コメは世界中で食べられている主食のひとつですが、その生産には多くの化学肥料が使われています。近年では、家畜のふん尿や生ごみなどを微生物によって分解する『嫌気性消化』というプロセスから出てくる液体(嫌気性消化液、ADE)を、肥料として再利用しようという動きが注目されています。廃棄物をうまく循環させながら、コメの品質や収穫量を保てるのかどうかは、農業と環境の両方にとって気になるテーマです。今回紹介する研究は、この嫌気性消化液を使って化学肥料の一部を置き換えた場合、稲作にどのような影響があるのかを、実際の田んぼで調べたものです。

研究でわかったこと

この研究では、2023年7月から11月にかけて、稲(Oryza sativa L.)の生育期間にあたる123日間、実際の圃場(ほじょう)で試験が行われました。化学肥料100%を使う区画(T1)を基準として、化学肥料75%+嫌気性消化液25%の区画(T2)、化学肥料50%+嫌気性消化液50%の区画(T3)など、化学肥料と嫌気性消化液の配合割合を変えた複数の条件が比較されています。

その結果、T1と比べてT3の条件では、稲の新鮮重(収穫時の重さ)や分げつ数(茎の枝分かれの数)、SPAD値(葉の緑の濃さから推定される指標)、穂の数などが増加し、稲の生育が促進されたと報告されています。また、T2とT3の条件では、玄米に含まれるタンパク質、アミロース、アミロペクチン、アミノ酸、微量元素の含有量が高くなる傾向が見られ、栄養面での質の向上に良い影響があったとされています。

一方で、玄米の収量そのものは、T1と比べてT2で5%、T3で6%それぞれ減少したことも報告されています。この収量の低下について、研究では嫌気性消化液が肥料成分をゆっくりと放出する『緩効性』の性質を持つことが一因である可能性が示唆されています。

さらに経済性の分析も行われており、いずれの条件でも収穫したコメの60%以上を販売できれば損益分岐点を超えると試算されています。収量が減ることで利益自体は下がるものの、化学肥料の一部を嫌気性消化液に置き換えることには、経済的にも前向きな意味があるとされ、特にT3の条件が長期的な稲作においてより持続可能な選択肢になりうると考察されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

今回の実験は1回の生育期間(123日間)を対象としたものであり、研究者自身も、部分的な嫌気性消化液の代替が長期的に持続可能かどうかを確かめるには、複数年にわたる圃場試験が必要だと述べています。つまり、今回の結果だけで『嫌気性消化液を使えば長期的にも安定して良い結果が得られる』と結論づけられているわけではありません。あくまで一つの研究であり、今後さらに検証が重ねられていくべき段階にあるといえます。

まとめ

この研究では、化学肥料の一部を嫌気性消化液に置き換えることで、稲の生育や玄米の栄養成分(タンパク質やアミロースなど)に良い影響が見られた一方、収量はやや減少することが示されました。それでも経済分析では、コメの販売比率次第で採算が取れる可能性があるとされ、特に化学肥料とADEを半分ずつ用いる条件が、廃棄物を資源として活用しながら持続可能な稲作を目指すうえでの一つの選択肢になりうると報告されています。今後の複数年にわたる検証が待たれるところです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:化学肥料を嫌気性消化液で代替した場合の稲作における性能と経済的実現可能性(アグロシエンシア・2026年07月)