ニンジンといえば食卓でおなじみの野菜だが、その野生種の中には食用のニンジンとは姿形も性質も異なるものが存在する。今回紹介する研究が対象とした「Daucus carota subsp. maximus」は、セリ科に属する二年生植物で、アルジェリアに自生する野生ニンジン亜種の中でも最大級の大きさを持つとされる。背の高い茎、三角形の葉、大きな散形花序(花が傘のように広がって咲く構造)が特徴とされ、香り高い植物として知られているという。この研究では、この野生植物から抽出した成分にどのような化学物質が含まれ、どのような生理活性を持つ可能性があるのかが調べられた。

どのように調べたのか

研究チームはD. carota subsp. maximusから、アセトン、メタノール、ヘキサンなど複数の溶媒を使って有機抽出物を作成し、それぞれに含まれるポリフェノールやフラボノイドの量を測定した。その上で、抗酸化能をDPPH法やABTS法、CUPRAC法、フェナントロリン法、フェリシアン化カリウム法、SNP(ニトロプルシドナトリウム)法という複数の異なる手法で評価し、さらに抗菌活性やα‐アミラーゼ(デンプンを分解する酵素)阻害活性についても検討した。加えて、LC‐ESI‐MS/MS(液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせた分析手法)を用いて抽出物中の個々のフェノール化合物を同定し、コンピューター上でのシミュレーション(in silico解析)によって、検出された化合物が体内でどのように吸収・分布されうるか(ADME特性)についても予測を行っている。

抽出物ごとに異なる特徴が見られた

分析の結果、ポリフェノール含有量が最も高かったのはアセトン抽出物(305.17±0.56 μg GAE/mg E)だった一方、フラボノイド含有量が最も高かったのはメタノール抽出物(135.54 μg QE/mg E)だったと報告されている。抗酸化活性についても、メタノール抽出物がDPPH法(IC50=32.67±0.74 μg/mL)やABTS法(IC50=13.76±0.06 μg/mL)をはじめとする複数の評価系で最も強い活性を示したとされる。LC‐ESI‐MS/MS分析では合計19種類のフェノール化合物が検出され、その中でもルチンと呼ばれるフラボノイドが最も多く含まれていたという。抗菌活性に関しては、アセトン抽出物がMicrococcus luteusおよびPseudomonas aeruginosaという2種類の細菌に対して顕著な効果を示したとされる。また、α‐アミラーゼ阻害活性についてはヘキサン抽出物が最も高く、400 μg/mLの濃度で52.15%の阻害率に達したと報告されている。さらに、コンピューター上でのADME予測では、複数の化合物が良好な吸収特性を持つ可能性、また一部の分子については血液脳関門(BBB)を通過しうる可能性が示唆されたという。

この研究の位置づけと読む上での注意

著者らは、D. carota subsp. maximusが抗酸化・抗菌・酵素阻害という複数の観点で興味深い性質を持つ可能性を示しつつも、これらはあくまで抽出物や化合物レベルでの実験結果であり、動物や人での効果を直接確認したものではないと述べている。論文中でも、今回の知見を実際の応用につなげるためには、さらなる生体内(in vivo)での検証や、製剤化に向けた研究が必要であると明記されている。したがって、この植物やその成分がそのまま健康効果を持つと断定できる段階にはなく、あくまで一つの基礎研究として位置づける必要がある。なお、著者らの所属機関はアルジェリア、トルコ、サウジアラビア、イタリアの大学・研究機関であり、日本の研究機関や日本の食習慣に関する言及は本要旨・本文中には見当たらない。

まとめ

今回の研究では、アルジェリアに自生する野生ニンジン亜種D. carota subsp. maximusの抽出物について、溶媒によって含まれる成分や活性の強さが異なることが示された。特にメタノール抽出物の抗酸化力や、アセトン抽出物の抗菌性、ヘキサン抽出物の酵素阻害作用など、抽出方法によって異なる機能性の可能性が浮かび上がった点が興味深い。ただし、これは一つの基礎研究の結果であり、今後の検証を経て初めて実用面での意味が明らかになっていくものである。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Maroua Hadji, Khadidja Dehimi, Fethi Farouk Kebaili, et al. Wild Daucus carota Subsp. maximus : Phytochemicals, Bioactivities, and Pharmacokinetic Insights for Future Food and Therapeutic Applications. 食品科学と栄養誌(Food Science & Nutrition) (2026). DOI: 10.1002/fsn3.72202. 原著ライセンス: cc-by.