胃がんの前段階として知られる「慢性萎縮性胃炎(CAG)」。これを確認するには内視鏡検査が必要ですが、高齢者にとっては体への負担や費用、検査を受けられる医療機関の少なさが壁になることがあります。もし採血や問診でわかるような身近な情報から、内視鏡を使わずにCAGのリスクをある程度予測できれば、早期の絞り込みや受診勧奨に役立つかもしれません。今回紹介する研究は、そうした発想から機械学習(AI)を使った予測モデルを開発し、その性能を検証したものです。

どのように調べたのか

研究チームは、上海市第十人民医院の内視鏡センターを受診した高齢患者のデータを用いた後ろ向きコホート研究を行いました。2023年1月から2024年12月までのデータ(1,268人)をモデルの構築と内部検証に、2025年1月から2025年10月までのデータ(544人)を、時期をずらした外部検証(temporal validation)に用いています。

収集された候補変数は、年齢や性別などの基本属性、生活習慣・食習慣、既往歴・服薬歴・家族歴、心理状態、臨床症状など全28項目にのぼりました。これらについて、単変量・多変量ロジスティック回帰、再帰的特徴削減(RFE)、Boruta法という統計的な変数選択手法に加え、臨床の専門家によるレビューを組み合わせて、最終的にCAGの予測に重要な8つの変数が絞り込まれました。そのうえで9種類の機械学習モデルが構築・調整され、AUC(予測精度を表す指標)、感度、特異度、F1スコアといった指標で性能が比較されています。

わかったこと

比較の結果、「多層パーセプトロン(MLP)」と呼ばれるモデルが最も良い性能を示したと報告されています。内部検証でのAUCは0.826(95%信頼区間:0.788〜0.864)、時期をずらした外部検証でのAUCは0.780(95%信頼区間:0.745〜0.815)でした。

さらに、モデルがどの要因を重視して予測しているかを解析する「SHAP分析」という手法を用いたところ、CAGのリスクを高める方向に働く要因として、ヘリコバクター・ピロリ菌感染、年齢、喫煙、高塩分の漬物類の摂取が上位に挙がったとされています。一方で、果物や野菜の摂取はリスクを下げる方向(保護的な要因)として示されたと報告されています。

研究チームは、この8つの入手しやすい臨床変数を組み込んだモデルが、非侵襲的でアクセスしやすいリスク層別化のツールとなり得るとし、プライマリケア(かかりつけ医などの初期診療の場)における早期スクリーニングや、対象を絞った介入に役立つ可能性があると述べています。

この研究を読むうえで

この研究は、中国・上海の一つの病院における高齢患者のデータをもとにしたものであり、内部検証と時期をずらした検証は行われているものの、他の地域や集団でも同じ精度が得られるかどうかは、今回の要旨だけからは判断できません。また、示された食習慣などの要因はあくまで統計的な関連であり、これらを変えることでCAGのリスクが実際に下がるかどうかを直接示したものではない点にも注意が必要です。一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。

まとめ

今回の研究では、高齢者を対象に、ヘリコバクター・ピロリ菌感染や年齢、喫煙、食習慣などの身近な情報から慢性萎縮性胃炎のリスクを予測する機械学習モデルが開発され、内部・外部の両検証で一定の予測性能が確認されたと報告されています。今後、内視鏡検査が難しい高齢者のスクリーニングを補助する手段として、さらなる検証が期待される分野といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:高齢患者における慢性萎縮性胃炎予測のための解釈可能な機械学習モデルの開発と検証(フロンティアーズ・イン・メディシン・2026年07月)