ココナッツ(Cocos nucifera)は熱帯・亜熱帯地域の農業を支える多年生の高価値作物で、実だけでなく油・水・繊維まで幅広く利用されています。ただし1本の木が何年にもわたって実をつけ続けるため、土壌の養分は消耗しやすく、化学肥料だけに頼る従来の栽培では土壌中の有用微生物が減ったり、土の保水力が落ちたりすることが指摘されてきました。一方で堆肥などの有機質肥料だけでは、分解が緩やかで養分濃度も低いため、実つきの多い品種が必要とするピーク時の養分を満たしきれないという弱点があります。そこで今回の研究では、化学肥料と牛ふん堆肥を組み合わせて与えることで、ココナッツの生育・収量・果実の品質・土壌の健全性がどう変わるかを調べています。

どのように調べたのか

試験はバングラデシュ農業研究所(BARI)の園芸研究センターで、2020年から2022年にかけての2年間、樹齢16年のココナッツ品種「BARI Narikel-2」を対象に行われました。5つの施肥区(各3反復、完全無作為配置)が比較されています。具体的には、推奨施肥量どおりに化学肥料を与える区(T1)、推奨量の150%の化学肥料に牛ふん堆肥10kgを加える区(T2)、推奨量の125%の化学肥料に牛ふん堆肥30kgを加える区(T3)、周辺農家の実際のやり方を再現した区(T4、化学肥料は控えめで堆肥20kg)、そして肥料をまったく与えない対照区(T5)です。化学肥料の窒素源には尿素、リン酸源には過リン酸石灰、カリウム源には塩化カリウム、そのほか硫黄・亜鉛・ホウ素の補給には石膏や硫酸亜鉛、ホウ酸が使われました。生育や花・果実の数、果肉の厚みや糖度、ビタミンC含量、たんぱく質含量、さらに収穫後の土壌の有機炭素や窒素量まで、幅広い項目が測定されています。

研究でわかったこと

最も収量が高かったのは、化学肥料を推奨量の125%+牛ふん堆肥30kgを与えたT3区でした。1本あたりの年間果実収量は115kgに達し、肥料を与えなかった対照区(195%の増加)はもちろん、周辺農家の一般的なやり方(67.9%の増加)と比べても大きく上回ったと報告されています。この増収は、1個あたりの果実重量が最大(1.70kg)になったことと、1本あたりの果実数が増えた(75.5個)ことによって生じたとされています。

果実の質に関する指標でも、T3区は果肉(コプラ)の厚みが12.8mmと最大になり、糖度(TSS)は7.25ブリックス、ビタミンC含量は100gあたり3.23mg、たんぱく質含量は12.0%と、いずれも他区より高い値を示しました。また収穫後の土壌を調べたところ、T3区では有機炭素が10%、全窒素が11%増加しており、化学肥料と堆肥の組み合わせが土の養分状態にもよい影響を与えていた可能性が示されています。経済性の面でも、T3区は1本あたり108米ドルの粗収益、77.6米ドルの粗利益を生み、採算性が高いという結果でした。相関分析および主成分分析によって、生育に関する指標と収量・果実品質の指標との間には強い正の関連があることも確認されています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、単一の栽培品種「BARI Narikel-2」を対象に、特定の土壌条件(弱酸性で有機物や窒素含量が低い粘土質ローム土)のもとで2年間行われたものです。気候や土壌条件が異なる地域や、別のココナッツ品種でも同じ結果になるとは限りません。また、栄養成分(ビタミンCやたんぱく質など)の数値は果実そのものの分析値であり、食品として摂取した際の健康効果を検証したものではない点にも注意が必要です。研究チームはバングラデシュ農業研究所に所属しており、日本の食品や生産現場との直接的な関連は今回の要旨・本文には記載されていません。一つの圃場試験の結果であり、今後さらに検証が重ねられていく性質のものと理解しておくのがよいでしょう。

それでも、化学肥料単独よりも堆肥と組み合わせた施肥のほうが収量・品質・土壌の養分状態のいずれにおいても良好な結果を示したという今回の知見は、持続可能なココナッツ栽培を考えるうえで一つの参考情報になりそうです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Md. Anarul Islam, Md. Abdul Quddus, Most. Marufa Khatun, et al. Impacts of Organic and Inorganic Fertilization on Coconut Productivity, Fruit Quality and Soil Health. ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・スタディーズ (2026). DOI: 10.5296/jas.v14i2.23957.