この研究は、イタリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとした研究か

心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)は、世界的に大きな健康課題です。LDLコレステロール値、高血圧、肥満、2型糖尿病といった従来の危険因子を治療しても、なおリスクが残ることが知られており、著者らはその「残余リスク」に関わる要因の一つとして、自覚症状のない弱い炎症が長く続く状態、いわゆる「軽度の慢性炎症(low-grade chronic inflammation)」に注目しています。

本論文は新たな実験や臨床試験を行ったものではなく、既存の研究を整理して論じるナラティブレビューです。著者らは、軽度の慢性炎症がASCVDの発症・進行に関わる分子メカニズムと臨床で使える指標を概観したうえで、この炎症を和らげる栄養面のアプローチと、サプリメント(ニュートラシューティカル)に関する科学的根拠を整理することを目的としたと述べています。

どのように資料を集めたか

著者らはPubMedデータベースで、「栄養」「動脈硬化性心血管疾患」「軽度の慢性炎症」「高感度CRP」「残余心血管リスク」などのキーワードを用いて検索し、当初およそ7000件の記録を確認したと報告しています。そこから発表年(2014〜2026年)で4935件、英語かつ全文が入手できるもので3512件、査読済みで成人を対象とした論文という条件で1733件へと絞り込み、さらにレビューの主題(栄養+軽度の慢性炎症+ASCVD)との関連性で選別して、最終的に57本を採用したとしています。

著者らはこの選び方の限界も自ら挙げており、栄養や食事ガイドラインは社会文化的・民族的・地理的な背景と深く結びついているにもかかわらず、本稿が主に地中海地域と欧米諸国で行われた研究の知見に依拠している点を断っています。

炎症をどう測るか — 高感度CRPという指標

著者らの整理によれば、軽度の慢性炎症は「インフラソーム(inflammasome)」と呼ばれる大きなタンパク質複合体が引き起こす炎症反応の結果として生じます。インフラソームは酸化ストレスやコレステロール結晶などの細胞の危険信号を感知するセンサーのような仕組みで、ASCVDの文脈ではNLRP3インフラソームが最もよく調べられており、その下流でインターロイキン(IL)-1β、IL-18、IL-6といった物質がつくられると説明されています。

ただし、こうした物質を血液で測ってもASCVDの状態を十分にとらえられるとは限りません。著者らは、IL-1βやIL-6の働きが主に動脈硬化のプラーク(血管壁にできる病変)の内部で起きるため、血中濃度の変化がその局所の影響を反映しないことがあると指摘しています。腸内細菌が食事成分から作る物質が肝臓で変換されてできるTMAO(トリメチルアミンN-オキシド)など複数の候補も紹介されていますが、大規模臨床試験では高感度CRP(hsCRP)より優れているとは示されておらず、標準化された検査として広く使える形にはなっていないとされています。

そのため現在の臨床では、全身の炎症を表す指標としてhsCRPが用いられています。著者らは、他の従来の危険因子と併せて評価する前提で、hsCRPが1 mg/L未満、1〜3 mg/L、3 mg/L超がそれぞれ相対的に低い・平均的・高い心血管リスクと関連づけられていると述べています。また、一時的な感染症など急性の反応でもhsCRPは上昇する(10 mg/L超)ため、リスク評価の目的で測る場合はそうした事象が収まってから測り直すべきだとしています。なお著者らは、hsCRPが全身の炎症の指標として検証されている一方、ASCVDそのものと一対一で結びつくわけではないとも書いています。

食事パターンと炎症に関する報告

著者らは、食事が炎症を抑える手段として有力である理由を挙げています。食事は毎日必ず摂るものなので抗炎症の方向に向けやすいこと、多くの成分から成るためバランスよく長期的に炎症を調節しうること、そして食事の炎症性を評価する指標が開発・検証されてきたことです。こうした指標には、食事炎症指数(DII)、経験的食事炎症パターン(EDIP)、抗炎症食指数(AIDI)などがあります。

著者らが引用したレビューでは、43の食品ベースの食事指標(65の研究)が検討され、地中海食や各国の食事ガイドラインに基づく指標が主に使われて、いくつもの炎症バイオマーカーと逆の関連(指標が良いほど炎症が低い)を示したと報告されています。研究の71%が炎症を主要なアウトカムとして明示し、CRPまたはhsCRPが最も頻繁に評価された指標でした。指標を構成する食品成分は4〜28項目にわたり、果物、野菜、全粒穀物、豆類が一貫して好ましいもの、赤身肉・加工肉や添加糖が好ましくないものに分類されていたとされています。

地中海食については、Ancel Keysによる七カ国研究以来の観察研究に始まり、リヨン心臓食研究やPREDIMED研究といった無作為化試験が紹介されています。著者らは、これらの試験で示された心血管・代謝面の利点が、主に地中海食の抗炎症・抗酸化作用と、軽度の慢性炎症の調節に関係しうると報告しています。PREDIMED試験については、ナッツまたはエクストラバージンオリーブオイルを加えた地中海食で心血管イベントが減り、hsCRP低下との関連もみられたとする一方、この試験が無作為化の手順の逸脱と統計上の誤りを修正するために撤回・即時再掲載された経緯にも触れています。著者らは、統計の再解析後も中心的な結論は変わらず、2つの介入群で主要心血管イベントの相対リスクがおよそ30%減少したとしつつ、この一件が食事介入研究に伴う課題、とりわけ食事頻度質問票や24時間思い出し法といった遵守度評価手法の頑健性の乏しさを浮き彫りにしたと述べています。

高血圧予防の食事法として知られるDASH食(果物・野菜・全粒穀物・低脂肪乳製品を多く摂り、飽和脂肪・コレステロール・精製糖を控える)についても、血中IL-6との逆相関は一貫してみられ、hsCRPとの関連は大半の研究で認められるものの全部ではない、と整理されています。著者らはまた、地中海食とDASH食が好ましい腸内細菌叢のプロファイルと関連し、リポ多糖やTMAOといった炎症を促す代謝産物の減少と関連づけられてきたことを紹介しています。ただし、介入前後で腸内細菌叢を個別に調べることは今のところ実用的ではなく、研究段階にとどまるとしています。

ケトン食についても、ケトーシス(ケトン体が増えた状態)がNLRP3インフラソームの活性化を抑えるなどの仕組みで軽度の炎症を和らげうるとする、ヒトおよび実験研究の報告がまとめられています。同時に著者らは、この食事法が急激な体重減少や大きな代謝変化を伴い、短鎖脂肪酸を作る細菌の減少やビフィズス菌の枯渇、腸管バリアの障害を伴いうることから、専門医の管理下で行う必要があると強調しています。

サプリメントについての評価

著者らは、食品に含まれる成分を濃縮した食品サプリメント(オメガ3脂肪酸、クルクミン、オリーブオイル由来ポリフェノール、食物繊維、ビタミンD、一部のプロバイオティクスなど)について、hsCRPを含む血中の炎症バイオマーカーを下げ、炎症経路を調節するという臨床・実験レベルの根拠は相当程度あると述べています。

一方で、慢性的な軽度炎症の治療や緩和に関して、FDAやEFSAから特定の表示(クレーム)を認められた製品は現時点で存在しないと明記しています。さらに、ASCVDの減少といったハードエンドポイントに関する根拠も不足しているとし、その背景として有効成分の標準化の不徹底、製剤・用量・対象集団・介入期間の大きなばらつき、長期の堅固な臨床試験の欠如を挙げています。ケルセチンやバイカレインといった天然化合物がNLRP3インフラソームの活性を調節するという報告も紹介されていますが、著者らはこれらの臨床応用はまだ検証されていない段階だと位置づけています。

この論文が示す意味

著者らは、臨床での実践的な道筋として次のような考え方を提示しています。ASCVDリスクが低いとみられる人では、hsCRPを測り、抗炎症的な食事を含む生活習慣を整えてその遵守を確認し、3〜6か月といった適切な期間の後にhsCRPを測り直す、という流れを心血管代謝の評価の一環として行う。高リスク・超高リスクの患者では、性別や年齢に関わる事情、併存疾患、現在の薬物療法を踏まえた、より個別化された評価を加えるべきだとしています。

結びで著者らが強調するのは、根拠の到達点の差です。食事によるアプローチは、抗炎症作用について少なくとも部分的に検証されており、一部ではASCVDリスクへの良い効果も示されている一方、サプリメント・ニュートラシューティカルは、特定の用途では関心を集めているものの、実験的・臨床的な検証を十分に経ていない段階にあります。また著者らは、栄養研究そのものが抱える方法論上の難しさ — 無作為化試験で本当の意味のプラセボ群を置けないこと、遵守度の評価、文化的・民族的な食習慣とその生涯にわたる変化、確立した食生活を変えることへの抵抗 — にも注意を促しています。自覚されないまま続く弱い炎症という視点を、医療者にも市民にも広く認識してもらうこと自体が重要だ、というのが著者らのメッセージです。

著者:Claudia Giglione(Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences “Rodolfo Paoletti”, Universita’ degli Studi di Milano, via Balzaretti 9, 20133 Milano, Italy)、Reham Hattab(Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences “Rodolfo Paoletti”, Universita’ degli Studi di Milano, via Balzaretti 9, 20133 Milano, Italy)、Hygerta Berisha(Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences “Rodolfo Paoletti”, Universita’ degli Studi di Milano, via Balzaretti 9, 20133 Milano, Italy)、Paolo Magni(Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences “Rodolfo Paoletti”, Universita’ degli Studi di Milano, via Balzaretti 9, 20133 Milano, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Claudia Giglione, Reham Hattab, Hygerta Berisha, et al. Low-Grade Chronic Inflammation and Atherosclerotic Cardiovascular Risk: The Beneficial Role of Specific Nutritional Approaches. Nutrients 2026-08-28. DOI: 10.3390/nu18172834. 原著ライセンス:CC BY.