著者の所属・活動拠点の国は、タイ、インドネシアです。
掲載誌:Plexus Medical Journal
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
2015年、国連は「持続可能な開発目標(SDGs)」を採択しました。そのうち目標2は「飢餓をゼロに」を掲げ、食料安全保障と栄養の改善を目指しています。栄養は、目標3(すべての人に健康と福祉を)や目標12(つくる責任・つかう責任)などとも深く関わります。
栄養不良(マルニュートリション)には、栄養が足りない低栄養や微量栄養素の不足だけでなく、過体重・肥満、食事に関係する生活習慣病も含まれます。論文の序論では、世界保健機関(WHO)の推計として、2022年に5歳未満の子ども1億4900万人が発育阻害(年齢に比べて身長が低い状態)にあったことなどが紹介されています。こうした問題を集団レベルで調べる学問が栄養疫学で、食事や栄養状態と健康との関係を明らかにし、公衆衛生政策の根拠を提供します。
研究チームによると、SDGsが栄養研究の量やテーマ、研究者の協力関係にどのような変化をもたらしたのかは、これまで包括的には分析されていませんでした。そこで著者らは、SDGs採択前の10年間(2005〜2014年)と採択後の10年間(2015〜2024年)を比べ、研究の流れがどう変わったかを調べました。
論文データベースから研究動向を読み取る
著者らが用いたのは「計量書誌分析(ビブリオメトリクス)」と呼ばれる手法です。個々の論文の中身を検証するのではなく、発表された論文の数、著者の国や所属機関、分野、キーワードといった情報を集計して、研究分野全体の傾向をつかみます。
データは学術論文データベースのScopusから2025年5月25日に取得しました。「栄養疫学」「食事摂取量」などの語と、「低栄養」「発育阻害」「微量栄養素欠乏」などの語を組み合わせて検索し、英語で書かれたオープンアクセスの原著論文に絞り込みました。その結果、SDGs前の期間から672本、SDGs後の期間から3,311本が分析対象になりました。
分析には、論文間のつながりを地図のように可視化するソフトウェアVOSviewerが使われました。比較の指標は、年ごとの論文数、国、所属機関、分野、そして著者が付けたキーワードの共起(同じ論文に一緒に現れること)の5つです。よく一緒に現れるキーワードのまとまり(クラスター)を、その時期の主要な研究テーマとして捉えています。
主な結果:論文数の急増とテーマの広がり
論文数は、SDGs前の672本からSDGs後の3,311本へと、約5倍に増えました。年ごとに見ると、SDGs前は2005年の約25本から2014年の125本余りへと徐々に増加していたのに対し、SDGs後は2015年の約130本から2024年には520本を超え、より急な伸びを示しました。
国別では、両期間とも米国が最多で(171本から566本)、英国が2位でした(65本から309本)。SDGs後には中国(286本)や日本(209本)、オランダ(203本)の伸びが目立ちました。著者らが上位10か国を所得水準で分けて集計したところ、高所得国の論文はSDGs前の468本からSDGs後の1,974本へ、低・中所得国は94本から468本へ増えました。低・中所得国の貢献は増えたものの、高所得国が大きな割合を占める状況は続いていたと論文は報告しています。
分野別では、SDGs前は医学(52.9%)と看護学(30.0%)が中心でした。SDGs後も両者が上位を占めましたが、医学の割合は41.9%に下がり、農学・生物科学が3.7%から14.1%へと大きく伸びました。社会科学や環境科学、学際分野もわずかに増え、研究の分野が多様になったことが示されました。
キーワード分析では、よく結びつくキーワードの数がSDGs前の61語からSDGs後の250語へ増えました。SDGs前の研究は、低栄養、子ども、身体計測といった基礎的なテーマに比較的集中していました。SDGs後には、食料安全保障、食事の多様性、生活習慣病などの非感染性疾患、持続可能な食事、加齢に伴う筋肉量の減少(サルコペニア)、フレイル(虚弱)、新型コロナウイルス感染症などのテーマも現れ、研究の関心が広がったことが読み取れます。
この研究が示すもの
著者らは、SDGsが栄養研究の成長と、医学にとどまらない学際的な取り組みを後押ししたと結論づけています。栄養が健康問題としてだけでなく、農業や環境、社会とつながる開発課題として捉えられるようになった変化が、論文の量や分野、テーマの広がりに表れているという解釈です。
一方で、栄養不良の負担が大きい低・中所得国からの研究は依然として少なく、地理的な偏りは残っていると著者らは指摘しています。また、分析は英語のオープンアクセス論文でScopusに収録されたものに限られ、キーワードのまとまりの解釈には一定の主観が入ることも、限界として挙げられています。
国際的な目標が掲げられた前後で研究の姿がどう変わったかを、20年分の論文データから描き出した研究です。栄養研究が広がりを見せる一方で、誰がその研究を担っているかという不均衡も浮かび上がらせています。
原著論文の著者・所属:Natasha Aqmarina(Department of Community, Family, and Occupational Medicine, Khon Kaen University, Thailand)、Tutut Okta Hardiyanti(Health Research Center, Institute for Research and Community Service, Diponegoro University, Indonesia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Natasha Aqmarina, Tutut Okta Hardiyanti. Bibliometric Analysis of Nutritional Epidemiology and Malnutrition Research: The Impact of the SDGs Over Two Decades (2005–2024). Plexus Medical Journal 2026-10-20. DOI: 10.20961/plexus.v5i5.2774. 原著ライセンス:CC BY.