この研究は、中国、マレーシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Psychology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

「画面を見た時間」だけでは分からないこと

世界では高齢化が進んでいます。論文が引用する世界保健機関(WHO)の資料によると、2030年には世界の6人に1人が60歳以上になり、この年齢層は2050年に21億人に達すると見込まれています。同じ時期に、レシピや健康情報、広告、人とのやり取りは、ますますSNSを通じて流れるようになりました。研究チームは、高齢期の食生活とSNSがどのように結びつくかを心理学の観点から整理するため、このミニレビューをまとめました。ミニレビューとは、既存の研究を選んで論点を絞って整理する短い総説のことです。

高齢期の食事は、さまざまな事情の影響を受けます。体が弱っていく状態(フレイル)、複数の病気を抱えること、食欲の変化、配偶者との死別、退職、一人暮らしなどです。先行研究では、一人で食事をすることが抑うつや生活の質の低さ、食品の多様性の低さと関連していると報告されています。

著者らは、SNSとの接点にはさまざまな種類があると指摘します。家族が共有した料理動画、夕食中に一人で見るライブ配信、おすすめ機能で表示されたサプリメントの宣伝、糖尿病の患者同士の支え合いグループなどです。これらはどれもSNS利用に数えられますが、働く心の仕組みは異なります。これらを同じ「スクリーンタイム(画面を見た時間)」としてまとめてしまうと、SNSが孤独を和らげているのか、信頼できる知識を届けているのか、気持ちに圧力をかけているのか、商品を売り込んでいるのかが見えなくなります。論文の中心的な主張は、利用時間だけで測るよりも、年齢に伴う条件を踏まえて、どんな内容に、どのように関わり、どんな状況で食事をしているかの組み合わせを見るほうが多くを明らかにできる、というものです。

どのように文献を集め、整理したか

研究チームは2026年8月12日に、学術データベースのWeb of Science Core CollectionとScopusを使い、加齢・SNS・食行動に関する語を組み合わせて検索しました。対象は2004年から2026年に出版された英語の論文と総説です。さらに、質的研究や理論、高齢者の栄養に関するガイダンスを追加で探しました。体系的な網羅を目指すのではなく、論点に合う文献を選んで統合する「ナラティブ」な方法をとっています。高齢期は主に60歳以上と定義し、50歳から始まる研究は中年期後半から高齢期にかけての証拠として扱いました。

統合に使った文献は26件です。内訳は、一次研究が15件、系統的レビューまたはスコーピングレビューが10件、概念的なレビューが1件でした。著者らは各文献を、証拠としての役割ごとに分類しています。高齢の利用者について、SNSへの接触と食行動の関係を直接調べた研究は1件だけでした。残りは、SNSを扱わない高齢期の食事環境の研究が5件、高齢者向けコンテンツの内容を評価した研究が2件、隣接するデジタルヘルス分野などの研究が10件、幅広い年齢層を対象にした仕組みや背景の研究が7件、若者を対象とし年齢による空白を示すための研究が1件です。著者らは、この分類が研究の質ではなく、総説の中での役割を示すものだと断っています。

四つの経路と、それぞれの証拠

著者らは、SNSと高齢期の食行動をつなぐ道筋として、互いに一部重なり合う四つの経路を示しました。一つの出来事が複数の経路に同時に関わることもあります。たとえば、信頼する仲間から制限の強い食事法を勧められると、人とのつながりは強まる一方で、十分な量を食べることとは衝突するかもしれません。そこで枠組みでは、やり取りの社会的な価値と、伝わるメッセージが栄養面で適切かどうかを分けて評価します。

一つ目は、人とのつながりと「デジタル共食」の経路です。デジタル共食とは、オンラインを介して誰かと食事の場を共有することを指します。リアルタイムのビデオ通話で一緒に食べる場合もあれば、写真やレシピを後からやり取りする場合も、配信を一方的に眺める場合もあります。人生の残り時間を意識するほど感情的に大切な関係を優先するようになる、という社会情動的選択性理論に基づき、著者らは次の仮説を示しました。接触の回数よりも、関係の継続性や双方向性のほうが、食事の規則性や食品の多様性をよく予測するだろう、というものです。隣接分野の研究では、会話エージェントを使ったランダム化試験で、果物・野菜・水分の摂取や孤独感に有意な改善は見られませんでした。

二つ目は、食の情報と栄養リテラシーの経路です。直接の証拠となった唯一の研究は、2型糖尿病を持つ60歳以上の短尺動画利用者257人を対象にした横断研究でした。この研究では、糖尿病に非常に有益と分類される動画内容が、自己申告による食事管理と自己管理全体の得点の高さと関連していました。また、視聴時間と自己管理全体の得点との関係は直線的ではありませんでした。一方、高齢者向けのYouTubeの栄養動画を評価した研究では、信頼性、網羅性、正確さに限界があり、専門家が発信した動画のほうが質が高いと報告されています。著者らは、人が肩書きや親しみといった手がかりで手早く判断する場合と、主張を吟味して丁寧に判断する場合があるという心理学の理論を使いました。そのうえで、情報源の手がかりと情報の分かりにくさが、信頼の判断、内容の理解、食品選択にどう影響するかを検証すべきだとしています。理解したうえで「自分の生活には合わない」と判断することも、主体的な選択として扱うべきだと述べています。

三つ目は、他人との比較、感情、食事の自己管理の経路です。幅広い年齢層を対象にしたレビューでは、オンライン上の比較が体型への悩みや摂食障害の症状と関連していました。60歳を超える成人では、体への不満が感情面の症状やSNSの問題的な使用と関連していました。著者らは、高齢期には見た目だけでなく、病気のコントロール、体力、自立が比較の対象になると指摘します。食欲が落ちている人や低栄養のおそれがある人にとっては、減量を称える投稿が不十分な摂取を後押しするおそれがあります。なお、50〜90歳を対象とした研究では、SNSの利用時間と栄養状態、孤独感、抑うつ、不安との間に有意な関連は見られませんでした。ただし、これは食行動そのものとは別の指標についての結果です。

四つ目は、商業的な手がかりとアルゴリズムによる情報選別の経路です。この経路には、高齢者を直接扱った証拠がありません。デジタルな食環境の研究や、若者向けの超加工食品の宣伝に関するレビューを手がかりにした仮説の段階にとどまります。著者らは、個人に関係の深い宣伝を繰り返し目にすると親しみや信頼感が高まり、それが食に関する判断につながる、という仕組みを提案しています。そのうえで、信頼、購入の意図、実際の購入、食べることは、それぞれ別に測る必要があると述べています。

この総説が示すもの

著者らは、年齢そのものが一つの心理的な特徴を示すわけではないと強調します。50代の研究対象者と、75歳以上の人や介助が必要な人、複数の病気を抱える人とでは、置かれた状況が大きく異なります。そのため、研究では年齢の分布、身体機能、介助の必要性、技術への慣れを併せて報告することが求められるとしています。また、この総説はナラティブな方法をとっているため、高齢者に関する直接の証拠がどこまで揃っているか、その質はどうかについては、正式な系統的レビューでの評価が残されていると述べています。

研究課題として著者らが挙げたのは、次のような取り組みです。本人の許可を得てSNSの利用記録を集め、インタビューや日誌と組み合わせること。時間の経過を追う研究や実験で、因果の向きを確かめること。たとえば、食欲の低下がきっかけで情報を探し始める可能性も検討します。さらに、スマートフォンに慣れた人以外にも参加を広げることです。

この論文の意義は、SNSがよいか悪いかを一律に問うのをやめた点にあります。大切な人とのつながり、情報を能動的に使う力、十分な栄養という観点を、高齢期の心理に関する一つの枠組みにまとめました。どのデジタル体験が、適切で十分な、そして楽しい食事を支えるのか。それを確かめるための見取り図と、まだ直接の証拠が乏しい領域を、著者らは示しています。

著者:Dahai Hu(School of Literature and Journalism, Xihua University)、Weichuan Luo(School of Literature and Journalism, Xihua University)、Xueqi Wu(Taylor’s Culinary Institute, Faculty of Social Sciences and Leisure Management, Taylor’s University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dahai Hu, Weichuan Luo, Xueqi Wu. Social media and eating behavior in later life: psychological pathways, evidence gaps, and an age-inclusive research agenda. Frontiers in Psychology 2026-10-12. DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1966068. 原著ライセンス:CC BY.