ヒラタケ栽培では、おがくずなどを詰めた「菌床袋(バッグログ)」を種菌(オガクズや米ぬかなどを混ぜた培地)に仕込む前に殺菌する工程が欠かせません。この殺菌が不十分だと雑菌やカビが先に増えてしまい、収穫にたどり着けないことがあります。インドネシア・パンカジェネ諸島国立農業ポリテクニクの研究グループは、この殺菌工程を従来の「ドラム缶での加熱・燃焼」ではなく、パルス電界(PEF:短時間の高電圧パルスを与える方法)に置き換えたときに、ヒラタケの種菌の育ち方がどう変わるかを調べました。
従来法は、水を張ったドラム缶に菌床袋を入れてガスバーナーなどで8〜10時間加熱し、ガスボンベを2〜3本消費するうえ、煙や熱による周辺環境への影響や火災リスクも伴う方法だと論文では説明されています。しかも高温に長時間さらすことで培地中の栄養分が失われ、殺菌自体が不完全に終わって雑菌が繁殖することもあるといいます。これに対しPEFは、電極間に置いた試料に瞬間的な電気パルス(この研究では30キロボルト前後)をかけて微生物を不活化させる方法で、温度をほとんど上げずに済む点が特徴として紹介されています。
研究でわかったこと
実験では、おがくず50kg・米ぬか5kg・石灰1kgを混ぜた培地を用意し、PEFを一切当てない場合(0秒)と、2.6秒、3.4秒当てた場合の3条件を比較しました。殺菌後の菌床袋にヒラタケ「フロリダF2」系統の種菌を培地重量の約1%相当(培地1.5kgあたり15g)接種し、40日間培養して育ち方を観察しています。
まず雑菌の量を示す生菌数(TPC)は、PEFを当てない場合の1mgあたり5200個から、2.6秒のPEF処理で1mgあたり2600個まで減少しました。論文は、食用きのこの培地で許容されるTPCの上限の目安(1mgあたり10万個程度)と比べても今回の値は十分低いとしつつ、それでも容器の殺菌方法などにはまだ改善の余地があると述べています。
次に、菌糸がどれだけ活発に伸びたかを示す指標「菌糸生育率(MGP)」を見ると、30日間の培養を通じてPEF処理区は無処理区より高い値を示し、2.6秒処理で最大121.14%に達しました。ただし3.4秒まで曝露時間を延ばすとMGPはむしろ低下しており、電界を当てすぎると細胞構造が傷み、かえって菌糸の育ちを妨げる可能性があると考察されています。統計解析(分散分析)でも、培養日数と曝露時間、その組み合わせのいずれもがMGPに強く影響していることが確認されました。
もう一つの指標である「菌糸伸長速度(MRR、1日あたりの伸びの速さ)」でも、PEF処理(2.6秒・3.4秒)は無処理より高い値となり、2.6秒処理で最大7.57(従来型の殺菌では3.09にとどまったとの比較データも示されています)を記録しました。研究チームは、PEFによる殺菌で雑菌が減った分、菌糸が栄養を奪い合わずに伸びやすくなったのではないかと解釈しています。また殺菌後の菌床袋を観察すると、重量はPEF処理の前後でほとんど変化しなかった一方、袋の直径はやや膨らむ傾向が見られたことも報告されています。
この研究の位置づけ
この研究は、あくまで特定の条件(30kVのPEF装置、おがくず主体の培地、ヒラタケの一系統、限られた曝露時間の設定)のもとで得られた結果であり、著者らも殺菌工程全体の改善余地に言及しています。曝露時間を長くするほど良いわけではなく、2.6秒前後に適した範囲がありそうだという点も踏まえると、条件が変われば最適な曝露時間も変わりうると考えられます。一つの研究であり、この方法がすぐに実用の殺菌法に置き換わると断定できるものではありません。
まとめ
この研究では、ヒラタケ栽培用の菌床袋をパルス電界で殺菌すると、雑菌数を抑えつつ菌糸の伸びや広がりを促す傾向が見られたと報告されています。特に2.6秒という曝露時間で雑菌抑制と菌糸生育のバランスが良かった一方、長すぎる曝露はかえって生育を妨げる可能性も示唆されました。従来の加熱殺菌が抱える時間や燃料、環境負荷の課題に対する一つの選択肢として、今後さらなる検証が期待される研究といえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Nur Faidah Munir, Zaimar Zaimar, Muhammad Kadir, et al. Effect of sterilizing bag-logs using pulsed electric field method on oyster mushroom seed growth characteristics. フード・リサーチ (2026). DOI: 10.26656/fr.2017.10(4).232. 原著ライセンス: cc-by.