近年、環境負荷の少ないたんぱく源として昆虫食(エントモファジー)への関心が世界的に高まっています。しかしその一方で、昆虫が育つ環境や飼料、加工方法によっては、カドミウムや鉛といった重金属、あるいは加熱調理によって生じる化学物質が食品中に残ることも考えられます。今回紹介する研究は、こうした昆虫食に関する化学的な汚染物質の存在状況を、これまでに発表された文献から整理したスコーピングレビューです。

どのように調べたのか

研究チームは、PRISMA-ScRという系統的レビューのための国際的な手順に沿って、PubMedとScopus、さらに学術誌に掲載されていない報告書などのグレー文献を対象に、2025年4月までに発表された文献を日付の制限なく検索しました。最初に見つかった1689件の文献から重複する114件を除いた1575件をスクリーニングし、23件を全文で評価しました。そのうち5件を除外する一方、手動検索で8件を追加し、最終的に25件の文献を分析対象としました。対象とした化学汚染物質は、カドミウム・鉛・水銀・ニッケルといった重金属類、そして多環芳香族炭化水素(PAH)とアクリルアミドです。

昆虫食からわかった汚染物質の状況

25件の文献を整理した結果、金属汚染物質の濃度は全体としては低い水準にとどまっていたものの、昆虫の種類や産地によってばらつきが見られたと報告されています。またPAHやアクリルアミドへの暴露については、昆虫そのものの性質というよりも、飼育に使われた基材(昆虫を育てる際の餌や土台となる材料)や、揚げる・焼くといった加工・調理の条件が影響する要因として挙げられています。つまり、昆虫という食材固有のリスクというより、育て方や調理法によって汚染物質の量が左右され得ることが示唆されています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この論文は、既存の文献を集めて現状を整理したスコーピングレビューであり、新たな実験や測定を行ったものではありません。著者らは、欧州連合(EU)の食品汚染物質規制において、食用昆虫に関する統一された最大汚染物質基準がまだ存在していない点を課題として指摘しており、規制やリスク評価の枠組みを構築するためには、さらなるデータの蓄積が必要だとしています。今回の著者らはポルトガル・ブラジル・スペイン・ハンガリー・トルコの研究機関に所属しており、日本の研究機関に所属する著者は含まれていません。また要旨や本文の記載内容の範囲では、日本の食品や生産・食習慣に関する具体的な言及も見当たりませんでした。

まとめ

今回のスコーピングレビューでは、昆虫食における重金属やPAH、アクリルアミドといった化学汚染物質の存在状況が整理され、金属類の濃度はおおむね低いものの昆虫の種類や産地で差があること、PAHやアクリルアミドは飼育基材や加工条件の影響を受けやすいことが示唆されています。ただし、これは一つの研究であり、昆虫食の安全性について結論を確定づけるものではありません。著者らも指摘するように、統一的な基準づくりに向けては今後さらなるデータの蓄積が求められる段階にあると言えそうです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Esgalhado M, Maynard DDC, Saraiva A, et al. Occurrence of Food Chemical Contaminants in Entomophagy: Implications for Food Safety and Future Risk Assessment-A Scoping Review. 食品科学・食品安全の包括的レビュー (2026). DOI: 10.1111/1541-4337.70613.