掲載誌:Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
麹は、日本の味噌や醤油づくりでおなじみのカビ、アスペルギルス・オリゼ(ニホンコウジカビ)を米などの穀物に生やしたものです。麹菌はたんぱく質やでんぷんを分解する酵素を多く作ることで知られています。著者らは、この麹菌の菌体そのものや、酵素を含む液を生の牛肉に直接使うと肉の性質がどう変わるかを調べました。著者らはこの技術を「EnzymMeat®」と名付け、麹を生の牛肉に直接使う手法を評価した、記録に残る世界で初めての研究だと位置づけています。
研究チームが調べたのは、肉の物理的・化学的な性質、食べたときのおいしさの感じ方(官能評価)、食後の満腹感、そして麹がもたらす自然な保存性向上のしくみです。
何を調べたか
実験には、牛肉の2つの部位、もも(ラウンド)と首(ネック)が使われました。麹を使った複数の調製法を肉に施し、対照と比べています。ただし、対照がどのような処置を受けたかは抄録には示されていません。麹の調製法には、麹を活性化させる温度を変えたものや、塩を加えたものが含まれていました。
評価項目は、肉に含まれる水分量、加熱したときに失われる重量(加熱損失)、漬け込み液の吸収のしやすさ、酸性度を示すpH、そして試食によるジューシーさ・やわらかさ・風味の強さなどです。さらに、食べた後に満腹感がどのくらい強く、どのくらい続くかも評価しました。
主な結果
抄録によると、麹で処理した牛肉では、水分を保つ力が高まり、加熱損失が減り、漬け込み液をよく吸収するようになりました。試食では、ジューシーさ、やわらかさ、風味の強さが増したと報告されています。口当たりや全体的な好ましさも向上し、食後の満腹感はより強く、より長く続いたとされています。
数値で見ると、麹処理した牛肉の水分量は52〜56%を上回り、対照の50%未満より高い値でした。加熱損失は、麹を活性化させた温度によって25〜38%でした。25℃という中程度の温度で活性化させたものは特に水分を保つ力に優れ、塩を加えた調製法は漬け込み液の吸収が最も多かったと報告されています。
pHは4.60〜5.16で、著者らはこれを、麹が作るコウジ酸・クエン酸・コハク酸による適度な酸性化の結果と説明しています。また、酵素によってたんぱく質がほどよく分解され、分子量3キロダルトン未満の小さなペプチド(アミノ酸がいくつかつながったもの)で、生理的な働きを持つとされるものが生じました。著者らは、こうした作用が酸化しにくさや微生物への防御に寄与し、冷蔵での日持ちが延びたとしています。
研究が示すこと
著者らは、EnzymMeat®の効果を、酵素によるたんぱく質分解、酸性化、ペプチドの生成、抗酸化作用、ほかの微生物との競合という複数の自然なしくみが組み合わさった結果だと説明しています。そのうえで、麹を、添加物に頼らずに牛肉の加工しやすさ、おいしさ、栄養面、安全面を高めうる多機能な技術として位置づけています。伝統的な発酵の素材である麹を、生肉の品質改善に直接生かす可能性を示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Ioan, Costa(Conservation Funghi Association)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ioan, Costa. Pioneering EnzymMeat® Biotechnology: Direct Koji Application for Enhancing Physicochemical Quality, Sensory Performance, Satiety and Natural Bioprotection in fresh Beef. Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research) 2026-08-16. DOI: 10.5281/zenodo.21969664. 原著ライセンス:CC BY.