この研究は、タイの研究機関の研究論文です。
掲載誌:PubMed
ライセンス: CC BY 確認元: OpenAlex
研究の目的
タイで「パム」と呼ばれるミジンコウキクサ(Wolffia属)は、乾燥重量の最大40%をタンパク質が占めるとされる小さな水生植物です。成長が速く、浅い水があれば広い土地を必要とせずに育てられることから、研究チームは食料源や排水処理、バイオマス原料としての利用に期待が集まっていると説明しています。一方で、大規模な栽培では生育速度の制御が課題として残っていました。
研究チームが着目したのは、インドール-3-酢酸(IAA)という植物ホルモンです。IAAはオーキシンと呼ばれる種類のホルモンで、細胞の分裂や伸長、根の形成などに関わります。植物自身もIAAをつくりますが、微生物が生産するIAAは発酵によって低コストかつ環境負荷を抑えて得られる可能性があるとして注目されてきました。ただし水生植物への応用はほとんど調べられていません。ミジンコウキクサは根がほとんど、あるいはまったくないため、根の発達を介さずにIAAがバイオマス生産に関わるかを調べる材料として適していると著者らは述べています。
そこで本研究は、ミジンコウキクサに共生する細菌のなかからIAAを効率よくつくる菌を分離・同定し、その生産条件を最適化したうえで、得られた粗抽出物がミジンコウキクサの生育や成分にどう影響するか、また化学肥料の使用量を減らせるかを検討することを目的としました。
何を調べ、どのような方法をとったか
研究チームはタイのカラシン県、ロイエット県、バンコクの農場から採取したミジンコウキクサから合計35株の細菌を分離しました。植物体の表面にいる菌と、組織の内部にいる菌(内生細菌)を分けて取り出し、それぞれについてIAA生産能力を調べています。
次に、最もIAA生産量が多かった株について、16S rRNA遺伝子の配列を解析して種を推定しました。さらに応答曲面法(RSM)という統計的な実験計画の手法を使い、培養液の初期pH、培養日数、植菌量という3つの条件を組み合わせて、IAA生産量が最大になる条件を探しました。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)では、培養液から抽出した成分を標準物質と比べ、どの経路を通ってIAAがつくられているかを調べています。
生育試験は、シャーレを用いた室内実験と、コンケン大学の農場の温室での栽培試験の二段階で行われました。温室試験では、水道水のみ(対照)、化学肥料を推奨量どおり与える区、IAAを0.5 ppm含む粗抽出物のみを与える区、そして粗抽出物と化学肥料50%を組み合わせた区の4条件を比較し、植え付けから7日、14日、21日後に生重量・乾燥重量、葉緑素(クロロフィル)量、タンパク質量、総ポリフェノール量、総フラボノイド量、抗酸化活性を測定しています。抽出物と肥料は試験開始時に一度だけ与え、21日間の試験期間中は追加していません。
報告された主な結果
35株のうち4株が1 mLあたり50 µg以上のIAAを生産し、なかでもW1/6株が106.34 µg/mLと最も多くつくりました。この株はグラム陰性の桿菌で、16S rRNA遺伝子の配列がKlebsiella variicolaの既知の株と99%一致し、系統解析でも同種の株とまとまったと報告されています。
応答曲面法による最適化では、pH 5.84、培養5日、植菌量10.63%(v/v)という条件が予測され、その条件で実際に培養したところ164.69 ± 0.62 µg/mLのIAAが得られました。これは予測値との差が0.63%にとどまり、モデルがよく当てはまっていたと著者らは述べています。HPLC分析ではIAAのほかにL-トリプトファンとインドール-3-アセトアミド(IAM)に相当するピークが検出された一方、ほかの関連中間体は検出されず、この株はトリプトファンを出発点としIAMを経る経路で主にIAAをつくっていると考えられると報告されています。
温室試験では、粗抽出物と化学肥料50%を組み合わせた区(T4)と、化学肥料を全量与えた区(T2)が、対照区や粗抽出物のみの区を上回る生育を示しました。植え付け21日後の生重量は、組み合わせ区で78.61 ± 4.75 g/トレイ、化学肥料全量区で58.26 ± 12.42 g/トレイであり、組み合わせ区のほうが有意に高い一方、乾燥重量では両区に統計的な差はなかったと報告されています。クロロフィル量やタンパク質量、総ポリフェノール量、総フラボノイド量、DPPHラジカル消去活性についても、21日後の時点で組み合わせ区は化学肥料全量区と同程度の水準を保っていました。なお、これらの成分は21日後にはどの区でも早い時期より低下しており、著者らは成長に伴う代謝の配分の変化と関連している可能性を指摘しています。
一方、粗抽出物だけを与えた区では、化学肥料全量区に匹敵するバイオマスは得られませんでした。著者らはこれを、オーキシンが養分の代わりではなく成長の調節役として働くという従来の知見と一致するものだと説明しています。また、養分の吸収そのものは本研究では直接測定していないとも述べられています。
この研究が示すこと
著者らは、ミジンコウキクサから分離した内生細菌K. variicola W1/6が有望なIAA生産菌であり、その粗抽出物は化学肥料の代替ではなく、減らした肥料と組み合わせて使う「バイオスティミュラント(生育を後押しする資材)」として働きうると結論づけています。化学肥料を半分にしても、バイオマスやタンパク質、二次代謝産物の蓄積を推奨量どおりの施肥と同程度に保てたという報告は、肥料への依存を減らしながら栽培を続ける道筋の一つを示すものです。
ただし著者らは、大規模な栽培への展開に先立って、発酵・抽出工程の最適化、製品の安定性とIAA濃度の一定性の確保、経済性の評価、そして実際の栽培条件や複数の栽培サイクルでの効果の検証が必要だとしています。
著者:Tanaporn Ladthaisong(Department of Microbiology, Faculty of Science, Khon Kaen University, Khon Kaen 40002, Thailand)、Thanawan Gateta(Department of Microbiology, Faculty of Science, Khon Kaen University, Khon Kaen 40002, Thailand)、Wasan Seemakram(Department of Microbiology and Parasitology, Faculty of Medical Science, Naresuan University, Phitsanulok 65000, Thailand)、Urachart Kokaew(Applied Intelligence and Data Analytics Laboratory, College of Computing, Khon Kaen University, Khon Kaen 40002, Thailand)、Nisachon Jangpromma(Protein and Bio-Innovation Research Center for Sustainable Health (ProBISH), Khon Kaen University, Khon Kaen 40000, Thailand)、Sophon Boonlue(Department of Microbiology, Faculty of Science, Khon Kaen University, Khon Kaen 40002, Thailand)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tanaporn Ladthaisong, Thanawan Gateta, Wasan Seemakram, et al. Indole-3-Acetic Acid Production by Klebsiella variicola from Watermeal and Its Role in Enhancing Watermeal Growth.. PubMed 2026-08-28. DOI: 10.3390/plants15172642. 原著ライセンス:CC BY.