この研究は、スペインの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Plants

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ザクロの皮は、果汁やジャムなどに加工する際に大量に出る副産物ですが、ポリフェノール(植物に含まれる抗酸化成分の総称)を非常に豊富に含むことが知られています。研究チームは、この捨てられがちな皮を価値ある食品素材へ変えることを目指しました。

ただし、ポリフェノールを取り出す抽出には有機溶媒が使われることが多く、そのままでは食品に入れにくいという課題があります。そこで著者らは以前の研究で、食品として使える酢を抽出液とし、超音波の力で成分を引き出す方法(超音波支援抽出)を開発していました。今回の論文は、その抽出液を粉末にしたうえで、6か月間の保存に耐えるかどうか、そしてどのような機能を持つかを調べたものです。

何をどう調べたか

研究チームは、液体を熱風中で霧状に噴霧して一気に乾かす「噴霧乾燥」という手法で粉末を作りました。このとき、成分を包み込んで守る材料(壁材)としてαシクロデキストリンという食物繊維の一種を使っています。

作られたのは4種類です。ザクロ皮抽出物を加えたものと加えていないもの、さらにそれぞれについて、炭酸水素カリウムで酸を部分的に中和した「緩衝処理」ありのものとなしのものです。緩衝処理は酢の強い酸味を和らげるための工夫です。比較対象として、市販の緩衝処理済み酢粉末2製品も同時に評価しました。

評価項目は、粒子の大きさと表面の形状、pHと滴定酸度、水分含量と水分活性、色、総ポリフェノール量と総抗酸化能、そしてリステリア菌とサルモネラ菌に対する抗菌性です。これらを22℃で6か月保存する間、繰り返し測定しました。

報告された主な結果

粉末の物理的な性質は安定していました。開発された粉末はいずれも中央粒径が60マイクロメートル未満で、市販品より小さく、電子顕微鏡では表面がなめらかな球形をしていて、6か月後も崩れや大きな亀裂は見られませんでした。水分含量は保存後も1.2%以下にとどまり、粉末の安定性の目安とされる5%を大きく下回りました。一方、市販品2種は保存中に水分が3.0%、3.9%まで増えたと報告されています。

抗酸化に関わる成分では、ザクロ皮抽出物を加えた効果がはっきり表れました。緩衝処理なしの強化粉末は、総ポリフェノール量が粉末1グラムあたり27.0ミリグラム(没食子酸相当量)、総抗酸化能が287.8マイクロモル(トロロックス相当量)で、抽出物を加えていない粉末や市販品(それぞれ0.3ミリグラム以下、4.0マイクロモル以下)を大きく上回りました。これらの値は6か月を通じて実質的に保たれています。ただし著者らは、緩衝処理をした強化粉末では総ポリフェノール量が約85%、抗酸化能が約87%低かったことも報告しており、その主な理由は乾燥工程ではなく抽出段階での違いにあると考えられると述べています。

抗菌性については、緩衝処理をすると酢の効果が弱まりました。これは、菌の膜を通り抜けて働く「解離していない酢酸」の割合が中和によって減るためです。興味深いことに、緩衝処理をした粉末にザクロ皮抽出物を加えた場合、リステリア菌に対する阻止円は24.9ミリメートルとなり、抽出物なしの緩衝粉末や市販の緩衝粉末より有意に大きくなりました。著者らは、ザクロ皮抽出物の添加が緩衝処理による抗菌力の低下を部分的に補った可能性があると述べていますが、その仕組み自体は本研究では調べていないとしています。

なお、色については緩衝処理をした強化粉末で変化がやや大きく、3か月目に色差が最大となった後、6か月目には部分的に戻りました。緩衝処理なしの強化粉末は色差が小さく、ザクロ由来の色調がよく保たれたと報告されています。

この研究が示すこと

この研究は、廃棄されていたザクロの皮を、食品にそのまま使える酢を溶媒として抽出し、粉末という扱いやすい形に固定できることを実験で示しました。しかもその粉末は、常温で半年置いても物理的な形も抗酸化に関わる性質もおおむね保たれていました。

同時に、酸味を抑えるための緩衝処理には代償があることも明らかになりました。使いやすさを取ればポリフェノール量と抗菌力が下がり、成分量を取れば酢本来の強い酸味が残ります。どちらを選ぶかは用途次第であり、この研究はその選択に必要な比較材料を具体的な数値として提示したものだと言えます。

著者:María de los Ángeles Martínez-Sánchez(Food Safety and Refrigeration Engineering Group, Department of Agricultural Engineering, Universidad Politécnica de Cartagena, Paseo Alfonso XIII, 48, 30203 Cartagena, Spain)、Ginés Benito Martínez–Hernández(Food Safety and Refrigeration Engineering Group, Department of Agricultural Engineering, Universidad Politécnica de Cartagena, Paseo Alfonso XIII, 48, 30203 Cartagena, Spain)、Antonio López–Gómez(Food Safety and Refrigeration Engineering Group, Department of Agricultural Engineering, Universidad Politécnica de Cartagena, Paseo Alfonso XIII, 48, 30203 Cartagena, Spain)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):María de los Ángeles Martínez-Sánchez, Ginés Benito Martínez–Hernández, Antonio López–Gómez. Storage Stability and Functional Properties of Pomegranate Peel Extract-Enriched Vinegar Powders. Plants 2026-08-28. DOI: 10.3390/plants15172630. 原著ライセンス:CC BY.