれていたとされます。色の変化の背景には光合成色素であるクロロフィルaの減少があり、これは光を使わない培養で光合成の仕組みが働きにくくなることと関係づけられています。一方、青色の色素であるフィコシアニンや、カロテノイド(黄〜オレンジ系の色素)の含有量は、光を当てた対照区と比べて統計的な差が見られなかったとのことです。フィコシアニンには抗酸化・抗菌的な働きがあるとされ、アイスクリームやワイン、ゼラチンを使ったフィルムなどへの応用例も紹介されています。

栄養成分はどう変わったか

グルコースを与えた条件では、脂質や炭水化物の蓄積が目立ったとされ、研究者らは炭素がエネルギー貯蔵物質の合成に振り向けられた結果ではないかと考察しています。一方、酢酸ナトリウム0.2 g/Lの条件はタンパク質含量が対照区に近い水準を保っていました。なお、光を当てた対照区のタンパク質含量(38.68%)自体、市販のスピルリナ(一般に50〜70%程度とされる)より低めだったといいます。研究チームはこの差について、今回はタンパク質を直接測る手法(ローリー法)を用いたこと、また振とうフラスコという小規模な培養条件では光や物質の行き渡り方に限界があった可能性を挙げています。暗所での培養そのものについても、光や栄養素(特に窒素)の不足、培養中のpH変動がストレスとなり、いずれの暗所培養でもバイオマス濃度が1 g/Lを超えなかったことが記されています。

この研究の位置づけと注意点

著者らは、暗所培養は人工照明が不要になる分、将来的にコストの面でも意味を持ちうると述べる一方、今回の実験は振とうフラスコを使った比較的小規模な条件下でのものであり、増殖速度や成分含量は光合成を使う通常の培養に比べて全体的に低かった点を限界として挙げています。また貯蔵物質であるポリヒドロキシ酪酸(PHB)などは今回測定しておらず、成分の一部がどこに向かったかは今後の課題としています。色の変化と各色素量の関係についても、色素の量だけでなく細胞内の構造など物理的な要因が関わっている可能性が指摘されており、メカニズムの全容はまだ明らかになっていません。一つの研究段階の成果であり、今後さらに条件の最適化や、実際の食品への応用試験が必要とされる内容です。

まとめ

この研究は、光を使わずグルコースや酢酸ナトリウムを与える培養によって、スピルリナ特有の濃い緑色を薄めつつ、条件によってはタンパク質含量を大きく損なわずに済む可能性を示したものです。ただし増殖効率や一部栄養成分は通常培養より低く、色を薄める工夫と栄養価を両立させるための調整はまだ発展途上といえます。食品への応用が期待される研究ですが、実用化に向けては今後のさらなる検証が必要です。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Gabriela Moura Kurowiski de Brito, Jorge Alberto Vieira Costa, Luísa Barreira, et al. Color-Modulated Spirulina Biomass Produced Under Heterotrophic Cultivation as a Sustainable Food Ingredient. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15152761. 原著ライセンス: cc-by.