この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

何を目的とした研究か

黄酒(ホアンジウ、中国の米を原料とした醸造酒)は、ビールやブドウ酒と並ぶ世界最古の酒のひとつとされ、中国では飲用だけでなく料理の調味料や漢方薬の加工補助材料としても使われています。中国の国家規格では、黄酒に含まれる総糖量(糖分の総量)に応じて、辛口(元紅)・半辛口(加飯)・半甘口(善醸)・甘口(香雪)の4種類に分類されます。糖分の差は、醸造中の糖化の調整や発酵を止めるタイミング、原料や微生物の違いから生じると説明されています。

研究チームは、この4分類にあたる市販品について、香りのもとになる揮発性成分(空気中に出てきて匂いとして感じられる成分)の構成を比べることを目的としました。論文では、糖分そのものが香りに与える因果的な影響を切り分けることや、甘さ分類に共通する指標を定めることを狙った研究ではないと明記されています。あくまで、市販製品レベルでの比較と、分析手法を組み合わせることで何が分かるかを確かめる研究だと位置づけられています。

どのように調べたか

著者らは、同じ製造元の市販黄酒4製品(辛口・半辛口・半甘口・甘口の各1種)を取り寄せ、3つの手法で分析しました。製造元をそろえたのは、メーカー間の違いによるばらつきを抑えるためですが、その代わりに製品ごとの個性と甘さ分類を切り分けられないという制約があることも論文は述べています。各製品について独立した3つの製造ロットを入手し、ロットごとに繰り返し測定が行われました。

用いた手法は、電子鼻(複数のセンサーで匂いの全体的なパターンをとらえる装置)、HS-SPME-GC-MS(容器上部の気体に成分を吸着させてから、ガスクロマトグラフィーと質量分析で個々の成分を分けて調べる方法)、GC-IMS(ガスクロマトグラフィーとイオン移動度分析を組み合わせ、微量成分に高い感度を示す方法)の3つです。あわせて、国家規格に沿って総糖量とアルコール度数も測定しています。なお、成分の同定はデータベース照合に基づく暫定的なものであり、確定ではないと論文は注記しています。

報告された主な結果

総糖量は、辛口が12.5±1.5 g/L、半辛口が32.6±2.1 g/L、半甘口が68.4±3.5 g/L、甘口が105.3±4.2 g/Lと測定され、いずれも国家規格の各分類の範囲に収まっていました。アルコール度数は辛口から半甘口が15%vol前後、甘口が17.0±0.2%volでした。

電子鼻では、4製品の匂いレーダーチャートの形は全体として似ていたものの、一部のセンサーで明確な違いが現れました。センサーの応答パターンから見ると、半甘口と甘口がひとつのまとまりに、辛口と半辛口がもうひとつのまとまりに近づく傾向が示されています。ただし電子鼻のセンサーは幅広い成分にまたがって反応するため、著者らはこの結果を特定の成分の証拠ではなく、匂いの全体像を示す探索的なものとして扱っています。

個々の成分については、HS-SPME-GC-MSで56種類、GC-IMSでは内部標準を除いて54種類の揮発性成分が暫定的に同定されました。著者らは、GC-MSがより幅広い成分をとらえ、GC-IMSは分子量の小さい成分に対してより高い感度を示したとして、両者が互いを補い合う関係にあると報告しています。GC-MSの結果では、どの製品でもエステル類が最も多い成分群で、次にアルデヒド類、有機酸、アルコール類が続きました。全体の揮発性成分量は辛口が最も多く(7901.539 μg/kg)、甘口が最も少なく(5843.025 μg/kg)報告されています。4製品に共通する成分が多い一方で、検出された成分の種類や量には違いが見られました。

統計解析では、4製品が互いに分かれて位置づけられ、その分離に寄与する成分が挙げられました。たとえば半甘口は、いくつかのアルコール類やアルデヒド類などと近い位置を占めました。ただし著者らは、試料数が限られることから、こうした分離や寄与の順位はあくまで探索的な結果であり、香りに実際に効いている成分や甘さ分類の指標が確定したわけではないと繰り返し述べています。本研究では官能評価や香気活性の評価は行われていません。

この研究が示すこと

この研究は、甘さの分類が異なる市販黄酒が、糖分という分かりやすい違いの背後で、香り成分の構成にも違いを持っていることを化学的なデータとして示しました。同時に、匂いの全体像をすばやくつかむ電子鼻と、個々の成分を特定する2種類のクロマトグラフィーを組み合わせることが、発酵食品の特徴づけや品質評価に役立つことを示した事例でもあります。著者らは、得られた成分情報を、黄酒の品質特性を理解するための比較の土台として提示しています。

著者:Ze Zheng(School of Pharmacy, Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, China)、Dongxue Qi(School of Pharmacy, Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, China)、Xiaolei Tang(Research Center of Traditional Chinese Medicine, The Affiliated Hospital to Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, China)、Jianan Qi(Department of Statistics and Data Science, Southern University of Science and Technology, Shenzhen, China)、Yiwei Zhao(School of Pharmacy, Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, China)、Yingqian Li(Quality Certification Department, Jilin Provincial Product Quality Supervision and Inspection Institute, Changchun, China)、Zhen Dong(School of Pharmacy, Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, China)、ZiYing Gao(School of Pharmacy, Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, China)、Di Zou(Department of Nephrology, The Affiliated Hospital to Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, China)、Bin Qi(School of Pharmacy, Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, China)、Li Liu(School of Pharmacy, Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ze Zheng, Dongxue Qi, Xiaolei Tang, et al. Comparative characterization of volatile components in commercial Huangjiu with different sweetness classifications using electronic nose, HS-SPME-GC-MS and GC-IMS. Frontiers in Nutrition 2026-10-01. DOI: 10.3389/fnut.2026.1941350. 原著ライセンス:CC BY.