生姜を乾燥させて保存性を高める加工は昔から行われていますが、乾燥に時間がかかりすぎたり、熱によって色や風味成分が損なわれたりすることが課題とされています。今回紹介する研究は、電気流体力学(EHD、Electrohydrodynamic)という手法を使い、生姜の乾燥にかける電圧の違いが乾燥のスピードや仕上がりの品質にどう影響するかを調べたものです。EHD乾燥は、電圧をかけることで生じる気流(コロナ風)を利用して水分の蒸発を促す技術で、通常の熱風乾燥とは異なる仕組みを持ちます。研究は内モンゴル工業大学(中国)の研究者らによって行われました。

実験では、電圧をかけない対照群(CG)と、複数の電圧条件でEHD乾燥した生姜を比較し、乾燥速度、水分の抜けやすさを示す実効水分拡散係数(Deff)、色、テクスチャ(食感に関わる物理的な硬さなど)、水分の状態、香り成分(揮発性成分)の変化などを総合的に評価しています。その結果、EHD処理は生姜の乾燥速度、乾燥後に水を吸い戻す速さ(再水和速度)、そしてDeffのいずれも有意に高めることが確認されました。特に21kVの電圧をかけた群では、乾燥速度が対照群の4.48倍に達したと報告されています。

乾燥の進み方を数式でとらえる

研究チームは、水分がどのように失われていくかを表す指標(ln[MR])が時間に対してほぼ直線的に変化し、その相関の強さを示す決定係数はR²が0.9を超えていたと報告しています。さらに、乾燥の進み方を予測するための代表的な10種類の薄層乾燥モデル(乾燥現象を数式で近似する手法)を比較したところ、Midilliらのモデルが最も生姜の乾燥データに当てはまりが良かったとされています。こうしたモデル化は、乾燥条件を工業的に設計する際の目安として使われるものです。

品質面ではどうだったか

色・食感・水分状態・香り成分という複数の観点から見ると、17kVの電圧で処理した場合に最も色の保持が良く、全体として最も高品質な仕上がりになったと報告されています。また、EHD乾燥によって生姜のテクスチャ(食感の物理特性)も有意に改善したとされています。低磁場核磁気共鳴(LF-NMR)という手法で内部の水分状態を調べたところ、自由水(動きやすい水分)が有意に減少し、結合水(食品成分と結びついた水分)が増加したことも示されています。香り成分については、対照群と比較して、EHD処理は生姜に含まれる多くのテルペノイド系化合物(香りや風味に関わる成分群)を良好に保持したと報告されています。さらに、コンピューターを用いた予測手法(SwissADME)によって、検出された揮発性成分のうち6種類が、医薬品としての利用に適した性質(drug-likeness)を持つと予測されたとされています。

この研究をどう読むか

この研究は、特定の電圧条件下でのEHD乾燥が生姜の乾燥速度や一部の品質指標を改善しうることを示した一つの実験結果であり、EHD技術が食品乾燥分野で応用される可能性について理論的・実験的な裏付けを与えるものと位置づけられています。ただし、これは特定の条件下で得られた知見であり、生姜の健康効果や食品としての安全性・効能を証明するものではありません。乾燥食品の品質に関する研究として一つの成果であり、今後さらに研究が積み重ねられていく段階にあるといえます。

EHD乾燥は、熱を多く使わずに水分を効率よく飛ばせる可能性がある技術として、食品加工の省エネルギー化や品質保持の観点から関心を集めています。今回の研究成果は、生姜という身近な食材を対象に、電圧という一つの条件を変えることで乾燥の速さと仕上がりがどう変わるかを具体的なデータで示した点に意義があるといえるでしょう。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Mingyu Ding, Jingli Lu. The Influence of Applied Voltage on Drying Kinetics, Quality, and Mathematical Modeling of Ginger During Electrohydrodynamic ( EHD ) Drying. フード・サイエンス・アンド・ニュートリション (2026). DOI: 10.1002/fsn3.72218. 原著ライセンス: cc-by.