飲食店では、天ぷらやフライを作る際に使う液状のバッター(衣液)を、一度作ったら使い切らずに継ぎ足しながら繰り返し使うことがあります。もしそのバッターでエビや魚介類の揚げ物を作った後、同じ液で鶏肉や野菜を揚げたらどうなるのでしょうか。エビやタラなどの魚介類は代表的な食物アレルゲンであり、ごく微量でもアレルギー症状を引き起こす人がいます。こうした『再利用バッター』が、魚介類を含まない料理へのアレルゲンの交差汚染源になりうるかどうかは、これまであまり詳しく調べられていませんでした。米国食品医薬品局(FDA)の研究チームによる今回の論文は、この点を実験的に検証したものです。
研究の方法
研究チームは、液状のバッターを使って20回連続で調理を行う実験を行いました。1回の使用(バッチ)は1人前(20〜25グラム)に相当する量とし、バッターにエビとタラを浸けて調理する工程を繰り返すことで、バッター中にエビ・タラのたんぱく質がどの程度蓄積するかを追跡しました。さらに、このように繰り返し使用したバッターを使って、魚介類を含まない食材である鶏肉、キノコ、ズッキーニを調理し、これらの食材にエビ・タラのたんぱく質がどの程度移行するかを調べました。加えて、180度での揚げ調理(ディープフライ)の前後でアレルゲンの検出量がどう変化するかも比較しています。アレルゲンの濃度測定には、市販のELISA(酵素免疫測定法)キットを、エビ・タラそれぞれ2種類ずつ、計4種類用いています。
研究でわかったこと
結果として、バッターの使用回数が増えるにつれて、エビ・タラのたんぱく質濃度はどちらも増加しました。具体的には、5回目から20回目の使用の間で、エビのたんぱく質濃度は約7倍に増加し、タラのたんぱく質濃度は約3倍に増加したと報告されています。また、全体を通してみると、タラの残留たんぱく質はエビよりもかなり高い水準でバッター中に蓄積していたとされています。
このように蓄積したバッターで調理した鶏肉、キノコ、ズッキーニの3種類の食材すべてから、エビとタラのたんぱく質が検出されました。揚げ調理を行うことで検出されるアレルゲン量は減少し、エビでは1〜67%、タラでは74〜88%の減少幅だったとされています。ただし、消費者が実際に口にする量を想定した曝露量の推定では、エビについてはどの食材でも、揚げ調理の前後を問わず、アレルギー反応の目安とされる200ミリグラムという基準値を超えることはなかった一方、タラについては、より低い曝露量(消費量の分布の25パーセンタイル、つまり比較的少なめに食べた場合を想定した値)であっても、魚肉たんぱく質の基準値とされる5ミリグラムを、すべての食材で超えていたと報告されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、再利用される液状バッターを介してエビやタラのたんぱく質が蓄積し、魚介類を含まない食材にも移行しうること、また揚げ調理を経てもアレルゲンが完全には消失せず、交差汚染のリスクが残る可能性があることを示したものです。ただし、これは特定の実験条件(20回のバッター使用、180度での揚げ調理、特定のELISAキットなど)のもとで行われた一つの研究であり、この結果がすべての飲食店の調理条件にそのまま当てはまるとは限りません。エビとタラでは蓄積のしやすさや揚げ調理による減少幅、推定される曝露量の評価結果が異なっている点も、原文の要旨に基づく事実として押さえておく必要があります。
まとめ
今回の研究は、飲食店で液状バッターを繰り返し使うことが、エビやタラのアレルゲンを魚介類を含まない料理へと運んでしまう可能性があることを、実験データとともに示しました。揚げ調理によってアレルゲンの検出量は減るものの、特にタラについては基準値を超える曝露量が推定されており、揚げ調理後も交差汚染のリスクが残りうることが示唆されています。食物アレルギーを持つ人にとって、調理器具や調理液の共有がどのようなリスクをもたらしうるかを考えるうえで、参考になる知見といえます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:再利用バッターを介したエビおよびタラアレルゲンの非水産食品への移行とディープフライ後の残存性(ジャーナル・オブ・フード・プロテクション・2026年10月掲載予定)