著者の所属・活動拠点の国は、クロアチア、スイスです。

掲載誌:Beverages

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

ヨーグルトドリンクや漬物の飲み汁、伝統的な穀物発酵飲料など、発酵という技術は世界各地の食文化を支えてきました。しかし発酵はもともと「おいしくするため」だけの技術だったわけではありません。冷蔵庫のない時代、傷みやすい牛乳や穀物、果物、野菜を長持ちさせ、社会が安定して食料を確保するための重要な手段でもあったのです。今回紹介する総説論文「未来の飲料としての伝統発酵飲料」は、こうした発酵飲料の歴史的な役割と、現代の食品科学がそれをどう受け継ぎ、発展させているのかを整理したものです。

発酵は文明を支えてきた基盤技術

この論文はまず、発酵が人類の歴史においてどのような役割を果たしてきたかを振り返っています。要旨によれば、発酵は保存性を高めるだけでなく、風味や栄養価、そして生理活性(体に働きかける性質)を高める効果も持ち合わせていたとされ、こうした性質が社会に食料の安定供給をもたらし、文明の発展を下支えしてきたと説明されています。牛乳、穀物、果物、野菜といった、その土地で手に入る原材料を活かして、ノンアルコール飲料からアルコール飲料、さらには機能性食品まで、実に多様な発酵食品・飲料が各地で生み出されてきたことが述べられています。

古代の発酵飲料の変遷と「本来の味」を取り戻す動き

この総説では、代表的な古代の発酵飲料がどのように進化してきたかについても取り上げられています。特に注目されているのが、独特の香りや食感といった、本来の官能的な特徴(センサリープロファイル)を再現しようとする現代の動きです。工業化によって画一的な味わいになりがちな発酵飲料に対して、伝統的な風味を見直し、復活させようとする潮流があることが紹介されています。

手作りの伝統製法から近代的な工業生産へ

もう一つの大きなテーマが、職人的な手作り製法から、現代的な工業生産への移行です。要旨では、標準化されたスターター培養(発酵を助ける微生物の種菌)や、精密に管理された製造条件を用いることで、世界市場向けに均一な品質の製品を作ることが可能になったと説明されています。さらに、こうした伝統的な発酵食品をより良いものにするために「精密発酵」と呼ばれる技術を活用する動きにも触れられており、伝統と最新技術を組み合わせる方向性が示されています。

この論文の位置づけと読むうえでの注意

この論文は、特定の実験やデータを新たに示した研究ではなく、既存の知見を整理してまとめた総説(レビュー)です。そのため、個々の発酵飲料の具体的な健康効果や成分の数値について断定的な結論が示されているわけではなく、あくまで発酵という技術の歴史的な意義と、伝統的な製法から現代的な製法への移行の全体像を概観したものと理解するのがよいでしょう。特定の飲料が病気を予防したり改善したりすると述べているわけではない点にも留意してください。

まとめ

発酵は、単なる保存技術にとどまらず、風味や栄養、そして文化そのものを育んできた奥深い技術であることが、この総説からうかがえます。同時に、古代から続く手作りの知恵と、現代の精密な食品科学とが交わることで、発酵飲料が改めて「未来の飲料」として見直されつつあるという視点は、日々何気なく口にしている発酵飲料の背景に思いを馳せるきっかけになりそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):未来の飲料としての伝統発酵飲料(ビバレッジズ・2026年07月)

著者:Kristina Habschied(Faculty of Food Technology Osijek, Josip Juraj Strossmayer University of Osijek, 31000 Osijek, Croatia)、Ingo Barkow(Swiss Institute for Information Science, University of Applied Sciences of the Grisons, 7000 Chur, Switzerland)、Krešimir Mastanjević(Faculty of Food Technology Osijek, Josip Juraj Strossmayer University of Osijek, 31000 Osijek, Croatia)