日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:LWT

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を解こうとした研究か

野菜を高温で加熱すると組織はやわらかく崩れてしまいます。これを抑える方法のひとつが「低温ブランチング」と呼ばれる下処理で、加熱調理や殺菌の前に50〜60℃程度の中温で野菜をしばらく置いておくというものです。添加物を使わずに食感を保てるため、余計な材料を加えない加工の要求にも合う手法として使われてきました。従来この効果は、中温でよく働くペクチンメチルエステラーゼ(PME)という酵素が細胞壁のペクチンを変化させ、加熱による分解を抑えるためだと説明されてきました。

ところが著者らは、酵素の働きだけでは説明しきれない点があると指摘します。先行研究では、PMEの最適温度に近い50℃よりも60℃で処理したほうが、その後の121℃加熱後に硬さがよく残ったと報告されています。ここから、温度が高いほど細胞膜がゆるやかに壊れ、細胞内のイオンが漏れ出して細胞壁のペクチン同士を結びつける、という別の要因が関わっているのではないかという考えが出てきました。しかし通常の低温ブランチングでは、熱による効果と細胞膜が壊れる効果が同時に起きてしまうため、どちらがどれだけ効いているのかを切り分けられません。

そこでこの研究は、熱とは無関係に細胞膜だけを通しやすくする手段としてパルス電界(PEF)を用い、細胞膜の状態を数値で測りながら、膜の通しやすさが食感の安定にどう関わるかを確かめることを目的としました。

どのように調べたか

試料には市販の生ニンジンを使い、直径20mm・高さ10mmの円柱に切りそろえました。パルス電界処理は、実験室規模の装置で、水中に置いた試料に短い高電圧パルスを繰り返し加えるものです。強い電圧をかけると細胞膜に電位差が生じ、ナノメートル単位の小さな穴(電気穿孔)ができて、物質が通りやすくなります。熱による損傷をほとんど伴わない点が特徴です。

細胞膜がどれだけ変化したかは、電気インピーダンス分光法(EIS)という非破壊の測定で評価しました。これは試料に周波数を変えながら微弱な電気を流し、電気の通りにくさの変化から内部構造を推定する方法です。得られたデータを等価回路モデル(定位相要素モデル)に当てはめることで、細胞膜の静電容量(Cm、膜が電気をためる能力にあたり、膜の健全さの指標になる)、細胞外の抵抗(Re)、細胞内の抵抗(Ri)という値を取り出しました。著者らは、電界強度(0〜2.0kV/cm)、パルスの長さ(0〜200µs)、パルスの繰り返し頻度(1〜200Hz)を一つずつ変えて、それぞれが膜に与える影響を比べています。

その結果を踏まえて選ばれた条件(2.0kV/cm、200µs、50Hz、200パルス)でパルス電界処理を行い、続いて50℃・30分の低温ブランチング、さらに121℃・10分の高温加熱を行って、硬さを測定しました。あわせて細胞壁の分析として、ペクチンのメチル化の程度(FT-IRによる測定)と、水に溶けるペクチン(WSP)とキレート剤に溶けるペクチン(CSP)という画分の量を調べています。CSPはカルシウムなどのイオンを介してより強く結びついたペクチンを反映する画分です。

報告された主な結果

電気的な測定では、電界強度を上げるほど膜の静電容量Cmが段階的に下がり、2.0kV/cmで対照区に比べ有意に低下しました。細胞外抵抗Reも同様に段階的に下がり、1.5〜2.0kV/cmで最も低い値になっています。一方、細胞内抵抗Riには処理間で目立った差はありませんでした。著者らはこれを、膜は確かに通しやすくなっているが、細胞そのものが完全に崩壊してはいない「制御された電気穿孔」の状態を示すものと解釈しています。パルスの長さや繰り返し頻度を変えた場合の影響は、電界強度に比べて限定的でした。この研究では、電界強度が膜の通しやすさを調節するうえで鍵となる制御項目だと位置づけられています。

硬さについては、高温加熱だけを受けた試料が最もやわらかく、低温ブランチングを加えるとそれより有意に硬さが保たれました。さらにパルス電界処理と低温ブランチングを組み合わせた試料は最も硬く、高温加熱のみ・低温ブランチングのみのいずれと比べても有意に上回りました。低温ブランチングを熱による膜損傷が小さい50℃で行っているため、この上乗せ分は主にパルス電界による膜の変化に由来する、と著者らは述べています。

細胞壁の分析では、ペクチンのメチル化の程度に処理間の有意差はなく、中性糖の総量も大きくは変わりませんでした。その一方で、パルス電界と低温ブランチングを組み合わせた区では、水に溶けるペクチン(WSP)が有意に減り、キレート剤に溶けるペクチン(CSP)が有意に増えるという分布の移動が見られました。著者らはこれを、膜が通しやすくなったことで細胞内にもともとある2価の陽イオンが移動しやすくなり、既存のペクチン同士のイオン架橋が進んだ結果ではないか、という仕組みの説明として提示しています。組成全体の大きな変化ではなく、細胞壁の局所的な補強によって硬さが保たれた可能性を示すものだ、というのが論文の見方です。

この研究が示していること

この研究は、これまで温度と酵素の働きで説明されてきた低温ブランチングについて、「細胞膜の通しやすさ」という別の要素を熱の影響から切り分けて評価した点に意味があります。パルス電界で膜の状態を意図的に変え、その変化を電気インピーダンス測定で数値としてとらえたうえで、硬さの保持と結びつけて示したことで、膜の状態が食感の安定に関わることを裏づける実験的な根拠が得られました。

著者らは、膜の通しやすさを加工工程で調節できる一つのパラメータとして扱えるという枠組みを提示しています。食感を左右する要因を、経験的な温度条件ではなく測定可能な構造の指標として捉え直す道筋を示した研究といえます。

著者:Kanta Machi(The United Graduate School of Agricultural Science, Gifu University, 1-1 Yanagido, Gifu City, Gifu Prefecture, Japan)、Yuni Kartika(The United Graduate School of Agricultural Science, Gifu University, 1-1 Yanagido, Gifu City, Gifu Prefecture, Japan)、Takahisa Nishizu(Faculty of Applied Biological Sciences, Gifu University, 1-1 Yanagido, Gifu City, Gifu Prefecture, Japan)、Teppei Imaizumi(Faculty of Applied Biological Sciences, Gifu University, 1-1 Yanagido, Gifu City, Gifu Prefecture, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kanta Machi, Yuni Kartika, Takahisa Nishizu, et al. Quantitative evaluation of pulsed electric field-induced membrane permeabilization via electrical impedance spectroscopy for low-temperature blanching of carrot tissue. LWT 2026-08-29. DOI: 10.1016/j.lwt.2026.119902. 原著ライセンス:CC BY.