著者の所属・活動拠点の国は、ケニアです。
掲載誌:OpenAlex
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ケニアでは都市化が進み、すぐに食べられる市販の加工食品が、伝統的な食事に加わったり、置き換わったりしています。一方で、干ばつや降雨の不安定化など気候変動が食料生産に影響を与えており、健康面でも環境面でも持続しやすい食のあり方が求められています。
研究チームが注目したのは、ケニアで昔から食べられてきた「在来食」です。ソルガムやミレット(雑穀)、キャッサバ、サツマイモ、アマランサスやササゲの葉などの伝統的な葉物野菜がこれに当たります。多くは地域の環境に適応した作物で、食文化の一部でもあります。ただし、都市部の食環境では目に付きにくく、手軽さでも加工食品に劣りがちです。
著者らは、首都ナイロビに住む18〜35歳の若者を対象に、在来食をどう評価し、実際にどのくらい食べているかを調べました。あわせて、在来食とがんのリスクについての認識や気候変動への意識も尋ね、在来食を好ましく思う気持ちが実際の食生活に結び付いているか、結び付かないならその妨げは何かを探りました。
調査の方法
研究は、数値で傾向をつかむアンケートと、参加者自身の言葉で事情を聞き取る調査を組み合わせた探索的なものです。アンケートには若者のネットワークや大学、職場、地域を通じてオンラインで呼びかけ、自ら回答した50人のデータを分析しました。回答者は会社員などの被雇用者が38%、学生が26%、無職・求職中が22%、自営業・経営者が14%でした。
アンケートでは、加工・包装食品と在来食をそれぞれ週に何回食べるかを「1〜2回」「3〜4回」「5回以上」で答えてもらいました。在来食ががんのリスクを下げる可能性については「まったくそう思わない」の1から「非常にそう思う」の5までの5段階で尋ねました。さらに、回答者のうち立場の異なる15人から、伝統的な食事と現代的な食事への見方、在来食を食べる上での障壁、気候への意識などについて記述での回答を得ました。
参加者を無作為に選んだわけではなく、人数も少ないため、著者らはナイロビの若者全体を代表する結果ではないと明記しています。また、ある一時点の調査であるため、原因と結果の関係を示すことはできません。論文は、データ収集の前に正式な倫理審査の承認や研究許可を得ていなかったことも、限界として開示しています。
主な結果
加工・包装食品はよく食べられていました。週1〜2回と答えた人が半数、3〜4回がおよそ3分の1で、5回以上の人もいました。一方、在来食は好意的に評価されているにもかかわらず、週1〜2回という少ない頻度に回答が集中しました。著者らはこれを、考え方と行動のずれと表現しています。
在来食ががんのリスクを下げる可能性については、62%が5段階のうち4か5と答えました。ただし、これは参加者の考えを測ったもので、在来食にがんを防ぐ効果があることを示すものではありません。研究ではがんの発症も、体内の指標も調べていません。
職業や年齢で、在来食や加工食品を食べる頻度に統計的に意味のある差は見られませんでした。年齢が上のグループで在来食をやや多く食べる傾向はありましたが、統計的に意味のある差とはいえない範囲でした。がんリスクに関する考え方の平均点も、職業や年齢で数値に違いはあったものの、意味のある差は確認されませんでした。
聞き取りでは、多くの参加者が伝統的な食事をより健康的で栄養があり、自分たちの文化と深く結び付いたものと語りました。現代的な食事は、手軽さや甘さ、加工の多さで特徴づけられました。在来食を食べる上で最もよく挙がった障壁は、市場で安定して手に入りにくいことでした。価格の高さ、調理の手間と時間も挙げられ、頻度は低いものの、現代的な食品のほうがおしゃれで周りに受け入れられやすいという社会的な見方も語られました。
気候変動については、ほとんどの参加者が、食べるものを決める直接の理由にはしていませんでした。干ばつや収穫の変動を通じた間接的な影響に気付いている人はいたものの、日々の食の選択に気候への配慮はまだ組み込まれていない、と著者らはまとめています。
結果が示すこと
著者らは、若者が在来食を評価していないわけではなく、手に入りにくさ、価格、調理の手間といった都市の食環境が実際の食生活を制約している、と結論づけています。年齢や職業で差が見られなかったことも、個人の属性より、こうした環境全体の条件のほうが影響しているという解釈と矛盾しないとしています。そのため、知識を広めるだけでは効果が限られるかもしれないとし、市場での入手しやすさや手頃な価格、調理の手軽さ、文化的な存在感を高めることと、気候と栄養を結び付けた教育を提案しています。
同時に著者らは、在来食をがんや気候変動を一挙に解決するものと見るべきではないと強調しています。伝統的な作物だからといって自動的に気候に強いとはいえず、作物や生産のしかたによって変わるといいます。在来食は、多様で文化に合い、環境の変化にも強い食生活を支える有望な要素の一つと位置づけられています。小規模な探索的研究ながら、好意的な気持ちを日々の食卓につなげるには、食環境そのものに目を向ける必要があることを示しています。
原著論文の著者・所属:Faith Agiza(Pan African Network for Climate Action (PANFCA), P.O. Box 27223-00100, Nairobi, Kenya)、Kelvin Muli(Pan African Network for Climate Action (PANFCA), P.O. Box 27223-00100, Nairobi, Kenya)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Faith Agiza, Kelvin Muli. Indigenous Foods as a Climate-Smart NutritionAlternative: Consumption Patterns, Barriers, and Cancer-RiskAwareness among Urban Youth in Kenya. OpenAlex 2026-09-11. DOI: 10.68050/jams.2026.329. 原著ライセンス:CC BY.