この研究は、アメリカ、ハンガリーの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Public Health

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ文化をまたいで調べたのか

この研究が扱うのは、食べ方に関わる二つの心理的な考え方です。一つは「食物依存(フードアディクション)」で、食べる量を自分で制御できない、強い渇望が続く、悪い結果が分かっていても食べ続ける、といった、薬物やアルコールへの依存に似た特徴を食べ物に対して示す状態を指します。もう一つは「感情的摂食(エモーショナル・イーティング)」で、怒りや不安、落ち込み、あるいは高揚した気分といった感情の動きに反応して食べたくなる傾向のことです。どちらも肥満や心の健康の悪さと関連づけられてきました。

著者らは、この二つがどの程度いっしょに現れるのかが、文化的背景の異なる社会のあいだで同じなのかどうかはまだよく分かっていない、と述べています。感情の扱い方をめぐる規範や、身の回りにどんな食べ物があるかという食環境は国によって違うからです。そこで研究チームは、米国と韓国の大学生を対象に、食物依存と感情的摂食が結びついているかどうか、また国や属性ごとに得点が違うかどうかを調べました。

論文によれば、韓国は伝統的に脂肪や砂糖の少ない食生活だったところへ、欧米型の食べ物が急速に広まった社会であり、こうした比較を行うのに適した対象だといいます。また、食物依存を測る尺度は韓国語でも使えることが確かめられているものの、韓国と米国を直接比べた研究はこれまで知られていない、と著者らは位置づけています。

どのように調べたか

調査は、ある一時点の状態を尋ねる「横断的」なアンケート方式で行われました。米国側は2024年春にプリンストン大学の学部生を対象に電子メールで募集し、110人が回答しました。韓国側は2024年夏にソウルの主要な三大学を中心にチラシのQRコードなどを通じて募集し、141人が回答しました。合計251人です。回答者は事前に調査内容の説明を読んで同意し、終了後に研究の趣旨の説明を受けています。

質問は全部で50問でした。食物依存は「エール食物依存尺度2.0(YFAS 2.0)」の25問で、感情的摂食は「感情的摂食尺度II(EES-II)」の25問で測っています。いずれも自分で回答する形式の質問紙で、点数が高いほどそれぞれの傾向が強いことを示します。この研究では食物依存を診断として扱うのではなく、当てはまる症状の数を数える方式を用いた、と著者らは説明しています。韓国語版は、英語と韓国語の両方に通じた母語話者が、逐語訳よりも概念のうえで同じ意味になることを優先して作成したものです。ただし著者ら自身、正式な逆翻訳の手続きや専門家パネルによる点検を行わなかったことを、この研究の限界として挙げています。

分析では、両尺度の得点の相関を全体と国ごとに求め、国による違いや、性自認・性的指向といった属性による違いを統計的に検討しています。さらに、国・年齢・性自認・性的指向の影響を考慮したうえでも感情的摂食が食物依存の症状を説明するかどうかを、段階的に変数を加える回帰分析で調べました。

報告された主な結果

中心となる仮説どおり、食物依存と感情的摂食の得点は両国とも強い正の相関を示しました。全体ではr=0.74、韓国の回答者ではr=0.74、米国の回答者ではr=0.53で、いずれも統計的にはっきりした関係でした(相関係数は0に近いほど無関係、1に近いほど一方が高い人はもう一方も高いという関係が強いことを表します)。二つの相関の差を検定したところ、韓国のほうが強いという違いも統計的に有意でした(z=2.82、p=0.005)。

国・年齢・性自認・性的指向を考慮に入れた回帰分析でも、感情的摂食は食物依存の症状を予測する強い要因として残りました。感情的摂食を加えたことで説明できる割合が25ポイント増え、最終的なモデルは食物依存の症状のばらつきの63%を説明したと報告されています。ただし著者らは、感情的摂食と食物依存の結びつきの強さが国によって異なるかを直接検討する交互作用の項を加えたところ、それは有意にならなかったとも述べています。そのため、相関の差を示した検定の結果は、両国の得点のばらつきの違いを部分的に反映している可能性があり、慎重に解釈すべきだと注意を促しています。

国どうしの比較では、韓国の回答者が食物依存(平均40.27、米国は24.34)でも感情的摂食(平均49.38、米国は27.50)でも米国の回答者より高い得点を示しました。性自認については、シスジェンダー女性がシスジェンダー男性より感情的摂食の得点が高い一方(p=0.007)、食物依存の症状では統計的にはっきりした差は出ませんでした(p=0.069)。性的指向による差や、国と性的指向の組み合わせによる差は有意ではありませんでした。なお性自認の分類は、一部のカテゴリーの人数が少なかったため主要な分析からは外され、探索的な扱いにとどめられています。

この研究が示すこと

著者らは、感情に反応して食べる傾向と、依存に似た食べ方とが、食文化の異なる二つの国のどちらでも強く結びついていたことを報告しています。同時に、その水準には国によってはっきりした差がありました。ここから著者らは、社会や文化のあり方がこうした食行動の現れ方を形づくっている可能性を指摘し、感情との付き合い方に目を向けた取り組みを、それぞれの文化に即したかたちで考えることの重要性を述べています。

一方で著者ら自身が断っているとおり、この研究は一時点の自己申告に基づくものであり、二つが同時に現れることを示してはいても、どちらがどちらを引き起こすのかという因果関係や、その背後にある神経の仕組みを確かめたものではありません。論文中で触れられている脳の報酬系や進化の観点からの説明も、観察された結果を位置づけるための理論的な解釈として提示されています。食べ方をめぐる問題を考えるとき、個人の意志の強さだけでなく、その人が置かれた文化と食環境を一緒に見る必要がある——この研究が伝えているのは、そうした視点です。

著者:Aidan Mahoney(Department of Psychology, Princeton University)、Susan Sugarman(Department of Psychology, Princeton University)、Kaylee Hough(Department of Neuroscience, Ichan School of Medicine at Mount Sinai)、Attila Szabo(Faculty of Health and Sport Sciences, Széchenyi István University)、Nicole Avena(Department of Neuroscience, Ichan School of Medicine at Mount Sinai)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Aidan Mahoney, Susan Sugarman, Kaylee Hough, et al. Sociocultural considerations in food addiction and emotional eating: comparative evidence from college students in the United States and South Korea. Frontiers in Public Health 2026-09-09. DOI: 10.3389/fpubh.2026.1890961. 原著ライセンス:CC BY.