この研究は、スイスの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Urolithiasis

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

腎結石は、先進国では生涯のうちに10〜15%の人が経験するとされる頻度の高い病気で、近年その発症は増加傾向にあると報告されています。結石は、尿に溶けている成分が溶けきれる限界を超えたときに結晶が生まれ、それが集まることでできます。食事や運動量、水分のとり方といった生活習慣が関わると考えられていますが、遺伝や代謝の体質だけではこの増加傾向を説明しきれていません。

研究チームが注目したのは、尿に含まれる揮発性有機化合物(VOC)です。VOCとは、常温で気体になりやすい分子のことで、体内の代謝や腸内細菌の働き、さらには身の回りの環境からの取り込みを反映すると考えられています。著者らは、腎結石を繰り返す人と結石のない人とで尿のVOCの顔ぶれが違うのか、またそうしたVOCが発酵食品の摂取と結びついているのかを調べることを目的としました。論文によれば、尿のVOC・発酵食品の摂取・腎結石を同時に扱った研究はこれまで行われていませんでした。

何をどう調べたか

対象となったのは、スイス全国の腎結石コホート研究に参加した400人です。内訳は、2回以上の結石エピソードがあった患者232人と、CT検査で結石がないことを確認された対照者168人でした。参加者はスイス国内6つの病院で登録され、尿の採取手順は統一されていました。

食事については、訓練を受けた管理栄養士が24時間思い出し法(前日に食べたものを聞き取る方法)で聞き取り、発酵食品かどうかを既存の分類の枠組みに沿って判定し、1日あたりのグラム数として集計しました。尿のVOCは、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)を用いた手法で、あらかじめ狙いを定めずに幅広く測定されました。

データ解析にあたって著者らは、年齢・性別・BMI・糖尿病の有無・喫煙状況・研究施設の影響を統計的に補正しています。補正前の解析では、研究施設と性別が尿の成分のばらつきに比較的大きく寄与していたためで、補正後はこれらの影響が小さくなったと報告されています。この上で、2群を見分ける成分を多変量解析などで絞り込みました。

報告された主な結果

著者らは704のVOC信号を検出し、そこから重複などを整理して80の成分を統計検定に用いました。このうち77の成分が結石患者と対照者の間で有意に異なり、42が患者側で多く、35が対照者側で多いという結果でした。化学的な同定の信頼度が高いものは32成分でした。

具体的には、酢酸・プロパン酸・ノナン酸といった短鎖・中鎖の酸や、1-ブトキシ-2-プロパノールが結石患者で高く、オクタン,1,1'-オキシビス-や6-メチル-5-ヘプテン-2-オンは対照者で高いと報告されています。1-ブトキシ-2-プロパノールは工業製品や家庭用品に広く使われる物質で、著者らはこれを病気に固有の代謝産物というより、環境からの曝露を示す指標である可能性が高いと慎重に位置づけています。

発酵食品の摂取と有意に関連した尿中成分は28ありました。そのうち結石の有無とも関連していたのは3つで、化学構造まで確実に同定できたのは3-ノネン-2-オンという1成分でした。この成分は結石であることと逆向きの関連を示し(オッズ比0.48)、その尿中量を最もよく説明する食品はコーヒーでした。コーヒーを飲む人では尿中の3-ノネン-2-オンが明らかに高く、著者らが行った探索的な媒介分析は、コーヒー摂取と結石リスクの低さとの関連を、この成分が部分的に仲立ちしている可能性と矛盾しない結果でした。ただし著者らは、本研究が一時点を切り取った観察研究であるため因果関係は示せず、この結果は仮説を生み出す段階のものだと明記しています。なお、3-ノネン-2-オンがヒトの体内や腸内細菌によってつくられる経路は、現時点では報告されていないとされています。

この研究が示すこと

この研究は、尿のにおい成分のパターンが、腎結石のある人とない人とで異なりうることを記述的に示しました。そこには、酸化に関わる過程、有機酸の代謝、腸内細菌の活動、そして環境からの曝露といった複数の要素が反映されていると考えられます。

著者らは本研究を、診断法を検証するものではなく、候補となる指標を見つけ出す段階の研究だと位置づけています。結石の成分が体系的に調べられていないこと、対照群が一般集団を代表していないこと、食事の聞き取りが1日分にとどまることなどの限界も挙げられており、他の集団での検証が必要だとしています。それでも、尿の揮発性成分を調べるという手法が、腎結石に関わる代謝や食事の要因をとらえる補助的なアプローチになりうることを、この研究は具体的なデータとともに示しています。

著者:Pascal Fuchsmann(Agroscope, Food Microbial Systems Research Division, Bern, Switzerland. [email protected])、Eugenia Pertziger(Agroscope, Food Microbial Systems Research Division, Bern, Switzerland)、Hélène Y. Meng(Agroscope, Food Microbial Systems Research Division, Bern, Switzerland)、Saša M. Miladinović(Institute of Life Sciences, School of Engineering, University of Applied Sciences West Switzerland, Sion, Switzerland)、Murielle Bochud(Department of Epidemiology and Health Systems, Center for Primary Care and Public Health (Unisanté), University of Lausanne, Lausanne, Switzerland)、Carsten A. Wagner(Institute of Physiology, University of Zurich, Zurich, Switzerland)、Olivier Bonny(Department of Biomedical Sciences, University of Lausanne, Lausanne, Switzerland)、Guy Vergères(Agroscope, Food Microbial Systems Research Division, Bern, Switzerland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Pascal Fuchsmann, Eugenia Pertziger, Hélène Y. Meng, et al. Urinary volatilomics for biomarker discovery in kidney stone patients and healthy controls. Urolithiasis 2026-08-25. DOI: 10.1007/s00240-026-02045-7. 原著ライセンス:CC BY.