この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Gels

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

中華圏の主食として親しまれている蒸しパン(マントウ)は、小麦粉に含まれるグルテンというタンパク質の網目構造がふくらみや弾力を支えています。しかし、原料となる小麦の種類によってはグルテンの量や質が十分でない「低グルテン小麦粉」があり、こうした粉で作った生地や蒸しパンは、ふくらみにくかったり食感が劣ったりすることが課題になります。今回紹介する研究では、この低グルテン小麦生地に食物繊維の一種であるポリデキストロース(PD)や、ポリデキストロース・イヌリン・フラクトオリゴ糖を組み合わせた複合食物繊維(PIF)を加えることで、生地や蒸しパンの性質がどのように変わるのかを調べています。

何を、どのように調べたのか

研究チームは、低グルテン小麦粉にポリデキストロース(PD)または複合食物繊維(PD・イヌリン・フラクトオリゴ糖からなるPIF)を3〜10%の範囲で添加し、生地と蒸しパンの性質を比較しました。調べた項目は多岐にわたり、糊化特性(でんぷんが加熱・冷却される過程での粘度変化)、生地の機能特性(生地の形成しやすさや粘弾性)、そして微細構造(顕微鏡レベルでの生地の内部構造)です。加えて、蒸しパンの硬さ・粘着性・凝集性・ガム性・咀嚼性・弾力性・復元性といったテクスチャー(食感の機械的測定値)、表面の色や明るさ、さらに比容積(ふくらみの度合い)・粘り・弾力などの官能評価(人による味や食感の評価)も測定しています。

研究でわかったこと

対照(食物繊維を加えないもの)と比べて、PDまたはPIFを3〜10%添加すると、蒸しパンの硬さ・粘着性・凝集性・ガム性・咀嚼性が増加し、その改善幅は5%添加のときに最も大きくなったと報告されています。一方で、ふっくら感に関わる弾力性と復元性は逆に低下したとされています。また、表面の色は明るさが増し、色のばらつき(色差)は小さくなったということです。官能評価では、比容積・粘り・弾力性などが向上し、総合評価のスコアも上がったと述べられています。

糊化特性については、PDやPIFの添加により、時間が経ってからでんぷんが再び硬くなる現象(老化)に関連する粘度やトルクが低下したと報告されています。これは、でんぷんの一成分であるアミロペクチンの老化が抑えられたことと関連づけられています。また、食物繊維の添加量が増えるほど生地の形成にかかる時間(生地形成時間)が長くなり、これは官能評価での粘着性や弾力性の向上とも一致していたとされています。さらに、添加量が増えるほど、小麦粉懸濁液の糊化のしやすさを示す崩壊粘度や、生地の崩壊トルクは低下する一方、糊化が始まる温度やでんぷんが糊化する際のピーク温度はいずれも上昇したということです。

タンパク質の構造分析では、PDやPIFの添加量が増えるほど、グルテンタンパク質の中のα-ヘリックス、β-ターン、ランダムコイルといった構造の割合が生地・蒸しパンの両方で増加し、グルテンタンパク質の安定性が高まったことを示していると解釈されています。顕微鏡による微細構造の観察では、PDの添加と比べて、PIFを3%から10%へと増やすほど、生地内部の気孔や隙間がより多く、大きく、深くなったと報告されています。同様に、PIFの添加量が3%から10%に増えるにつれて、グルテン網目構造の形成に対する抵抗性が増し、蒸しパン内部の気泡の数は徐々に減少し、咀嚼性は増加したとされています。ただし、PDの添加と比較すると、PIFを添加した場合には蒸しパンの比容積がより大きくなり、粘着力も強く、切断面から大きな塊が剥がれやすくなる一方で、硬さや官能評価のスコアはより高くなったと述べられています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、低グルテン小麦粉を使った蒸しパンの品質を、食物繊維の添加によってどのように調整できるかを実験室レベルで検討したものです。論文の著者らは、この研究が食物繊維を豊富に含み、口当たりや食感に優れた低グルテン蒸しパンの開発に役立つ可能性があるとしています。ただし、これは一つの研究であり、特定の条件下での測定結果に基づくものです。また、健康への効果を検証したものではなく、あくまで生地・蒸しパンの物理的な特性や食感、微細構造に関する分析であることに留意が必要です。

なお、この論文の著者らは中国の国家食糧戦略備蓄局(Academy of National Food and Strategic Reserves Administration)に所属しており、日本の研究機関との関わりについては、提供された情報の中には記載がありませんでした。

まとめ

今回の研究では、低グルテン小麦粉にポリデキストロースや、ポリデキストロース・イヌリン・フラクトオリゴ糖からなる複合食物繊維を3〜10%添加すると、生地の形成特性や蒸しパンのテクスチャー、色、官能評価などに変化が生じることが報告されました。特に5%添加で改善効果が大きく、PDとPIFとでは蒸しパンの比容積や食感の出方に違いが見られたとされています。低グルテン小麦を活用したパン類の品質改善に向けた基礎データの一つとして位置づけられる研究といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):ポリデキストロースおよびその複合体が低グルテン小麦生地と蒸しパンの糊化特性、機能特性、微細構造特性に与える影響(ゲルズ・2026年08月)

著者:Shiyu Chang(Academy of National Food and Strategic Reserves Administration, National Engineering Research Center for Grain Storage and Transportation, Beijing 102209, China)、Ruijun Chen(Academy of National Food and Strategic Reserves Administration, National Engineering Research Center for Grain Storage and Transportation, Beijing 102209, China)、Bing Dai(Academy of National Food and Strategic Reserves Administration, National Engineering Research Center for Grain Storage and Transportation, Beijing 102209, China)、Xingjun Li(Academy of National Food and Strategic Reserves Administration, National Engineering Research Center for Grain Storage and Transportation, Beijing 102209, China)