この研究は、バングラデシュの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Ceylon Journal of Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ調べたのか

収穫後の米を保管する間に起きる被害は、食料の確保や品質の維持にとって大きな課題です。なかでもコクゾウムシ(Sitophilus oryzae)は、成虫が米粒を食べて産卵のための穴をあけ、幼虫は米粒の内部で育つため、外から見つけて駆除することが難しい害虫として知られています。論文によれば、貯蔵条件によっては14〜32%の穀粒損失につながることが報告されています。

こうした害虫には、リン化アルミニウム剤(フォストキシン)などの化学燻蒸剤が広く使われてきました。効き目が速く確実な一方で、著者らは、薬剤残留や害虫の抵抗性発達、環境や人体への影響への懸念が高まっていると指摘します。とくに、種子用や自家消費用に少量の米を保管する小規模農家は、安全に燻蒸を行う設備を持たないことが多いといいます。

そこで研究チームは、バングラデシュで身近に手に入る植物由来の資材(ボタニカル)が、成虫の生存、次世代の発生、穀粒の被害をどの程度抑えられるかを、従来の燻蒸剤と同じ条件で比べることを目的としました。同じ実験条件のもとで複数の植物資材を横並びに評価した研究は限られている、というのが著者らの問題意識です。

どのように調べたか

実験は、バングラデシュ稲研究所(BRRI)の実験室で、気温25±2℃、相対湿度65±2%に保った環境で行われました。2024年に期間を分けて2回実施され、同じ手順で得られたデータをまとめて解析しています。

比べたのは8つの処理です。無処理の対照区、フォストキシン錠剤、そして6種類の植物資材——センダンの葉の粉末(ゴラニーム)、ニーム(インドセンダン)の油、ビスカタリ(ヤナギタデ)の地上部の粉末、マホガニーの種子の粉末、アカンダ(トウワタの仲間)の地上部の粉末、ウチュンティ(カッコウアザミ)の地上部の粉末です。植物材料は洗浄・乾燥のうえ粉末にし、米200gあたり粉末2g、ニーム油1ml、フォストキシンは推奨量の40mgを用いました。

米(BRRI dhan89)はあらかじめ冷凍と加熱で内部の卵や幼虫を除いてから使い、各容器に200gを入れ、処理後ただちに羽化まもない成虫を雌雄10匹ずつ放しました。処理から96時間後に死亡数を数え、生き残った成虫にはさらに7日間産卵の機会を与えたうえで取り除き、その後5〜6週間かけて次世代(F₁)成虫の発生数を記録しています。最後に、穀粒の被害率、重量損失、発芽率を測定しました。なお著者らは、雌個体ごとの生存や雌雄別の死亡は記録していないため、F₁の数は「雌1匹あたりの産卵能力の変化」ではなく、成虫の死亡と繁殖の妨げが合わさった個体群全体の抑制を表すものだと明記しています。

主な報告結果

フォストキシンは成虫の死亡率100%となり、F₁成虫の発生も完全に抑えられたと報告されています。植物資材のなかではニーム油が際立っており、成虫の死亡率は91.67%、F₁成虫の発生数は平均3.00匹(無処理対照と比べて94.65%の減少)で、統計的にはフォストキシンと同等の水準だったとされています。

穀粒の被害についても同様の傾向が見られました。無処理では被害粒の割合が29.88%、重量損失が59.75%に達したのに対し、フォストキシンでは0.33%と0.66%、ニーム油では2.24%と4.49%にとどまり、この2つは他の処理より有意に低い値でした。

粉末資材では、ビスカタリが成虫死亡率71.67%で植物資材のうち2番目に高く、センダンの葉、マホガニー、アカンダ、ウチュンティは41.67〜55.00%の中程度でした。一方、F₁の抑制ではセンダンの葉とマホガニー種子の粉末が77.23〜77.71%の減少を示し、成虫を殺す力と次世代を抑える力が必ずしも一致しないことが示されています。著者らは、これらの粉末は重い発生を速やかに鎮める薬というより、個体群の増加を抑える役割に向く可能性があると述べています。

発芽への悪影響はどの処理でも見られませんでした。フォストキシン処理が93.67%で最も高く、マホガニー種子粉末が90.67%、他の植物資材は82.67〜88.00%で、無処理の80.67%をいずれも上回りました。無処理で発芽率が最も低かったのは、虫が死なずに増え、胚を傷つけたためだと説明されています。なお、ニーム油は死亡率とF₁抑制で優れていたにもかかわらず発芽率は対照より2.48%高いにとどまり、著者らはこの食い違いを本研究では追究しておらず、さらなる検討が必要だとしています。

この研究が示すこと

この研究は、実験室という管理された条件のもとで、身近な植物から得られる資材が貯蔵米の害虫対策にどこまで迫れるかを、同じ土俵で比較して示したものです。とくにニーム油は、成虫の死亡、次世代の発生、穀粒の被害のいずれにおいても燻蒸剤に匹敵する結果を残しました。

ただし著者ら自身が、これらは実験室規模の評価にもとづく結果であり、実際の貯蔵条件での検証を経なければ大規模な利用は推奨できないと述べています。薬剤への抵抗性や残留への懸念が高まるなかで、植物由来の資材が選択肢になりうるかどうかを見極めるための、一歩としての報告といえます。

著者:T. K. Roy(Entomology Division , Bangladesh Rice Research Institute (BRRI) , Gazipur , Bangladesh -1701)、M. A. BISWAS(Farm Management Division , Bangladesh Rice Research Institute (BRRI) , Gazipur , Bangladesh -1701)、S. Mia(Agronomy Division , Bangladesh Rice Research Institute (BRRI) , Gazipur , Bangladesh -1701)、M. S. Alam、A. Sannal(Department of Plant Pathology , Gazipur Agricultural University (GAU) , Gazipur , Bangladesh -1706)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):T. K. Roy, M. A. BISWAS, S. Mia, et al. Comparative efficacy of botanical protectants and phostoxin against Sitophilus oryzae (L.) infestation in stored rice under laboratory conditions. Ceylon Journal of Science 2026-09-09. DOI: 10.4038/cjs.v55i4.9771. 原著ライセンス:CC BY.