著者の所属・活動拠点の国は、クウェート、イラン、エジプトです。
掲載誌:World s Veterinary Journal
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
住肉胞子虫(サルコシスティス属)は、哺乳類、鳥類、爬虫類に広く寄生する原虫です。動物が、別の動物(終宿主)のふんに由来する感染型の虫体で汚れた餌や水を口にすると、体内で発育した寄生虫が筋肉の中に「シスト」と呼ばれる袋状の構造をつくります。ラクダでは多くの場合目立った症状はありませんが、炎症や組織の損傷を起こすことがあり、肉眼で見えるシストは食肉の見た目を損なって廃棄の原因にもなります。サウジアラビア、イラク、イラン、エジプトなどラクダを飼育する国々では、高い感染率が報告されてきました。
一方、ラクダが肉や乳の供給源として経済的に重要なクウェートでは、感染の広がり、体のどの部位に多いか、寄生虫の形や遺伝的な特徴についての情報が限られていました。研究チームは、クウェートで食肉処理されたヒトコブラクダを対象に、感染率と組織ごとの分布を明らかにし、寄生虫の特徴を形態と遺伝子の両面から調べることを目的としました。
どのように調べたか
調査は2020年1月から12月までの1年間、クウェート北部と南部の2か所の食肉処理場で行われました。対象は放牧で飼育されていたヒトコブラクダ270頭(雄214頭、雌56頭)で、生後8か月未満、8か月〜3歳、3歳超の3つの年齢層に分けられました。クウェートの気候に合わせ、4〜11月を乾季、12〜3月を雨季として季節による違いも比較しています。
各ラクダの骨格筋、横隔膜、舌、心臓、食道の5部位から計1,350の組織試料が集められました。主な検査法は「ペプシン消化法」で、筋肉を消化酵素で溶かし、シストから放出された虫体を顕微鏡で探します。これに加えて、組織の薄い切片を染色して観察する病理組織検査でシストの形と大きさを調べました。さらに、陽性試料の一部から寄生虫の遺伝子(18S rRNA遺伝子と呼ばれる、生物の分類によく使われる領域)を増幅して塩基配列を読み取り、データベースに登録された他地域の住肉胞子虫の配列と比較しました。
主な結果
肉眼で見える大きなシストはどのラクダにも見つかりませんでしたが、顕微鏡検査では270頭中194頭(71.85%)で感染が確認されました。雄の感染率(74.3%)は雌(62.5%)より高かったものの、統計的に意味のある差ではありませんでした。年齢と季節は感染率と有意に関連しており、8か月〜3歳の群が85.8%と、他の2群(8か月未満59.6%、3歳超65.5%)より高い値でした。季節別では雨季が92.8%、乾季が62.4%でした。ただし著者らは、季節による差は時期ごとに処理された動物の頭数や特徴の違いを反映している可能性があると述べています。
組織別の陽性率は、骨格筋63.3%、横隔膜63.0%、舌62.2%、心臓62.0%、食道56.3%で、食道がもっとも低く、その他の部位はほぼ同程度でした。
形態の観察では、シストに紡錘形、楕円形、不規則に細長い形の3種類が見られ、楕円形のシストは壁が厚く、他の2種類は壁が薄いことが報告されています。シストの中に詰まっている虫体(ブラディゾイト)にも、バナナ形、ソーセージ形、球形の3つの形が認められました。
遺伝子解析では、5つの試料から約655塩基の配列が得られ、5試料どうしの一致率は99.69%と非常に近いものでした。データベースとの比較では、イランのヒトコブラクダから得られた住肉胞子虫の配列にもっとも近く、98.4〜98.67%が一致しました(比較できた範囲は配列全体の69%)。系統解析でも、クウェートの5試料はこのイランの配列と同じグループにまとまりました。インドのラクダ由来の配列との一致率は95.11%でした。
研究が示すこと
この研究は、クウェートのヒトコブラクダで、目に見えない微小なシストによる住肉胞子虫の感染が広く起きていることを示しました。著者らは、複数の形のシストや虫体が見られたことと遺伝子の結果を合わせ、クウェートのラクダには多様な住肉胞子虫が広く分布していると考えています。
また、遺伝子の比較からは、クウェートの寄生虫がイランのラクダで報告された住肉胞子虫と遺伝的に近いことが分かりました。著者らはラクダの輸送や輸入が近縁の寄生虫の広がりに関わりうると指摘する一方、今回のデータから感染の具体的な由来は特定できていないとしています。さらに、今回用いた遺伝子領域は近縁の種どうしで差が小さいため、これだけでは種まで確実に見分けられないことも、著者らは限界として挙げています。
原著論文の著者・所属:Adawia Henedi(Parasitology Lab, Veterinary Laboratories, Public Authority of Agriculture Affairs and Fish Resources, Rabia, Kuwait)、Abdolhossein Dalimi(Parasitology Department, Medical Sciences Faculty, Tarbiat Modares University, Tehran, Iran)、Wessam Youssef(Department of Biotechnology, Animal Health Research Institute, Dokki, Egypt)、Ameen Abdel Baqi Ashour(Molecular Biology Lab, Veterinary Laboratories, PAAFR, Rabia, Kuwait)、Hoda Abdel Halim Taha(Zoology Department, Faculty of Science, Ain Shams University, Cairo, Egypt)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Adawia Henedi, Abdolhossein Dalimi, Wessam Youssef, et al. Morphological and Molecular Investigations of Sarcocystis spp. in Camelus dromedarius in Kuwait. World s Veterinary Journal 2026-09-25. DOI: 10.54203/scil.2026.wvj89. 原著ライセンス:CC BY.