この研究は、韓国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Applied Biological Chemistry

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

私たちの腸にすむ細菌は、食べ物に含まれる成分の形を変えることがあります。その一つ、ブラウティア属の嫌気性細菌MRG-PMF1(Blautia sp. MRG-PMF1)は、ビタミンB12(コバラミン)を必要とする酵素システムを使い、植物成分の「アリールメチルエーテル」と呼ばれる結合を切る働きが知られていました。これは、芳香環に酸素を介してメチル基(炭素1個の小さな基)がついた構造を外す反応で、O-脱メチル化と呼ばれます。

研究チームは、この酵素がメチル基以外の、より大きなアルキル基でも同じように外せるのかどうかを調べました。もし外せるなら、この細菌が扱える物質の幅は、これまで考えられていたよりもずっと広いことになります。

何をどう調べたか

著者らは、イソフラボン(大豆などに含まれる植物成分の一群)の7番目の位置にさまざまなアルキル基が結合した4種類の化合物を、モデルとなる基質として選びました。メチル基がついた7-メトキシイソフラボン、エチル基の7-エトキシイソフラボン、プロピル基の7-プロポキシイソフラボン、そして枝分かれしたイソプロピル基をもつ7-イソプロポキシイソフラボン(イプリフラボン)です。

調べ方は二通りでした。一つは、生きた細菌の培養液に化合物を加えて、酸素のない条件下で最長96時間、変化を追う方法です。もう一つは、細菌を壊して得た抽出液(無細胞抽出液)に化合物を加え、1時間後にどれだけ反応が進んだかを比べる方法です。いずれも高速液体クロマトグラフィー(HPLC)という、混合物の成分を分離して量を測る装置で分析しました。

報告された主な結果

論文によれば、4種類すべてが共通の産物である7-ヒドロキシイソフラボン、つまりアルキル基が外れて水酸基になった化合物へと変換されました。メチル基だけでなく、エチル基やプロピル基、さらには枝分かれしたイソプロピル基まで切り離されたのです。イソプロピル基をもつイプリフラボンは他の3つに比べて変換の程度が低かったものの、変換自体は確かに起きたと報告されています。なお、イプリフラボンは骨粗鬆症の治療に臨床で用いられてきた合成フラボノイドです。

無細胞抽出液を使った1時間の反応では、変換率はエチル体が77.62±0.43%、メチル体が70.21±0.37%、プロピル体が64.82±0.35%、イソプロピル体が32.34±0.87%でした。著者らはこの「エチル>メチル>プロピル>イソプロピル」という順序に注目しています。もし反応がラジカル(不対電子をもつ不安定な中間体)を経る経路で進むなら、より安定な中間体をつくれるイソプロピル体が最も速く変換されるはずでした。実際には逆の結果だったことから、著者らは、コバルトが求核剤として炭素を直接攻撃するSN2型の反応であると考えられると述べています。エチル体がメチル体をわずかに上回った点については、炭素と酸素の結合の電荷の偏りが大きいことが、かさ高さの不利を上回ったのではないかと説明しています。

この報告が示すこと

著者らは、コバラミン依存性のO-脱メチル化酵素がアルキルアリールエーテルの切断を担うことを初めて明確に示した研究だとしています。これまで「メチル基を得るための酵素」と見なされてきたこの仕組みが、実際にはより幅広い基を扱えることになります。

著者らは、この結果が、食品由来の植物成分だけでなく、イプリフラボンのような医薬品や、フルトラニルのような農薬といった外来物質についても、腸内細菌による変換の可能性を考え直す必要を示すと論じています。腸の中で何が起きているかを理解するうえで、細菌がもつ化学的な守備範囲は、想定より広いということです。

著者:Santipap Chaiyasarn(Metalloenzyme Research Group and Department of Plant Science and Technology, Chung-Ang University, 4726 Seodong-Daero, Anseong, 17546, Republic of Korea)、Intira Khumthong(Metalloenzyme Research Group and Department of Plant Science and Technology, Chung-Ang University, 4726 Seodong-Daero, Anseong, 17546, Republic of Korea)、Jaehong Han(Metalloenzyme Research Group and Department of Plant Science and Technology, Chung-Ang University, 4726 Seodong-Daero, Anseong, 17546, Republic of Korea)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Santipap Chaiyasarn, Intira Khumthong, Jaehong Han. Gut microbial O-dealkylation of isoflavone derivatives by Blautia sp. MRG-PMF1. Applied Biological Chemistry 2026-09-08. DOI: 10.1186/s13765-026-01122-0. 原著ライセンス:CC BY.