アスリートの食事や栄養管理は、パフォーマンスやコンディションに深く関わるテーマとして注目されています。その現場で選手に日々アドバイスをするのが、コーチという存在です。コーチ自身がスポーツ栄養についてどの程度の知識を持っているかは、選手の食習慣にも影響しうると考えられています。しかし、そうした知識を正確に測るには、文化や言語に合わせて適切に作られ、検証された『質問票(アンケート)』が必要です。今回紹介する研究は、スポーツ栄養知識を測定するための質問票『NSKQ(Nutrition for Sport Knowledge Questionnaire)』をギリシャ語版として翻訳・調整し、その調査票としての性能をさまざまな統計手法で検証したものです。

研究でわかったこと

この研究では、さまざまな競技を代表する514名のギリシャの公認コーチを対象に、横断的な調査が行われました。NSKQは、翻訳とその逆翻訳を繰り返す標準的な手続きと、専門家パネルによるレビューを経て、ギリシャの文化的背景に合うように調整されました。

調査票としての精度は、『古典的テスト理論(CTT)』と『ラッシュモデリング』という2つの統計的アプローチを組み合わせて評価されました。具体的には、各設問の難易度や識別力(知識レベルの違いをきちんと区別できるかどうか)、内的一貫性を示すKR-20やマクドナルドのオメガという指標、さらに確認的因子分析などが用いられています。また、時間を空けて同じ質問票に再度回答してもらうことで、回答の安定性(再現性)も確認されました。

結果として、設問の識別力は分野(ドメイン)によってばらつきがあり、『アルコール』に関する分野で最も良好な性能を示した一方、『体重管理』と『スポーツ栄養』の分野ではやや弱いことが示されました。内的一貫性についても、多くの分野では中程度とされましたが、『体重管理』と『スポーツ栄養』の分野は信頼性がやや低い結果でした。一方、時間を空けた再検査での安定性は非常に高く(級内相関係数ICC=0.998)、優れていたと報告されています。因子分析の結果は分野によってばらつきが見られたものの、ラッシュ分析では設問レベルでの適合度はおおむね良好であったとされています。

肝心のコーチの栄養知識レベルについては、『平均的』と評価された人が56.8%、『乏しい』とされた人が32.3%を占め、『良好』または『優秀』と評価されたのはわずか10.9%にとどまりました。また、栄養に関する知識のスコアは、年齢、資格取得の経路、過去の競技経験、そして栄養に関連したコーチングの実践内容といった要因によって差がみられたことが報告されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、スポーツ栄養に関する知識を測る質問票をギリシャ語圏のコーチ向けに使えるようにし、その測定精度を複数の統計手法から多角的に検証したものです。著者らは、古典的テスト理論・確認的因子分析・ラッシュモデリングという異なるアプローチを組み合わせることで、より包括的な心理測定学的評価を提供したとしています。

一方で、分野によっては識別力や内的一貫性が十分でない部分があったことも示されており、著者ら自身も、今後さらに検証を重ねてこの調査票の精度を高めていく必要があると述べています。この研究はギリシャの公認コーチを対象としたものであり、得られた知見がそのまま他の国や地域、あるいは異なる立場の人々に当てはまるとは限りません。一つの研究として得られた結果であり、結論が確定したものではない点には留意が必要です。

まとめ

今回紹介した研究では、スポーツ栄養知識を測定する質問票のギリシャ語版が開発され、その信頼性や妥当性がさまざまな統計手法により検証されました。あわせて、調査対象となったコーチの多くが平均的または乏しい栄養知識レベルにとどまっていたことも報告されています。コーチの栄養知識と選手への影響については今後さらなる研究が期待される分野といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ギリシャ語版スポーツ栄養知識質問票(NSKQ-Gr)の異文化間適応と心理測定学的評価:古典的テスト理論とラッシュモデリングによるエビデンス(スポーツ・2026年08月)