この研究は、ドイツの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Marine Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜアキアミの資源評価が必要なのか
アキアミ(Acetes chinensis)は北西太平洋の沿岸域に生息する小型のエビの仲間で、中国・日本・韓国の海域で生態的にも経済的にも重要な位置を占めています。論文によれば、中国の海産エビ類の漁獲量のおよそ20%をこの種が占め、そのうち約40%が渤海だけでもたらされているとされます。中国全体の水揚げは1950年代後半の約12万トンから2006〜2016年ごろに70万トン超のピークに達した後、近年は35万〜45万トンで変動していると報告されています。
著者らは、漁獲圧、生息環境の改変、環境変化といった複数の要因がアキアミ資源の動きに影響してきたと指摘しています。しかし、この種の資源評価は容易ではありません。アキアミは成長が速く寿命が短いうえ、脱皮を繰り返して成長する甲殻類であるため、従来の評価モデルが必要とする「年齢」の情報を正確に得ることが難しいのです。また、分布が広いために海域ごとに成長速度や成熟サイズなどの生活史の特徴が異なることも、評価を難しくしています。
こうした背景のもと、中国政府は2021年に渤海で漁獲可能量(TAC)にもとづく操業規制を導入しました。本研究は、その運用を支えるために、年齢ではなく体長のデータを使う複数の評価手法を組み合わせて、渤海湾におけるアキアミ資源の状態を調べることを目的としています。
体長データから資源を読み解く
調査は渤海湾の北緯38度00分〜38度40分、東経118度30分〜119度10分の海域で行われました。この海域はアキアミの主要な産卵場・索餌場とされる場所です。研究チームは2021年から2025年まで毎年5月から7月にかけて、固定した調査地点で張網(ストウネット)を用いた採集を実施し、5年間で合計8,699個体のアキアミを採集しました。各個体について体長を1mm単位、体重を0.1g単位で測定し、2025年に採集された個体については雌雄も判別しています。
得られた体長データをもとに、著者らは複数の評価手法を並行して適用しました。産卵能力比(SPR、漁獲がない状態と比べて群れがどれだけ産卵能力を保っているかを示す指標)を体長から推定するLBSPR、体長頻度からベイズ統計で相対的な資源量を推定するLBB、漁獲物の体長組成から資源の健全性を判断する体長指標(LBI)、そして加入1個体あたりの漁獲量や資源量を計算するYPR・BPRモデルです。単一の手法に頼ると推定の前提に左右されやすいため、複数のモデルを組み合わせることで不確実性を抑えるという考え方です。
生活史のパラメータについても、体長頻度解析(ELEFAN)による成長式の推定や、自然死亡率については7つの経験式から得た値をマルコフ連鎖モンテカルロ法で統合する方法が用いられました。雌の成熟については、2025年に採集した3,042個体の雌を体長階級に分けて解析しています。
報告された主な結果
採集された個体の全長は12.5mmから58.0mmで、平均は約38.05mmでした。体長と体重の関係を調べたところ、各年の係数bは2.51〜2.57で、いずれも3より有意に小さく、研究期間を通じて負のアロメトリー成長(体長の伸びに対して体重の増加が相対的にゆるやか)が続いていたと報告されています。雌の50%成熟体長は28.7mm、95%成熟体長は37.5mmと推定されました。
資源状態については、SPRが2021年から2024年にかけて平均0.40前後で安定しており、一般的な下限の基準点である0.2を上回り続けていたとされます。LBBモデルによる推定では、最大持続生産量に対応する資源量との比(B/BMSY)が一貫して1を超え、自然死亡率に対する漁獲死亡率の比(F/M)は1を下回って低下傾向にあったと報告されています。YPR・BPRモデルでも、各年の漁獲死亡率はF0.1やFmax、F50%といった基準点を下回っていました。これらを総合して、著者らは調査期間中のアキアミ資源は健全で、過剰利用の状態にはなかったと述べています。
一方で、すべての指標が同じ方向を向いたわけではありません。体長指標(LBI)では、最適体長にあたる個体の割合(Popt)が平均28.96%と目標の100%から大きく離れ、大型産卵個体の割合(Pmega)は17.36%で、加入乱獲を示唆するとされる20%の下限に近い値でした。この指標に基づくと資源は健全とはいえない、と報告されています。またLBBの解析では、漁獲開始体長が最適値(Lc_opt = 31.68mm)を下回る状態が続いており、小型個体が多く漁獲されている構造がうかがえます。ただしこの比率は調査期間を通じて上昇し、徐々に大型個体へと移行する傾向も示されました。海域を比べると、渤海湾の個体は海州湾や莱州湾、黄海の韓国西岸で報告されている個体より平均して大きく、成長係数も高い値を示したとされています。
この研究が示すこと
年齢を直接読み取ることが難しい短命な甲殻類でも、比較的集めやすい体長データと複数の評価手法を組み合わせることで、資源の状態をある程度まで把握できることをこの研究は示しています。同時に、モデルによって結論の色合いが異なったことは、単一の手法だけで判断する危うさと、複数モデルを併用して不確実性そのものを示すことの意味を浮かび上がらせます。
著者らは、アキアミの体長組成には海域による違いがあることを踏まえ、空間的な分布データ、個体群の生物学的特性、そして状況に応じて調整できる漁業規制を組み合わせた、海域ごとの管理方策が必要だと結論づけています。
著者:Zhaoyu Song(The Institute for Advanced Study of Coastal Ecology, Ludong University)、Min Li(The Institute for Advanced Study of Coastal Ecology, Ludong University)、Yiwen Liu(The Institute for Advanced Study of Coastal Ecology, Ludong University)、Ran Li(The Institute for Advanced Study of Coastal Ecology, Ludong University)、Li Shengfu(The Institute for Advanced Study of Coastal Ecology, Ludong University)、Zhongke Ren(The Institute for Advanced Study of Coastal Ecology, Ludong University)、Zhonghua Ren(The Institute for Advanced Study of Coastal Ecology, Ludong University)、Zhenbo Lv(The Institute for Advanced Study of Coastal Ecology, Ludong University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhaoyu Song, Min Li, Yiwen Liu, et al. Stock assessment of short-life-cycle Acetes chinensis fishery with limited data in Bohai Bay: a primary target crustaceans species along Pacific Northwest. Frontiers in Marine Science 2026-09-14. DOI: 10.3389/fmars.2026.1868782. 原著ライセンス:CC BY.