著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。
掲載誌:Horticulturae
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
研究チームが対象にしたのは、原著でchives(学名Allium fistulosum)と呼ばれるネギ類の作物です。アマゾン地域の家族経営農業にとって重要な作物で、主に2ヘクタール以下の小さな農地で栽培されています。この作物では、カビの一種コレトトリクム・スパエティアヌム(Colletotrichum spaethianum)が引き起こす炭疽病が問題になります。論文によると、この地域ではこの作物向けに登録された殺菌剤がありません。
そこで著者らは、植物から取り出した香りの成分である「精油」に着目しました。目的は、8種類の精油がこの炭疽病をどの程度抑えられるかを評価することです。調べた精油の中には、研究例の少ないアマゾンのコショウ属植物のものも含まれています。
何をどのように調べたか
精油は、水蒸気を使って植物から成分を取り出す方法で得られました。対象は、ウコン、リッピア属の2種(L. sidoidesとL. gracilis)、ペパーミント、アフリカンバジルの一種(Ocimum gratissimum)、コショウ属の3種(Piper hispidum、P. aduncum、P. hispidinervum)の8種類です。病原菌は、症状が出た株から分離しました。研究チームは、複数の遺伝子の配列を比べてC. spaethianumであることを確認しています。
実験室の試験では、精油の濃度を0.2%から1.2%まで変えました。そのうえで、菌糸(カビの糸状の体)の伸び、胞子の発芽、胞子の形成がどれだけ妨げられるかを測りました。畑の試験では、濃度1.2%の精油を週1回、計5回散布しました。比較対象として、水だけを散布した区と市販殺菌剤(Cercobin)を散布した区も設けています。病気の重さは1〜5の段階で評価しました。さらに、植物が病原菌に抵抗するときに働く酵素の活性も測りました。対象は、カビの細胞壁を分解するβ-1,3-グルカナーゼとキチナーゼ、および細胞壁の強化などに関わるペルオキシダーゼです。
主な結果
実験室では、L. gracilis、L. sidoides、ペパーミント、O. gratissimumの4種類が最も強い効果を示しました。最も低い0.2%を含むすべての濃度で、菌糸の成長と胞子の形成を完全に止めたと報告されています。ほかの精油の菌糸成長の抑制率は、ウコンで約66〜84%、P. hispidumで約40〜77%などでした。ただし、ウコンとP. hispidumは、すべての濃度で胞子の発芽を完全に抑えました。著者らはこれを、直接カビを殺す力は限られていても、病原菌が増える段階を妨げる精油があることを示す結果として位置づけています。
畑では結果が違いました。散布開始から35日後の病気の重さの平均値は、水だけの区で4.99でした。これに対し、L. gracilisは3.55、P. aduncumは3.94で、どちらも水だけの区より有意に低い値でした。ペパーミント(3.94)とウコン(4.11)も、水だけの区より病気を有意に軽くしました。一方、実験室で優れていたL. sidoides(5.44)は、水だけの区と差がありませんでした。O. gratissimum(4.35)は中間的な結果でした。市販殺菌剤の区(4.19)も水だけの区と統計的な差がありませんでした。著者らは、この作物向けに登録された殺菌剤がないことが影響した可能性を挙げています。論文は、L. gracilisの成績が市販殺菌剤を上回ったと報告しています。
著者らは、実験室と畑の結果の違いについて考察しています。精油の成分が揮発しやすいこと、紫外線で分解されること、雨で流されること、高温多湿の気候が影響した可能性を挙げています。
酵素の測定では、L. gracilisとO. gratissimumがβ-1,3-グルカナーゼの活性を高めました。その水準は、病原菌に感染したときと同程度でした。L. sidoidesでは、この酵素の上昇は見られませんでした。また、β-1,3-グルカナーゼの活性が高いほど病気が軽いという関連(相関係数−0.78)も報告されています。著者らはこれをもとに、この酵素が抵抗性の目安になりうると述べています。なお、使った精油そのものの詳しい成分分析は行っておらず、著者らはこの点を研究の限界として挙げています。
研究から見えてくること
この研究は、精油ごとに働き方が異なることを示しました。カビの成長を広く止めるもの、胞子の発芽や形成を妨げるもの、植物自身の防御に関わる酵素を高めるものがありました。同時に、実験室で強い効果を示した精油が、畑でも同じように効くとは限らないことも明らかになりました。登録された殺菌剤がないアマゾンの小規模農家にとって、L. gracilisやP. aduncumの精油は、低コストで病気を管理する手段の候補として報告されています。
原著論文の著者・所属:Carina Nascimento Silva(Graduate Program in Humid Tropics (PPG-ATU/Inpa), National Institute of Amazonian Research, Manaus 69060-001, Brazil)、André Luis Willerding(National Institute of Amazonian Research/Inpa, Manaus 69067-375, Brazil)、Francisco Célio Maia Chaves(Embrapa Western Amazon, Manaus 69010-970, Brazil)、Luiz Alberto Guimarães Assis(National Institute of Amazonian Research/Inpa, Manaus 69067-375, Brazil)、Rogério Eiji Hanada(National Institute of Amazonian Research/Inpa, Manaus 69067-375, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Carina Nascimento Silva, André Luis Willerding, Francisco Célio Maia Chaves, et al. Evaluating Various Essential Oils for the Control of Anthracnose in Chives. Horticulturae 2026-08-15. DOI: 10.3390/horticulturae12081017. 原著ライセンス:CC BY.