著者の所属・活動拠点の国は、チェコです。

掲載誌:Frontiers in Public Health

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

取り組みの背景と目的

競技スポーツに打ち込む10代の選手は、練習量の増加、食事の制限、理想とされる体型への意識といった圧力にさらされやすいと、著者らは指摘しています。食事から得るエネルギーは競技力を高める手段として語られることが多い一方、成長やホルモンの調節、長期的な健康を支える役割は見過ごされがちだといいます。

運動で使うエネルギーに対して食事からの摂取が長く不足すると、体の基本的な働きに回せるエネルギーが足りない「低エネルギー可用性」と呼ばれる状態になります。これが慢性化すると、月経や生殖機能、骨の健康、心血管や免疫の働き、心の健康、競技力などに影響が及ぶ「スポーツにおける相対的エネルギー不足(REDs)」という症候群につながるとされています。急速な成長やホルモンの成熟、体型をめぐる社会的な圧力が重なる思春期は、特に影響を受けやすい時期だと位置づけられています。

著者らによれば、REDsについての科学的知見は蓄積されているものの、学校やクラブの現場での予防や早期の気づきは十分ではありません。続く疲労、頻繁な体調不良、月経不順、集中力の低下といった警告サインが、練習につきものの症状として見過ごされることもあるといいます。この論文は、チェコの大学が支援して2025年に実施した地域教育プロジェクト「長期的な健康のためのエネルギー」について、その立ち上げ、実施の様子、そこから得た教訓を報告する事例報告です。

どのように実施されたか

プロジェクトは、スポーツに力を入れる中等学校6校を対象に、全6回のワークショップを行いました。参加したのは15〜19歳(平均16.8歳)の生徒で、およそ300人に届いたと報告されています。種目はサッカー、陸上、水泳、体操が多くを占めました。1回あたりの参加者は30〜60人ほどで、一部の学校ではコーチも同席しました。保護者は会場には来ていませんが、学校の通信やオンライン資料を通じて情報が届けられました。参加は任意で、健康データなどの個人情報は集めていません。

ワークショップは60〜120分で、エネルギー可用性の考え方、REDsが健康と競技力に与える影響、警告サインの見分け方、そしてコーチや保護者、医療者といった支える側の役割という四つのテーマで構成されました。講師は、スポーツ栄養を学んだ大学院生が教員の指導のもとで務め、内容は国際的な合意声明などに基づいて作られました。

授業では、練習量を増やしながら「調子を上げるため」に食事を減らした結果、疲れやすくなり、体調を崩しがちになり、成績も落ちた若い選手の事例などを取り上げ、生徒が危険因子や予防策を考えました。体重や体組成、月経といったデリケートな話題は、個人を問いただす形ではなく一般的な場面設定で扱い、オンラインツールを使って匿名で質問を集めたあと、希望者が自由に話し合う二段階の進め方をとりました。あわせて、要点をまとめた図解資料を学校やクラブで繰り返し使えるように作成し、若い選手の健康的な生活を支援する別のプロジェクトと協力して、ウェブサイトやInstagramでも発信しました。

著者らが挙げる教訓

著者らは、実施を通じて得られた実践的な教訓をいくつか挙げています。第一に、REDsについての教育は競技力の面だけでなく、成長や長期的な健康、スポーツを長く続けることと結びつけて伝えることが大切だという点です。専門的・臨床的な言葉だけでは10代の関心を引きにくく、疲労やくり返す体調不良、体型を変えるよう求められる圧力といった、学校やスポーツの日常に根ざした例のほうが理解の手がかりになったといいます。

第二に、恥ずかしさや偏見を伴いやすい話題を扱うには安心して話せる場づくりが欠かせず、匿名での質問受付は、普段なら黙っていたかもしれない生徒の参加を促す有用な方法だったと述べています。第三に、選手を取り巻く保護者やコーチ、教員が警告サインを「普通のこと」や「望ましいこと」と受け止めていれば、生徒だけに向けた予防のメッセージは効果を持ちにくいとして、周囲の大人を巻き込む重要性を強調しています。さらに、対面の授業とオンライン発信を組み合わせることで、1回限りの授業を超えて要点を届けやすくなるとしています。

一方で著者らは、この取り組みは研究としての介入ではなく地域貢献活動として行われたもので、実施前後の知識や行動、健康状態の変化は測定していないと明記しています。そのため、受け入れられやすさや効果は評価できず、REDsの危険を減らしたと結論づけることはできないとしています。協力的な学校や大学との既存の連携といった、この地域ならではの条件があったことも、他の環境へそのまま当てはめにくい点として挙げられています。

この報告が示すこと

この論文は、効果を実証したものではありませんが、大学が科学的な知見と地域の現場を橋渡しし、スポーツ系の学校で思春期の選手にエネルギー不足の問題を伝える具体的な一つの形を示しています。体の不調を「練習のせい」で片づけず、食べることを成長と健康の土台として捉え直すための教育を、どのように現場に届けられるかを考えるうえでの実践例として位置づけられる報告です。

原著論文の著者・所属:Nikola Cizlerová(Faculty of Sports Studies, Masaryk University)、Tomáš Hlinský(Faculty of Sports Studies, Masaryk University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nikola Cizlerová, Tomáš Hlinský. A community-based educational initiative to support awareness of relative energy deficiency in sport among adolescent athletes. Frontiers in Public Health 2026-08-04. DOI: 10.3389/fpubh.2026.1868398. 原著ライセンス:CC BY.