この研究は、アルゼンチンの研究機関の研究論文です。
掲載誌:PLoS ONE
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何のために作られたのか
食べたものを正確に把握することは、栄養状態を知ったり、食事と病気の関係を調べたりするうえで欠かせません。しかし著者らは、食事調査には難しさが残ると述べています。とくに「どれくらいの量を食べたか」を思い出して答えるのは難しく、ここで生じるずれは、エネルギーや栄養素の摂取量を実際より少なく、あるいは多く見積もらせる誤差の主要な原因になります。
そこで各国では、料理の写真を集めた「フォトグラフィック・フードアトラス」と呼ばれる道具が作られてきました。調査を受ける人が写真を見て「自分が食べたのはこれくらい」と選べるようにする仕組みです。食習慣や料理は地域ごとに異なるため、こうした道具はその土地の食文化に合わせて作る必要があります。研究チームは、アルゼンチンではこうした地域向けの写真資料がまだ限られていたと指摘しています。
この研究の目的は、アルゼンチンで食べられている食品と料理について、量を示す写真と栄養成分の情報をひとつにまとめた、誰でも無料で使えるデジタル版のアトラスを開発することでした。あわせて、実際に人が使ったときに目的の食品を探し出せるか、目の前の盛り付けと写真を正しく対応づけられるかを、観察下で確かめています。
どのように作り、どう確かめたか
アトラスは、複数の機器で同じように表示できる仕組みを使って作られました。収録された食品は栄養面や食事内容の似たものごとに26のカテゴリーに整理され、野菜、果物、肉、魚、乳製品、菓子、飲料、ファストフードなどが含まれます。名前を打ち込むと候補が絞られる検索機能も備え、語順や記号、大文字・小文字の違いに左右されず、途中まで入力しただけでも探せるように設計されました。アルゼンチンで一般的に使われる平皿・深皿・カップ・グラス・スプーン・おたまといった食器も収録され、量の見当をつける手がかりになります。栄養成分の情報を表計算ソフトなどへ写せる書き出し機能もつけられました。
収録する食品や料理、分量の選定は、研究チームが以前おこなった調査をおもな土台としています。そこではアルゼンチンの16州で1,165件の24時間食事思い出し調査が集められ、よく食べられている食品や料理、分量、使われる食器が特定されました。加えて、アルゼンチンの食品成分データベースに載っている食品も取り入れられています。写真に写す分量は、その調査で実際に報告された範囲をカバーするように選ばれました。
撮影は大学の栄養学実験室で標準化した手順に沿っておこなわれました。食品は市場で購入し、必要に応じて切り方をそろえたり加熱したりしたうえで、少ない量から順に盛り足しながら、その都度重さを量って撮影しています。バナナのように個数で数える食品は、小・中・大それぞれを撮って重さと結びつけました。料理については87品の標準レシピが作られ、材料の重さを量り、加熱の種類と時間を記録し、出来上がりの重さも量って栄養価の計算に使いました。栄養成分の値はアルゼンチンの成分表を第一に用い、そこに載っていない場合は研究チームの別の成分表、さらに米国のデータベースへとたどる順序が決められています。料理の栄養価は国際機関の手法に沿って、加熱による栄養素の残存率も考慮して算出されました。
使い勝手を確かめる調査は、大学の食堂で108人の参加者(多くは若い成人)を対象におこなわれました。参加者は自分の端末でアトラスを開き、目の前に出された20品について、それに最もよく合う画像を選びます。20品のうち7品は市販の包装食品で、正しい商品と包装サイズまで選べたときに「一致」とされました。残る13品は盛り付けの量を写真と対応させる課題で、出された分量はアトラスの写真のいずれかの分量ぴったりになるよう用意され、その写真と分量を選べた場合だけ「一致」と数えられました。研究者は選ばれた選択肢と、目的の食品を探し出せたかどうかを記録しただけで、作業には介入していません。なお著者らは、作業時間や満足度、難しさの感じ方は別に測っていないため、この調査は一般的な使いやすさの評価ではなく、検索の成否と一致率の評価として位置づけると明記しています。
報告された主な結果
完成したアトラスには3,273枚の写真が収められ、998種類の食品を、見せ方の違いを含めて1,052項目として表しています。栄養成分は食品ごとに最大53の項目まで示されます。
参加者と食品を組み合わせた全2,160の課題のうち、目的の食品や料理をアトラス内で見つけ出せたのは2,156件、99.81%でした。探せなかったのは4件のみです。写真と分量まで完全に一致した選択は1,869件で、全体の86.5%にあたります。参加者一人あたりでは平均17.3品(20品中)が一致しました。
統計モデルによる解析では、成績のばらつきは参加者どうしの差よりも食品どうしの差のほうが大きいと報告されています。一方で、食品の大きな区分(包装食品、ほとんど加工されていない食品、標準レシピ)や課題の種類は、一致するかどうかと統計的に有意な関連を示しませんでした。参加者の特性を加えたモデルでは、女性のほうが男性より一致する見込みが高いという関連がみられ(オッズ比1.55、95%信頼区間1.08〜2.24)、年齢や栄養関連の学業・仕事との関連はみられませんでした。
分量を写真に合わせる13課題(1,404件の観察)では、選んだ写真に対応する重さから実際に出された重さを引いた誤差の平均は−1.34グラム(95%信頼区間 −4.68〜2.00、p=0.447)で、全体として少なめ・多めのどちらかに偏る傾向の証拠は得られませんでした。出された分量が大きいほど誤差が一方向に広がるという関係も認められていません(p=0.703)。ただし個々の測定がどれだけばらつくかを示す一致の限界は−33.44〜30.76グラムの範囲でした。
食品ごとに見ると成績の差は大きく、生のきゅうりの薄切り(32.4%)や生のトマトの薄切り(47.2%)、ゆでた白米(72.2%)などが低く、他の多くの品目は95%を超えていました。きゅうりとトマトの薄切りでは、平均の誤差も少なめに見積もる方向に大きく出ています。著者らは、より多様な人々を対象とした調査や、日常的な食事調査の場面での検証が今後必要だとしています。
この研究が示すこと
Smart24Foodは、分量を示す写真と、食品・料理の栄養成分情報を一体にした、アルゼンチン向けのオープンアクセス資料です。管理された観察条件のもとでは、参加者は目的の食品をほぼ確実に探し出し、多くの場合は分量まで正しく対応づけられました。
同時にこの研究は、難しさが人によるよりも食品によって生じていたことを示しています。薄切りのきゅうりやトマトのように、見た目から量を読み取りにくい食品があるという指摘は、写真を使った量の推定という手法そのものの得手不得手を具体的に浮かび上がらせるものです。地域の食文化に根ざした調査道具を、実際の使われ方とともに検証していく取り組みの一例といえます。
著者:Ismael Alejandro Contreras-Guillén(National Scientific and Technical Research Council (CONICET))、Sara Leeson(Universidad Adventista del Plata)、Rocio Victoria Gili(National Scientific and Technical Research Council (CONICET))、Belén Carlino(National Scientific and Technical Research Council (CONICET))、Emanuel Irrazabal(National Scientific and Technical Research Council (CONICET))、Sandaly Oliveira da Silva Pacheco(Universidad Adventista del Plata)、Fabio J. Pacheco(Universidad Adventista del Plata)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ismael Alejandro Contreras-Guillén, Sara Leeson, Rocio Victoria Gili, et al. Development of an open-access food atlas with nutrient composition and recipes in Argentina: The Smart24Food Atlas. PLoS ONE 2026-09-25. DOI: 10.1371/journal.pone.0359331. 原著ライセンス:CC BY.