マッシュポテトは手軽で人気のあるでんぷん系食品ですが、冷蔵庫で保存しているうちに硬くなったり、水っぽさが出てきたりして、味や食感が落ちてしまうことがあります。これは「でんぷんの老化(退化)」と呼ばれる現象が関わっているとされ、加工食品の保存性を高めるうえで長年の課題となってきました。今回紹介する研究では、食物繊維の一種である水溶性の「アラビノキシラン(AX)」という多糖類を加えることで、この老化現象を抑えられるかどうかが調べられました。
天然の多糖類はでんぷんの性質に影響を与えることが知られていますが、複雑な組成を持つマッシュポテトの中で、アラビノキシランが老化防止にどう働くのかはこれまで詳しく分かっていなかったとされています。そこで研究チームは、アラビノキシランを加えたマッシュポテトを4℃で7日間保存し、物理的な性質や見た目・食感などを詳しく調べました。
研究でわかったこと
まず、生地の硬さや粘弾性(押したときの弾力や粘り気の指標)を測定したところ、アラビノキシランを加えたマッシュポテトは、保存中の硬化や生地の硬さが抑えられていたと報告されています。
さらに、水分の状態や動きやすさを調べる分析(LF-NMRという手法)や、でんぷんの結晶構造・分子の並び方を調べる分析(XRD、FTIR)、そして微細な構造を観察する電子顕微鏡(SEM)による観察、加えて保水力の測定を組み合わせた結果、アラビノキシランには次のような働きがあることが示されたとされています。
- 水分を保持し、水の動きを制限する
- でんぷんが再び結晶化するのを遅らせる
- 短い範囲での規則的な構造(老化の初期段階でできる構造)の形成を抑える
- でんぷんの微細構造を物理的に崩す
これらの働きが組み合わさることで、全体としてでんぷんの老化が抑えられたと考えられています。また、アラビノキシランを加えたマッシュポテトは、見た目や食感といった官能的な魅力も保たれやすかったと報告されています。研究チームは、この結果について、アラビノキシランが従来の増粘剤(ハイドロコロイド)を使った研究とは異なり、でんぷんの老化抑制・色の安定・柔らかい食感の維持を同時に実現できる可能性を示すものだと位置づけています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、あくまで実験室レベルでマッシュポテトという特定の食品を対象に、4℃・7日間という条件のもとで行われたものです。アラビノキシランが健康に効果をもたらすといった内容を直接検証したものではなく、あくまで食品の物理的な品質(食感や保水性、構造)や保存性に注目した研究である点に注意が必要です。また、一つの研究で得られた知見であり、他の食品や保存条件でも同様の結果が得られるかどうかは、今後さらなる検証が必要と考えられます。
まとめ
今回の研究では、水溶性のアラビノキシランをマッシュポテトに加えることで、冷蔵保存中の水分保持や食感の維持につながり、でんぷんの老化を抑える可能性が示唆されました。研究チームは、着色料や香料などの人工添加物に頼らない「クリーンラベル」な多機能改質剤として、アラビノキシランがでんぷん系加工食品の保存性向上に役立つ可能性があるとしています。今後の研究の進展が注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:アラビノキシランはマッシュポテトの冷蔵保存中の品質を改善しデンプンの老化を抑制する(フーズ・2026年06月)