この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Microbiology Spectrum

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

大豆に含まれるイソフラボンは、そのままの形で働くというより、腸内細菌によって別の物質に変換されることで健康に関わる作用を示すと考えられています。その代表例の一つが O-デスメチルアンゴレンシン(O-DMA)で、論文では抗炎症性の代謝物として紹介されています。

ところが著者らによれば、この O-DMA をつくる菌株はこれまでほとんど手に入らず、見つかってきた場所も糞便由来にほぼ限られていました。そのため、どれだけ多様な菌がこの能力を持つのか、また実際にどう応用できるのかがよく分かっていませんでした。本研究は、新しい生息環境から O-DMA 産生菌を探し出し、その性質をゲノムと実験の両面から調べることを目的としています。

何を調べ、何が分かったか

研究チームは、これまで調べられてこなかった環境として中国の伝統的な発酵食品である臭豆腐に着目し、酸素のない条件下で菌の分離を行いました。得られた菌株は FRJF5 と名付けられ、Clostridium beijerinckii と同定されています。この菌がつくり出した O-DMA は、鏡像関係にある二つの分子のうち一方に偏っており、その偏りの程度(エナンチオマー過剰率)は 78.6% だったと報告されています。

次に著者らは、公開されている 235 株の C. beijerinckii のゲノムと比較し、系統関係と平均ヌクレオチド同一性(ゲノム配列全体の似かよりを数値化した指標)を解析しました。その結果、FRJF5 は工業的な発酵現場、動物の糞便、土壌など、さまざまな生息場所に由来する株と同じまとまりに位置づけられ、この菌種が幅広い環境に分布していることが示されました。

さらに遺伝子の探索と同種内でのゲノム比較から、FRJF5 に特有のフラボノイド代謝遺伝子クラスター(関連する遺伝子がまとまって並んだ領域)が見つかりました。フラボノイドの一種であるアピゲニンを用いた実験では、実際に 3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸への変換が確認されています。加えて、ゲノムからの予測どおり、この菌が酪酸を多くつくる能力を持つことも実験で裏づけられました。酪酸は腸のバリア機能を高める働きが知られている物質として論文中で言及されています。

安全性については、病原性に関わる遺伝子や抗菌薬耐性遺伝子をゲノム上で探索するとともに、溶血性の有無、抗菌薬感受性、マウスへの経口投与といった実際の試験が行われ、いずれも良好な結果だったと報告されています。また、マウスの大腸炎モデルを用いた投与実験では、症状の緩和に関する可能性が支持されたとされています。

この研究が示すこと

著者らは、C. beijerinckii FRJF5 を O-DMA と酪酸を同時につくる菌株として位置づけ、機能性食品への応用が期待できる候補だとまとめています。これまで糞便由来にほぼ限られていた O-DMA 産生菌の顔ぶれに、伝統的な発酵食品という新しい供給源が加わったことになります。

本記事は公開された抄録の記載に基づくもので、詳しい実験条件や個々の測定値までは扱っていません。それでも、身近な発酵食品の中に、大豆成分の変換という特徴的な働きを持つ菌が潜んでいたという発見は、食と腸内細菌のつながりを見直す手がかりになるでしょう。

著者:Xia Guo(College of Life Sciences, Hebei Agricultural University)、Sifan Zhang(College of Life Sciences, Hebei Agricultural University)、Ziyi Cui(College of Life Sciences, Hebei Agricultural University)、Ying Zhang(College of Life Sciences, Hebei Agricultural University)、Zixuan Zhao(College of Life Sciences, Hebei Agricultural University)、Guanmian Wei(College of Food Science and Technology, Hebei Agricultural University)、Hao Li(College of Life Sciences, Hebei Agricultural University)、Xiuling Wang(College of Life Sciences, Hebei Agricultural University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xia Guo, Sifan Zhang, Ziyi Cui, et al. Isolation, genomic characterization, and safety assessment of an O -desmethylangolensin-producing Clostridium beijerinckii strain from Chinese Stinky Tofu. Microbiology Spectrum 2026-09-17. DOI: 10.1128/spectrum.00632-26. 原著ライセンス:CC BY.